2022年8月1日(月)

 尹錫悦政権下で本当に日韓関係は改善されるのか? 前途多難な4つの「不吉な予兆」

「東海(日本海)領土守護訓練)という名の「独島防御訓練」(韓国国防部HPから)


 韓国の政権が交代し、大統領、外相、それに駐日大使までが日本に融和的な人物に取って代わり、3人とも日本との関係改善に意欲を示す発言をしていることから日本国内ではメディアも含めてこじれた日韓関係が修復されるのではとの期待感が大きい。

 日本は安倍晋三政権から菅義偉政権、そして岸田文雄政権に代わっても同じ自民党政権なので対韓基本政策が変わることはない。韓国側から元徴用工問題で納得できる解決策が示されない限り関係改善は困難との立場で一貫している。しかし、政権が日本に厳しいスタンスの進歩政権から日本との関係を重視する保守政権に代わった韓国の状況は日本とは明らかに異なる。実際に前向きの変化はある。

 その一例が、韓国外交部が大法院(最高裁)に意見書を提出し、「政府は日本との外交協議を続けていて、官民協議会等を通して強制徴用被害者側をはじめとする国内各界各層の意見を取りまとめるなど多角的な外交的努力を傾けている」として日本企業の資産現金化に待ったをかけたことだ。こうした試みは文在寅(ムン・ジェイン)前政権の時にはなかった。

 日本とすれば、尹錫悦(ユン・ソクヨル)新政権の「有言実行」を待つのみだが、尹政権が言っていること、やっていることの中には文前政権とさほど変わらない面もある。支持率が急落したせいなのか、理由は定かではないが、少し雲行きが怪しい。幾つか、例を挙げてみよう。

 その1.2022年版防衛白書の中の竹島(韓国名:独島)の記述に反発し、強く抗議したことだ。

 尹政権は7月22日、岸田内閣が閣議決定した2022年版防衛白書に反発し、外交部は駐韓日本公使を、国防部は武官をそれぞれ呼んで抗議していた。

 尹大統領は大統領選挙投票日の約1か月前に行った韓国日報(2月7日付)とのインタビューで長年の懸案である領土問題について「独島(竹島)は何はともあれ、我々が支配しているわけだから」と述べ、「(大統領になったら)日本の領有権主張に対していちいち反論するようなことはしない」とも言っていた。騒げば、騒ぐほど、日本の領有権主張をクローズアップさせてしまう恐れがあるとの理由からだ。

 実際に、尹大統領は昨年12月に日本が金昌龍(キム・チャンリョン)警察庁長官(当時)の竹島上陸を激しく抗議した際に大統領候補の中では唯一日本批判を控え、沈黙を守っていた。

 しかし、現実には文前政権同様に今回、外交部は「独島に対するいかなる挑発にも断固対応する」と日本に警告を発し、また国防部も「独島領有権を棄損するいかなる挑発にも断固対応する」と強い言葉で日本を非難していた。

 その2.恒例の独島防御訓練を予定とおり強行したことだ。

 韓国は毎年上半期と下半期の年2回、「東海(日本海)領土守護訓練)という名の「独島防御訓練」を実施しているが、今年も上半期の訓練を7月29日に非公開で実施していた。

 今年は6月まで実施しなかったことから訓練そのものを廃止、もしくは年1回とし、上半期は中止したのではと思いきや、1か月遅れで行っていたのである。

 訓練開始を伸ばしたことや非公開にしたこと、さらに航空機を出動させずに艦艇だけの小規模訓練だったことについて日本のメディアは韓国の「聯合ニュース」の報道をそのまま引用し、「関係修復などを考慮して延期したようだ」(読売新聞)「日韓関係改善に意欲を示す尹政権が日本への過度な刺激を避けようとしたとみられる」(産経新聞)と好意的に伝えていたが、調べてみると、延期も非公開も文前政権の時にもあったことだ。

 例えば、延期の例としては、2019年の上半期の訓練が挙げられる。文在寅前政権はこの年、大阪での「G20サミット」(6月28日)出席のため訓練を延期していた。安倍晋三首相(当時)との首脳会談を実現させ、「元徴用工問題」でこじれた日韓関係の修復を目指していたからだ。

