2022年6月29日(水)

 凄まじい北朝鮮の「日本批判」 日本の「北朝鮮脅威論」VS北朝鮮の「日本警戒論」

岸田文雄首相と金正恩総書記(岸田首相公式サイトと労働新聞から筆者キャプチャー)


 本日夜9時半にスペインで岸田首相とバイデン大統領、それに尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領による日米韓3か国首脳会談が約5年ぶりに開催され、7度目の核実験の動きを示している北朝鮮の「脅威」への対処方策が話し合われるが、気になるのは北朝鮮が外務省のホームページを通じて、あるいは国営の「朝鮮中央通信」を通じて猛烈な日本批判を展開していることだ。

 北朝鮮外務省が4年前に開設したホームページには傘下機関の「日本研究所」の正体不明の研究員らが代わる代わる日本を批判する論評を載せているが、一から十まで批判、非難のオンパレードである。件数を数えると、1月5本、2月8本、3月6本、4月4本、5月6本、6月(29日現在)6本と、その数は35本に上る。

 中身をみると、過去の清算、拉致問題、靖国参拝、憲法改正、福島原発処理水、竹島問題から北朝鮮と関係のない台湾問題や日露問題まで様々なテーマを取り上げているが、その多くは日本の防衛論議や軍備増強に向けられていた。

 北朝鮮は年初1月早々から「必ず払うことになる高い代償」 (31日)との見出しを掲げ、日本とフランスが1月20日に行った外交・防衛当局者による「2プラス2」のオンライン会談を槍玉に挙げていた。日仏両国が北朝鮮による核・ミサイル開発の進展に強い懸念を示し、国連安保理決議の履行を求めたことへの反発である。

 翌2月は竹島(韓国名:独島)問題との関連で「独島は永遠に朝鮮の領土」 と主張する論評を3日連続で載せていたが、8本の中では北朝鮮の中距離弾道ミサイル「火星12」の発射を批判した日本の対応を「主権国家の尊厳と自主権に対する許しがたい侵害」(1日)と断じた論評と、日本国内の反撃能力保有議論を 「敵基地攻撃能力保有は再侵企図の直接的な発露」(27日)と非難した論評が目についた。

 また、3月はロシアのウクライナ侵攻後に沸騰した「核共有論」と国連安保理改革議論に非難の矛先を向け、「核共有論」に関しては「日本は何のため核共有論を持ち出しているのか」(14日)の見出しを、また安保理改革については 「日本は何のため安保理改革を持ち出そうとしているのか」(25日)の見出しを付け、日本を牽制していた。

 さらに4月は専守防衛の名称変更や解釈変更の動きを批判した論評(「世人を欺く巧妙な『名称変更』遊び」 )が載り、3日、7日、14日、16日、20日、31日と、日本研究員らの論評が掲載された5月は自民党の佐藤正久外交部会長が北海道に新型中距離ミサイルの配備の必要性について言及したことを酷評した14日の論評( 「何を企てての『反撃能力』の保有なのか」)が際立っていた。

 今月もすでに日本が武器や弾薬を海外に輸出できるようにするため防衛装備移転3原則の改称を検討していることを「世界平和と安定の破壊者」(14日)と批判した論評の他に統合司令部新設の動きを「再侵準備のための危険な機構操作策動」(20日)と断じ、アジア安保会議での日米韓国防力強化措置の合意を 「地域の平和と安定を破壊する危険千万な軍事的挑発」(22日)と糾弾した論評を掲載していた。

 これだけではない。日本政府が自衛隊の戦闘能力を強化するためミサイルと弾薬の保有量を増やす意向を表明したことについても 「海外侵略準備完成を企てる無分別な軍事妄動」(24日)との見出しを掲げ、日本を叩いていた。

 直近では一昨日(27日)、日本が国連で欧米と共同で拉致問題での国際的協調関係を呼び掛けたことについて 「くだらない反共和国拉致騒動で得るものは何もない」 との見出しの論評を載せ、今日(29日)もシンガポールでのアジア安全保障会議での基調講演で岸田首相が「自由で開かれた海洋秩序確立」の必要性を強調したことについて 「日本の無分別な海外傍聴策動は破滅だけを招く」との「ミン・ギョンム」研究員の論評を掲載していた。

 一方、「朝鮮中央通信」は1月には自民党安全保障調査会が「国家安全保障戦略」と「防衛計画大綱」「中期防衛力整備計画」の改正案を作成して政府に提出する動きを 「危険極まりない段階に至った日本の再侵略策動」 (6日)と批評した論評と、海上自衛隊の護衛艦「さみだれ」の中東海域派遣を「海外派兵の執拗な推進は侵略へ進む道である」 (20日)と断じた論評を2本配信していた。

 翌2月は1本もなく、3月は「危険極まりない再侵略野望の噴出」(3日)と「海外侵略を狙った危険な軍事的動き」(30日)の見出しの論評の2本だけだったが、4月になるとその数は倍増し「日本の再侵略策動は永遠な破滅に繋がるだろう」(6日)、「日本の武力増強は自衛のためではない」(13日)、「日本が企む『敵基地攻撃能力』の危険性はどこに」(20日)、 「軍国主義戦犯を賛美するのはアジア諸国の人民に対する我慢できない冒?」 (27日)と1週間置きに計4本配信するなど日本の軍事動向に神経を尖らせていた。

 先月(5月)の「日本論評」は「過去の犯罪を覆い隠そうとするほど罪科はより大きくなるものだ」 (24日)の見出しの下、岸田首相が訪日したドイツのショルツ首相にベルリン市内に設置されている慰安婦像の撤去を求めたことを批評していたが、日本がミサイルと弾薬の数量を増やす方針が明らかになった今月は 「海外侵略準備の完成を狙った無分別な軍事的妄動」 (24日)と題する論評と、8月に予定されている「パシフィックドラゴン」という名称の日米韓合同練習を問題視し、 「何を企てた合同軍事演習なのか」との見出しの論評を2本配信していた。

 北朝鮮の上半期の「対日バッシング」は「朝鮮中央通信」の論評を加えると、その頻度は1月7本、2月8本、3月8本、4月8本、5月7本、6月8本と、計46本と、昨年の上半期よりも多い。

 ちなみに昨年の上半期は1月3本、2月3本、3月6本、4月14本、5月7本(6月不明)で日本の外交青書、福島処理水放出、憲法9条への自衛隊明記、東京五輪ホームページの竹島明記、元徴用工・元慰安婦問題などが主題だった。

(参考資料:異様な北朝鮮の日本バッシング! 「日韓」よりも最悪の「日朝」)

 こうした状況を考えると、拉致問題解決のため岸田首相があらゆるチャンスを捉え、無条件で金正恩(キム・ジョンウン)委員長と差しで会うことはどうみても無理のようだ。

(参考資料:北朝鮮が日本を敵視する理由(1) 朝鮮人民革命軍創建90周年との因果関係

(参考資料:北朝鮮が日本を敵視する理由(2) 日本が朝鮮戦争に加担した恨み)