2021年11月9日(火)

 元徴用工裁判で裁判官が交代へ 日本企業を弁護する法律事務所との関係が原因!

ソウル中央地方裁判所(JPSニュース提供)


 韓国の元徴用工の遺族が日本企業に戦時中に被った損害の賠償を求めている裁判は裁判官によっては真逆の判決が出ることで物議を呼んでいる。

 元徴用工の裁判は2018年10月30日に大法院(最高裁)で日本企業に賠償を命じる判決が下されたことで今春まではほぼすべて原告の勝利に終わっていたが今年は6月、8月、9月と立て続けにソウル中央地裁で原告の訴えが棄却されている。

 韓国内では原告の訴訟を却下した裁判官を「反民族的な判決をした」と非難し、弾劾を求める動きも表面化したが、そうした最中、同様の裁判を担当するソウル中央地裁の裁判官2人が「公正性」を問題にされ、担当から外されていたことがわかった。

 担当を外されたのは元徴用工遺族10人が日本製鉄(旧新日鉄住金)を訴えた民事裁判を担当する李ベッキュ裁判官と、同じく12人が日本コークス工業(旧三井鉱山)を相手に起こした民事裁判を受け持つ金サングン裁判官の2人。

 交代理由は裁判官になる前に「KIM&CHANG法律事務所(金・張法律事務所)」で勤務していた経歴を原告側の代理人である「民主社会のための弁護士の集い」(民弁)が問題にしたことによる。

 「民弁」は「日本企業の訴訟代理人の何人かは『金・張法律事務所』の「徴用工問題対策班」のメンバーとして知られている。『対策班』は李裁判官と金裁判官が「金・張法律事務所」で勤務していた時から始動していたので日本企業の代理人側と繋がっている可能性がある」として異議申し立てをしていた。「民弁」の主張とおり、李裁判官は2003年から2017年まで、金裁判官は2006年から2018年まで「金・張法律事務所」に勤務していたことからソウル中央地裁は「不必要な誤解を生んではならない」として変更に同意したと伝えられている。

 「金・張法律事務所」は創立者の金永?(キム・ヨンム=79歳)氏が1973年に立ち上げた韓国最大の法律事務所である。

 創業者の金氏はソウル大法学部出身で日韓国交正常化から2年後の1967年にシカゴに留学し、シカゴ大法学部で学位を取得した後、ハーバード大法学部で韓国人初の正規過程でのJD(法務博士)を取得し、当時話題を集めていた。

 その後、イリノイ州で弁護士資格を取り、国際法律会社の「ベイカー&マッケンジー」本社や東京事務所などで勤務し1973年に帰国し、今の法律事務所を立ち上げ、1997年の金融危機(「IMF危機」)の際に外国企業による数多くの韓国企業買収を手掛け、急成長させた。

 日本企業の訴訟も数多く手掛けており、元徴用工裁判では日本企業を弁護し、2005年には1審、2審で原告の訴えを棄却させていた。このことから金氏は「親日反民族行為者」の烙印を押され、三菱重工業を弁護した時は世論の激しい批判にさらされた。

 同事務所は梁承泰(ヤン・スンテ)大法院長(最高裁長官)の政権との「裁判取引」に連座した容疑で2018年12月に家宅捜索されている。元徴用工裁判で梁氏に会い、大法院の裁判を伸ばすようロビーしたことが問題とされていた。

 検察によると、朴槿恵(パク・クネ)政権下の2011年9月に大法院長に任命された梁氏は2015年12月に「日韓慰安婦合意」を交わした朴政権の意向を受け、2年6か月間審議せず、判決を遅らせていた。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2017年9月に退任した梁氏は国家情報院(国情院)の大統領選挙介入事件への「職権乱用」容疑などで2019年1月に逮捕されたが、韓国憲政史上初の大法院長の逮捕であった。

 ちなみに岸田文雄首相(当時外相)と2015年12月に「慰安婦合意」を交わした尹炳世(ユン・ビョンセ)外務部長官(外相)も朴槿恵政権下の2013年3月に外相に起用されるまでこの法律事務所の顧問をしていた。

 最高裁で判決が確定し、支払いを命じられている日本企業は日本製鉄、三菱重工、富山の機械メーカーの不二越など3件だが、この他に9件が最高裁で、20数件がソウルや光州地裁で現在、係争中にある。

(参考資料:韓国のメディアは「元徴用工敗訴」の判決をどう伝えているのか?)