2022年12月23日(金)

 北朝鮮の「対露武器輸出疑惑」を検証する!

軍事パレードに登場した北朝鮮の携帯用対戦車ミサイル(労働新聞から)


 北朝鮮のロシアへの武器輸出の一報を最初に伝えたのは米国や韓国のメディアではなく、日本のメディアであった。

 「東京新聞」(12月22日付)は北朝鮮事情に詳しい関係筋の話として北朝鮮の武器輸出は「11月20日にロシアとの国境に近い羅先特別市の豆満江駅とロシア沿海州のハサン駅を結ぶ鉄道を通じて行われた」と伝えていた。ちなみにロ朝国際鉄道はシベリア鉄道に直結しているが、羅津―ハサン間は54km、ウラジオストクまでは450kmである。

 同紙によると、ロシアと北朝鮮は「数か月前から数百万ドル規模の砲弾やロケット弾の売却交渉を続けていた」とされ、今後数週間以内に数千発の対戦車砲弾や対空ミサイルなどを含む軍需物資が追加でロシアに引き渡される予定とのことである。

 この報道について韓国政府は「関連動向を注視している」との反応を示しているが、外交部も国防部もまた国家情報院もまだ確認に至っていないようだ。

 一方、当事者の北朝鮮は今朝(23日)、外務省報道官がこの報道について「荒唐無稽な世論操作であり、いかなる評価、解釈もする価値がない」と否定する談話を即座に発表していた。

 外務省報道官は「ありもしない露朝間の『武器取引』問題に対する我々の原則的な立場は変わることはない」として、「ロシアの人民は誰の軍事的支援がなくても自国の安全と領土完整を守護する意志と能力を持つ最も強靭な人民」と主張していた。実に素早い反応である。

 「東京新聞」の報道の後を追うかのように今度は米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官が今朝、「北朝鮮が11月にロシアの民間軍事会社『ワグネル』に武器を売却していた」と発表していた。

 カービー広報調整官が明かした露朝武器取引の内容は以下のとおりである。

 ▲北朝鮮からロシアに「ワグネル」が使用する歩兵用ロケットとミサイルが11月に伝達され、1回目の武器引き渡しが完了した。

 ▲北朝鮮は軍事装備の追加供給を計画している。

 ▲「ワグネル」に販売された武器はロシア政府に供給にされたものではない。

 ▲北朝鮮が伝達した兵器の規模はウクライナの戦況を大きく変えるほどのものではない。

 ▲北朝鮮政府は公にはロシアのウクライナ戦争を支援しないと言っているが、「ワグネル」に武器を渡しており、これは国連安保理の決議に反している。

 「ワグネル」に引き渡された武器の規模やルートが明らかにされていないことから「東京新聞」の報道と同じ脈絡なのかは不明である。

 カービー広報調整官の暴露に対して「ワグネル」のオーナーであるエフゲニー・プリゴジン氏は直ちに声明を出し、「誰もが知っているように北朝鮮は長い間、ロシアにいかなる武器も提供していない。米政府の発表は噂と憶測に過ぎない」と北朝鮮との武器取引を否定する声明を出していた。「ワグネル」は2014年に設立以後、ウクライナ東部ドンバス地方の親ロシア分離勢力を支援する一方でウクライナに数万人の傭兵を送るなどロシアを後方支援しているのは周知の事実である。

 正直、露朝の武器取引に関するカービー調整官のこれまでの発言を吟味すると、幾つか矛盾も散見される。

 例えば、今回は「歩兵用ロケットとミサイルが11月に伝達され、1回目の武器引き渡しが完了した」と発表しているが、カービー調整官は11月2日にも「北朝鮮がロシアにウクライナ戦争のため相当量の砲弾を秘密裏に提供したとの情報を得た」と述べていた。前回の情報が事実ならば、北朝鮮からの武器提供はすでに10月までには行われていたことになる。

 また、兵器の種類も前回は砲弾なのに対して今回はロケットとミサイルである。また、前回は「ロシアへの砲弾は最終目的地を偽造し、中東または北アフリカなどの国を経由してロシアに送られた」と発言していたが、今回は「ワグネル」に販売された際のルートについては明かしていなかった。

 さらにカービー調整官は当時、北朝鮮の砲弾が第3国を通じてロシアに渡ったかについては「確認中である」と語っていたが、常識に考えて、北朝鮮がロシアに武器を提供するならば、国連制裁委員会の監視の目が光っている第3国ルートよりも直接陸路、鉄道で輸送するのが最も安全なはずである。確実なルートがあるのになぜ、わざわざ危険を冒してまでわ遠回りして輸送するのか大いに疑問であった。その点で輸送手段については「東京新聞」の報道のほうがはるかに説得力がある。

 北朝鮮はバイデン政権が9月にも「ロシアが北朝鮮を対象にミサイルや砲弾の購入を打診していた」との情報を明らかにしていたが、この時も北朝鮮の国防省装備局副局長は「我々はこれまでロシアに武器や弾薬を輸出したことがなければ、これからもそのような計画はない」と全面否定していた。しかし、北朝鮮の否認は俄かに信じ難い。イラン当局もロシアにドローンを提供しておきながら、公式には否定していたからである。

 北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻以来、国連の場で「ロシアは米国1極の世界支配を変えるため戦っている」とロシアへの連帯を表明している。金正恩(キム・ジョンウン)総書記もプーチン大統領の誕生日(10月7日)に送った祝電で「米国とその追随勢力の挑戦と脅威に打ち勝ち、国際的な正義を実現するための闘争での相互支持」を強調していた。

 従って、ロシアが弾薬や砲弾、ミサイル不足に陥っているならば支援したとしても決して不思議なことではない。北朝鮮にはベトナム戦争の時に北ベトナムを、第4次中東戦争でもエジプトなど中東諸国を、そして「イイ戦争」でもイランに武器支援をしてきた否定し難い「過去」がある。そもそも北朝鮮は武器の輸出を禁じた国連安保理制裁決議「1874号」(2009年6月13日に採択)を認めておらず、実際にこれまで一度も従ったことはない。

 今後、北朝鮮は砲弾や短距離ミサイルに留まらずロシアの求めがあれば、多連装ロケット(放射砲)、さらには既存のロシア製対戦車ミサイル「RPG―7」よりもはるかに小型化された携帯用対戦車ミサイルなどを提供する可能性が高い。