2021年5月9日(日)

 金正恩総書記を標的に上空から散布される脱北団体の「ビラ爆弾」 妹の与正氏が前面に出て反撃!

金正恩総書記及び妹の金与正氏の打倒を呼び掛けた「自由北韓運動連合」のビラ


 毎年4月にソウルとワシントンで同時に開催されている「北韓自由週間」(4月25ー30日)行事の一環として韓国の脱北団体「自由北韓運動連合」が4月22日から23日にかけて軍事境界線に近い韓国側エリアから金正恩総書記を非難する文言が書かれたビラを50万枚散布したことで南北間に緊張が走っている。

 ビラ撒きが再開されたことに憤慨した北朝鮮は金総書記の実妹、金与正党副部長(宣伝先導部担当)が再度乗り出し、5月2日に「我が国家に対する深刻な挑発と見なす」と非難の談話を発表し、韓国側に対して「それ相応の行動を検討する」と「対抗措置」を示唆した。

 ある種の「報復措置」を予告してから1週間が経つが、「自由北韓運動連合」が昨年5月にビラを飛ばした時は、金与正氏は6月3日に談話を発表し、開城にある南北共同連絡事務所の閉鎖をちらつかせたのを皮切りに13日にも談話を出していた。

 この2度目の談話では「委員長同志の絶対的権威を刺激し、神聖なる我々の側に汚物を押し込めるゴミどもとその妄動を黙認する者を絶対に許さない。連続的な行動で報復しなければならない」と述べ、「遠くない時期に、使い物にならない北南共同連絡所が形骸なく崩れる、悲惨な光景を見ることになるだろう」と予告し、実際にその3日後の16日に韓国が南北交流・協力の象徴として北朝鮮側の開城市に建設した南北共同事務所を爆破してしまった。

(参考資料:北朝鮮の「爆破」で吹っ飛んだ文大統領の壮大な「野望」 破綻した「朝鮮半島新経済地図構想」)

 脱北団体による北朝鮮向けビラ撒きは2003年頃から顕著となり、北朝鮮は脱北団体のビラ撒きを取り締まらない時の韓国政府に苛立ちを隠さず、批判を強めてきた。特にビラの内容が指導者への人身攻撃に集中していることから「最高尊厳の冒涜は許さない」と威嚇し、実際に実力行使に出たこともあった。

 例えば、2008年には「ビラまきを中断しなければ、開城工業団地事業に否定的な影響が及ぶだろう」と李明博政権を圧迫し、また、朴槿恵政権下の2014年には実際に14.5ミリ対空機関銃を10発ほど韓国に向け発射したこともあった。

 「自由北韓運動連合」が翌2015年に「天安艦撃沈事件」5周年にあたる3月26日前後に「金正恩暗殺」が主題の映画「インタビュー」のUSBDVDを散布する計画を明らかにするや人民軍参謀部が前面に出て「風船で飛ばそうが、無人機でばら撒こうが、容赦なく、発砲する」と恫喝し、周辺住民に「事前に退避するよう」通告していた。この時は、韓国も韓国合同参謀本部が「北朝鮮がビラを口実に挑発行動を行うなら、我が軍は強力に断固対処する」と応酬し、一触即発の状況に陥った。

 幸い、「自由北韓運動連合」が北朝鮮との軍事衝突を危惧した政府の説得に応じて散布を取りやめたことで軍事衝突という最悪の事態は避けられたが、ビラの問題で北朝鮮が韓国との関係断絶を宣言し、武力行使も辞さないと強く反発するのは一にも、二にもビラに書かれているその内容にあることは言うまでもない。中には金総書記の夫人の卑猥な合成写真をプリントしたものもあった。これまでばら撒かれたビラを数枚挙げてみることにする。

▲金総書記に懸賞金をかけたビラ

 金総書記の首に5千万ドルの懸賞金をかけ、指名手配したビラを「北朝鮮解放救国戦線」なる脱北団体が2016年8月に散布した。二つ折りのビラの左側には「懸賞手配 懸賞金:米国金5千万ドル(US弗50,000,000)罪名は殺人、人民迫害(人権蹂躙)−北朝鮮解放救国戦線」と印字され、右側には氏名、年齢、性格、罪状、さらには「血統」まで書かれてある。

 「白頭(革命)血統」ではなく、「在日(在日帰国者)の子供」であることを北朝鮮の国民に知らしめることで、後継者としての「正当性」に疑問を抱かせ、造反を促すことに狙いがあるようだ。

▲水爆実験に抗議し、散布されたビラ

北朝鮮が水素爆弾の実験に成功した2017年9月に散布された「自由北韓運動連合」のビラ。ビラには「民族の頭の上に水素爆弾を落とした核狂信者である金正恩を終わらせよ!」と書かれてある。

▲今年4月に散布されたビラ

第18回「北韓自由週間」(4月25-30日)」行事の一環として「自由北韓運動連合」が4月23日に散布したビラ。「餓えた人民の血と汗で核ロケット挑発に発狂している金正恩を人類が糾弾する」と書かれてある。

(参考資料:金正恩委員長の「ノーサンキュー」の一言で吹っ飛んだ文大統領の「淡い期待」)