2022年6月19日(日)

 尹大統領は元慰安婦問題で日本から謝罪を取り付けられる!? 日韓首脳会談に消極的な日本、積極的な韓国!

元慰安婦の李容洙さんを励ましていた尹錫悦大統領(尹大統領選挙対策本部のHPから)


 大統領選挙期間中から日本との関係改善に意欲を示していた尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は今月29日からスペインで開かれるNATO首脳会議に出席する折に岸田文雄首相との会談を希望しているが、日本側の反応が鈍いことに気をもんでいる。

 尹大統領は大統領選挙期間中から悪化の一途を辿っていた日韓関係についてシャトル外交を復元させ、高官協議チャネルを稼働させ、元徴用工や元慰安婦問題や日本の対韓輸出厳格化措置などの懸案を包括的に解決することを公約にしていた。

 昨年11月11日の自身のフェイスブックにも「日本で岸田文雄首相が第101代首相に選出されたニュースを見て、金大中(キム・デジュン)大統領を思い出した」として、「大統領になれば就任後直ちに韓日関係改善に乗り出す。『金大中・小渕宣言』を改めて確認することから始まる」と書き込み、何を思ったのか、その日、南西部の全羅南道・木浦にある金大中ノーベル平和賞記念館を訪れていた。

 「金大中・小渕宣言」に基づけば日韓関係は万事上手く行くとの尹大統領のこのフェイスブックに当時、ライバルの李在明(イ・ジェミョン)候補は自身のフェイスブックで「『金大中・小渕宣言』は日本が『植民地支配により韓国国民に多大な損害と苦痛』を与えた過去を認め、痛切な反省と謝罪を前提に両国が未来に進もうという宣言だ」と述べ、「今の日本はこの宣言が発表された時の日本ではない。すっかり右傾化した」と綴り、尹大統領が「「金大中・小渕宣言」を持ち出したのは文在寅政権の対日姿勢を批判するためである」と、批判していた。

 それでも、尹大統領は意に介さず、今年2月7日に「韓国日報」とのインタビューでは「経済・安保協力を構築し、信頼関係を築けば、日本は謝罪し、賠償するはずだ。未来志向の関係が確立されれば十分に解決できる問題である」と日関係修復に楽観的な見通しを述べていた。

 大統領に当選してからも岸田首相との電話会談(3月11日)では「「両国の懸案を合理的にかつ相互共同利益に合致するよう、解決していくことが重要だ」と強調し、また相星孝一 駐韓日本大使との会談(3月28日)でも「日韓関係には解決の難しい問題もあるが、誠実さを持ち、互いに疎通して対話をすれば、難しい問題ではない」とのべ、大統領就任式(5月10日)に出席した林芳正外相には「早期に首相にお目にかかれることを期待する」と、岸田首相との首脳会談に意気込みを示していた。それだけに日本側のつれない対応には当惑しているようだ。

 日本がNATO首脳会議に合わせて日韓首脳会談を開くことに乗り気でない以上、韓国としても体面上、これ以上拘るわけにはいかず、外交部は一転「韓日首脳会談を必ずやるべきだとは考えていない」と言い出し始めた。それでも、尹大統領自身が「どのような形であれ、首脳が会うことが重要ではないか。まだすべての可能性が開かれている」と口にしているように韓国がまだ日韓首脳会談に未練を持っているのは間違いなさそうだ。

 日本が首脳会談を躊躇っている理由の一つには韓国の調査船が先月末に日本の抗議を無視し、竹島(韓国名:独島)周辺で海洋調査を行ったことへの反発もあると伝えられているが、何よりも元徴用工や元慰安婦問題で韓国が解決策を示さないことに苛立ちを覚えていることにあるようだ。韓国の政権が日本に厳しいスタンスの進歩政権から日本寄りの保守政権に変わったからといって前政権に回答を迫っていた問題を棚上げにしたままで首脳会談に臨むのは参議院選挙を前にして得策ではないとの判断も働いているようだ。

 尹政権は韓国の最高裁が日本企業に賠償金の支払を命じた元徴用工問題では▲日本企業の資産を現金化させない▲賠償金は韓国政府が負担するなどの腹案を持っているようだが、そのためにはまずは首脳会談を行い、日本からそれ相応の協力を取り付けたい考えのようだ。そのことは、尹大統領をはじめ朴進(パク・チン)外相や日本側と実務協議を担当している趙賢東(チョ・ヒョンドン)第1次官らが「共通の利益に合った方向につながるように両国が共に努力していかなければならない」と再三強調していることからも明らかだ。

 元徴用工問題で韓国が全面的に譲歩すれば、日本の対応次第では折り合いが付きそうだが、問題なのは元慰安婦問題の扱いである。

 尹大統領は大統領選期間中の昨年9月、大邱(慶尚北道)市内にある「慰安婦記念館」を訪れた際、短時間ながら元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さん(94歳)に会っている。

 李元慰安婦から「会いに来ていただき、涙が出た。私は慰安婦問題を必ず解決してくれる人を大統領選挙では選ぶ。公約してもらえるか」と迫られた際、「大統領になれば、また仮になれなかったとしても私は必ず日本から謝罪を取り付ける。お婆さんらの心の傷を必ず癒すようにする」と指切りして約束していた。日本政府から再度謝罪を取り付けると言う点では文在寅(ムン・ジェイン)前大統領と全く同じスタンスだ。

 選挙対策本部が大統領になるには進歩派の切り崩しが必要と判断し、李元慰安婦との面会をセットしたのかもしれないが、李元慰安婦とのツーショットの写真がフェイクブックやツイッターで公開されると、尹支持層からは「尹候補、大統領になって元慰安婦の恨みをはらしてください」「尹候補は約束をすれば、必ず守る人だ」「李さん、尹候補が謝罪を取り付けるので余生を楽にお過ごしください」などの書き込みが殺到していた。

 慰安婦問題のシンボル的存在でもあるその李さんが先週(13日)24時間ニュース番組「YTN」に出演し、「これ以上待てない。私が死ぬ前に解決してもらいたい。尹大統領が私との約束を守ってくれるものと信じている」と涙ながらに訴えていた。

 韓国政府に登録されていた元慰安婦は240名いたが、現在は李さんを含め生存者は11人で、全員が90歳を過ぎている。

 元慰安婦らは今年3月に国連人権特別報告官出席の下、ソウルで記者会見を開き、元慰安婦問題の国際司法裁判所(ICJ)への付託が無理ならば、国連拷問防止委員会(CAT)で取り上げてもらいたいと文政権を突き上げていたが、文前大統領は取り合わなかった。尹大統領もまた、元慰安婦らが大統領選挙に立候補した各候補への「大統領就任100日後にCATに付託してくれるのか」との質問状に唯一回答しなかった。

 「先慰安婦問題解決、後日韓関係改善」を唱える李さんら元慰安婦は尹政権に対して「慰安婦問題解決なくして、日韓関係改善はあり得ない」と釘を刺していることから尹大統領もまた、「被害者中心の問題解決」を優先させていた文前大統領同様に同様のジレンマに陥っている。

 「拉致問題解決なくして、日朝国交正常化はない」の日朝関係同様に日韓関係もまた、一筋縄で行きそうにもない。