2022年7月15日(金)

 台湾有事で「日米韓」VS「中朝」の対決構図! 元米国防長官が「日韓の介入」は不可避と発言

バイデン大統領、岸田文雄首相、尹錫悦大統領、金正恩総書記、習近平主席(筆者加工)


 南シナ海や東シナ海をめぐる米中の対立と韓国の保守政権誕生により台湾海峡や朝鮮半島はいつ軍事衝突が起きても不思議ではない状況に置かれているが、3日前にトランプ政権時の国防長官だったマーク・エスパー氏が重大な発言をしていた。「台湾と中国が衝突して米国が介入すれば、韓国と日本もどのような方法であれ介入することになる」と予言したのである。

 この発言は米国の国営放送「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」とのインタビューで「中国が台湾を攻撃する場合、韓国軍も米軍を支援して軍事介入をすることになると思うか」と聞かれた際に飛び出したものだが、エスパー元長官は 「台湾海峡で中国と台湾の間に衝突が発生して米国が介入する場合、日本と韓国がどのような形であれ介入しない状況は想像し難い 」と語っていた。

 大胆発言はこの一言で終わらず、エスパー氏はさらに「 戦争遂行への支援になろうが、貿易と経済交易の中断になろうが、台湾有事の際に領域内国家は紛争に巻き込まれて選択を強要されるだろう 」と踏み込んでいた。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は自由主義陣営の一員として米国が主導する「インド太平洋戦略」にコミットすることを表明しているものの今後も中国を敵視せず、孤立させず、パートナシップの関係を維持する方針である。

 韓国が米国主導の「反中戦線」に加わらない、あるいは加われない理由は輸出の25%、輸入の23%を中国に依存している経済的な理由が一番大きいが、エスパー元長官は「韓国は中国のすぐ傍にあり、中国が最も大きな貿易国という現実を私も認識しているが、中国は米国にとっても最も大きな貿易国である」と、米国も韓国と同じ問題を抱えているとしたうえで「開放されたインド・太平洋を悪化させて隣国を強圧しようとする共産主義国家を相手に難しい決定を下すことが求められる」と、その理由を説明していた。

 そのうえで韓国のこれまでの「安保は米国、経済は中国」の二股政策について「妥協しようとすれば、正しい価値を守ることはできない。 中国を経済的なパートナー、米国を安保パートナーに決めるのは長続きできない」と断言していた。

 エスパー元長官の近未来予想では米中が台湾海峡で衝突すれば、韓国も日本も自動的に巻き込まれ、否が応でも同盟国として米国に協力せざるを得ない局面が訪れるとのことだが、南シナ海であれ、台湾海峡であれ、尖閣諸島であれ、米軍が中国人民解放軍と一戦を交えるような事態になれば、駐韓米軍基地や在日米軍基地が米軍の拠点、後方基地となり、戦闘機や軍艦が出動することになるので当然と言えば、当然のことである。

 米国が求める日韓の支援、協力がロシアのウクライナ侵攻でNATOが行っているような武器供与になるのか、財政支援になるのか、それとも対中経済制裁になるのかは定かではないが、 台湾有事が現実になれば、中国の同盟国である北朝鮮もロシアを支援しているベラルーシのように何らかの形で関わってくるであろう。むしろ北朝鮮の場合、ベラルーシ以上に積極的に対中軍事支援を行う可能性が高い。

 奇しくもエスパー元長官の発言の前日(7月11日)は中朝友好条約締結61周年の日であった。

 北朝鮮の金日成(キム・イルソン)首相(当時)が1961年7月に訪中し、周恩来首相(当時)との間で結び、北朝鮮の建国記念日(9月9日)の翌日に発行されたこの条約は単なる友好条約ではない。軍事分野での協力と相互援助を誓った条約である。

 正式には「中朝友好協力相互援助条約」と呼ばれるこの条約の第一条には「両締約国はアジア及び全世界の平和並びに各国人民の安全を守るため引き続きあらゆる努力を払う」ことが謳われているが、注目すべきは次の第二条である。

 「両締約国は共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。 いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える

 要は一方が攻撃された場合、遅滞なく軍事的に自動介入することになっている。簡単に言えば、「参戦」することになっているのである。

 この条約は20年ごとに自動更新されるが、中国内では一時、北朝鮮が中国の説得を無視し、核実験と長距離弾道ミサイル発射を続け、朝鮮半島で軍事的緊張を高めていることへの反発もあって有事の際に米国との不必要な軍事衝突を避けるため軍事的に自動介入する「参戦条項」を削除すべきとの声もあったが、そのまま手付かずの状態にある。

 一部には「参戦条項」は削除されてないものの実質的には形骸化されているとの見方もあるが、正式に削除、修正されてない限り、効力があることは言うまでもない。

 朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」はこの日(7月11日)、2018年からの4度の習近平・金正恩(キム・ジョンウン)首脳会談の結果、中朝の同志的信頼が一段と強まり、「何を持ってしてでも壊すことのできない不敗の戦略的関係を築き、両国人民の偉大な団結を天下に誇示した」との記事を掲載していた。

 「労働新聞」のこの記事で着目すべきは「中朝両国を目に入ったとげのようにみる米国などの敵対勢力は中国の発展を抑制するため全方位的な対中国包囲形成に狂奔している」と指摘し、「社会主義を核とする朝中親善関係を一層強化発展させる道で常に中国と共にいる」と強調していたことだ。

 北朝鮮のエールに対して中国共産党機関紙「人民日報」も同じ日に「良い同志であり、良い隣人として中国と政府は中朝関係をしっかりと守り、強固に発展させるという堅固な立場を変えないであろう」と強調したうえで「 両国は各分野で協力を積極的に推進し、お互いの重大な関心事を相互支持及び声援し、国際多者舞台で緊密な調律と協力を維持し、双方の共通の利益を力強く守護し、中朝の時代的な価値を表している 」との記事を載せていた。

 北朝鮮は台湾問題との関連で昨年10月22日に朴明浩(パク・ミョンホ)外務次官が興味深い談話を発表し、「台湾の情勢は朝鮮半島の情勢と決して無関係ではない。台湾問題に対する米国の無分別な干渉は朝鮮半島の危うい情勢緊張を一層促しかねない潜在的な危険性を内包している」と指摘し、「我々は台湾問題に関連する米国の覇権主義的行為を朝鮮半島情勢との連関の中で覚醒を持って引き続き注視するであろう」と語っている。

 想定される 北朝鮮の協力としては直接的な介入や援軍などではなく、台湾有事の際に投入される駐韓米軍と在日米軍を牽制する「助っ人」、即ち駐韓米軍と駐日米軍の動きを封じ込めることにあるようだ。

 仮にこうしたシナリオを中朝が共有しているならば、中国は北朝鮮のミサイル発射や核実験を反対せず、黙認するのではなかろうか。