 結局、期待した首脳会談が不発に終わり、日本政府が輸出厳格化措置に続いて韓国をホワイト国から除外したため2か月遅れの8月に訓練を強行したが、文前政権が一時的にせよ軍事訓練を棚上げにしていたことは紛れもない事実である。

 尹政権もまた、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議の開催地・スペインでの岸田文雄首相との首脳会談(6月29日)を熱望していたことや朴進(パク・チン)外相を日本に派遣(7月16日)する前にやるのは得策ではないとの判断から遅らせたまでの話だ。

 また、訓練の非公開は異例なことではない。一昨年と昨年の下半期の訓練はいずれも非公開で行われていた。配慮でもなんでもない。事前に洩れれば、日本政府が反発し、中止を求めてくるからだ。日本に配慮する気があるならば、訓練そのものを延期、もしくは中止してしかるべきだ。米韓合同軍事演習同様に政治判断でいくらでも中止は可能だ。

 今年の訓練は「連合ニュース」によると、海軍の艦艇が中心で航空機の動員や竹島への上陸訓練はなかったのことだが、昨年下半期の訓練も空軍の投入こそあったものの今回同様に海兵隊による竹島上陸はなかった。

 その3.中断していた竹島周辺での韓国海洋調査船の調査を再開させたことだ。

 韓国海洋科学技術院の海洋調査船数隻が7月下旬に相次いで竹島周辺に出没していたようだ。海上保安庁の無線による注意喚起に対して韓国の調査船は竹島の領有権を主張するとともに「正当な調査をしている」と応答したようだ。

 尹政権は竹島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内で5月28日から行っていた韓国の海洋調査を日本政府が5月31日に「事前同意のない海洋調査の実施は受け入れられない」(松野官房長官)と猛烈に抗議し、即時中止を求めると、6月18日までの調査日程を繰り上げ、自主的に中断していた。

 尹政権のこの措置について当時、日本では「海洋調査は文前政権下で決まっていたことで政権発足間もない尹政権は知らなかった」とか「中止したのは日本との関係を不必要に荒立てたくないとの判断による」と伝えられていたが、尹政権が仮に海洋調査を再開させたならば、「知らなかった」とかの次元の話ではなく、前政権の政策の継承以外の何物でもない。

 その4.福島汚染水の海洋放出計画に懸念を表明したことだ。

 韓国政府は7月22日、東京電力福島第1原子力発電所の処理済み汚染水の海洋放出への対応を話し合う関係官庁会議を緊急開催し、日本の原子力規制当局が海洋放出計画を正式認可したことに対する懸念を日本側に伝えることを決めた。

 尹政権は懸念を伝える共に韓国政府独自の安全性検証に必要な情報の提供と汚染水の安全な処理のための責任ある対応を求めることにしているが、尹政権は当初、海洋放出に反対していなかった。

 尹大統領は大統領選挙期間中に福島原発事故について「福島原発が爆発したのではない。地震と津波により被害が大きくなったが、原発そのものが崩壊したのではない。従って、放射能の流出は基本的になかった」との認識を示し、IAEA(国際原子力機構)が海洋放出にお墨付きを出せば、容認する考えだった。

 しかし国会で多数の議席を握っている最大野党の「共に民主党」が「政府は海洋放出に明確に反対する立場を表明し、放出撤回を求めるための外交努力をすべき」と政府を突き上げ、また日本と海を接している済州道などを中心とした沿岸都市の市民団体による抗議運動が日増しに高まっていることで軌道修正を強いられているのが実情である。韓国外交部は今では「我々は海洋放出に賛成したことはない」と言い出す始末である。

 こうした懸案以外にも長崎県の端島炭坑(軍艦島)や佐渡島の金山などの世界文化遺産登録問題を巡っても朴普均(パク・ボギュン)文化体育観光部長官が7月29日に「日本は軍艦島などを世界文化遺産に登録した際の約束を忠実に履行すべきである」と述べ、「歴史の歪曲がないように外交部と緊密に協力していく」と、文政権同様に強硬な立場を表明していた。

 日韓両国は今月3日から5日までカンボジアで開催される東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議で日韓外相会談をやる方向で調整しているようだが、元徴用工問題で朴外相からどのような解決策が示されるのか、注目したい。

(参考資料:不人気な尹錫悦大統領 支持率下落により元徴用工問題で日本に譲歩ができなくなった!)