2022年6月1日(水)

 北朝鮮はやる? やらない?  7度目の核実験の「Xデー」はいつ?

爆破される前の豊渓里核実験場3番坑道(韓国合同取材団撮影)


 米韓当局は咸鏡北道吉州郡の豊渓里の核実験場の3番坑道の修復工事が事実上完了し、核起爆装置の作動試験も終了していることから金正恩(キム・ジョンウン)総書記が決断すれば、北朝鮮はいつでも核実験ができる状況にあるとみている。

 核実験のタイミングについては米CIAもサリバン大統領補佐官も当初はバイデン大統領の日韓歴訪(5月20日〜24日)と予測していたが、結局この期間には核実験は行われなかった。

 バイデン大統領の極東訪問中の核実験説を唱えていた米戦略国際問題研究所(CSIS)のビクター・チャ副所長は「北朝鮮はこれまで米国の主な祝日を妨害する行動をとってきた」として米国のメモリアルデー(戦没将兵追悼記念日、5月30日)の連休中に核実験を強行する可能性が高いと、核実験の時期を軌道修正していた。しかし、6月1日午後12時30分現在、北朝鮮にそうした動きはまだみられない。北朝鮮は過去6回の核実験のうち午後12時30分に実施した前回(2017年9月3日)を除くと、すべて午前中までに終えていた。

 金総書記が核爆弾の小型化、軽量化を指示していることから核実験を行うのは既成事実化、あるいは常識化されているが、北朝鮮は過去に核実験を匂わしながらも、その年にやらなかったケースも何度かある。例えば、2010年の年である。

 この年は、今回同様にオバマ大統領(当時)の訪韓(11月10日)に合わせて3度目の核実験が10月から11月に掛けて取り沙汰されていた。また、翌2012年にも4月から5月にかけて北朝鮮が核実験の兆候を示したことから米韓当局は警戒態勢を敷いたが、北朝鮮の動きは単なるアドバルーンに終わっていた。

 実際に北朝鮮が3度目の核実験を実施したのは2013年(2月12日)で、この時は事前に「自衛的軍事力を質量ともに強化するため物理的対応措置を取る」との外務省声明(1月23日)と「高い水準の核実験」を示唆する国防委員会の声明(1月24日)が相次いで出されていた。

 さらに2014年の年も北朝鮮が国連安保理の北朝鮮非難声明に反発し、3月30日に外務省声明を出して、4度目の核実験を示唆したため4月から5月に掛けて核実験の「Xデー」が囁かれたことがあった。

 この時も今回同様に実験場で地震波探知など計測装備や計測装備と地上統制所を繋ぐ通信ケーブルなどが設置され、坑道の入り口も閉じられたことから朴槿恵大統領(当時)は「いつでもできる核実験が行える状態にある」と国際社会に警鐘を鳴らしていた。しかし、北朝鮮が4度目の核実験を行ったのはそれから約2年後の2016年1月であった。

 結果として、北朝鮮による核実験場での一連の動きはいずれも心理戦の一環、カモフラージュであった。米国をけん制するための煙幕で、最初からその気がなかった。米韓合同軍事演習の中止など米国から譲歩を引き出すため「核カード」をちらつかせだけであった。しかし、その一方で、陽動作戦を駆使し、発射を強行した過去もある。

 例えば、3度目の核実験(2013年2月12日)の時は2月8日に「米国などは3回目の核実験と早合点し、実行すれば先制攻撃すると騒いでいる」との談話を発表し、西側の「核騒動」を一笑しておきながら実際には4日後に核ボタンを押していた。

 また、核実験ではないが、2012年12月12日のテポドン(人工衛星)の発射の時も、4日前に朝鮮宇宙航空技術委員会の名で発射延期を示唆し、かつ直前に発射台から一旦、ミサイルを取り外すようなしぐさをしながら、意表を突く形で発射を強行していた。

 今月は12日が米朝首脳会談4周年、25日が朝鮮戦争勃発記念日。29日が金正恩国務委員長就任日があり、来月は4日が米独立記念日、8日が金日成主席の命日、17日が金正恩元帥称号授与10周年、27日が朝鮮戦争休戦協定日と、記念日が目白押しである。

 核ボタンを押すのか、押さないのか、当事者である北朝鮮以外は誰にもわからないのが実情だ。そして、その決断は金総書記の胸三寸にある。