2022年5月6日(金)

 「プーチンと金正恩」は核先制使用では「一卵性双生児」!

プーチン大統領と金正恩総書記(労働新聞から)


 昨今、核ボタンを手にした世界の指導者で核使用について言及したのはトランプ前大統領とプーチン大統領、そして金正恩(キム・ジョンウン)総書記の3人しかいない。

 トランプ前大統領は金総書記と「チキンレース」を演じていた2018年に金総書記が新年辞で「米国は決して私と我が国を相手に戦争を起こせない。米本土全域が我々の核打撃射程圏内にあり、核ボダンが私の事務室のテーブルの上に常にあるということは決して脅しでもなく現実であることをはっきりと知るべきだ」と米国を威嚇したことに反応し、「金正恩に私も核のボタンを持っていることを知らせてくれ。私のものは彼のものよりもずっと大きく、もっとパワフルだ。そして、私のボタンは機能する!」と発言していた。

 不倶戴天の関係にあった両国指導者のこのバトルは1962年の米ソによるキューバ―危機以来、56年ぶりに核戦争の危機を誘発した。幸い、6月にシンガポールで史上初の米朝首脳会談が実現したことで核戦争の危機は去ったが、今再び、欧州で、また東アジアでその危機が到来しつつある。そのカギを握る人物こそがプーチン大統領であり、また金総書記でもある。

 トランプ前大統領は首脳会談後に金総書記について驚いたことに「恋に落ちた」と語っていた。仮にそのとおりならば、当時予測不能と言われたトランプ前大統領と統制不能と称された金総書記との関係以上に馬が合うのがおそらくプーチン大統領と金総書記ではなかろうか。何よりも米国など敵対勢力に接する対応だけでなく、有事の際の核使用でも同じロジック、思考回路を持っているからだ。

(世界潮流に逆行し、世界で唯一、一貫して「ロシア支持」表明している北朝鮮はいつ軍事支援に踏み切る!?)

 プーチン大統領は ウクライナ侵攻の日「誰であっても我々を妨害し、我が国と国民を脅かすならばその結果は歴史上、一度も経験したこのないことになる」と述べ、その2日後の27日には核抑止部隊に特別警戒態勢を取るよう指示していた。

 また、ロシア国防省が4月20日、メガトン級の核弾頭15個まで搭載可能な最大射程は1万8000kmの新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」(NATO名称は「サタン2」)の発射実験に成功した時もプーチン大統領は「当分の間、これに変わるだけの兵器はない。ロシアを脅かす敵らに再考を迫るだろう」と語っていた。 

 さらに、4月27日にはサンクトペテルブルクでの議会演説でウクライナへの軍事作戦に介入するNATO諸国に対して「外部から干渉する者は電光石火の対抗措置を受けることになる。ロシアは他国にない兵器を保有しており、必要に応じて使う。誰もがそのことを知っておくべきだ」と威嚇していた。では、金総書記はどうか?

 金総書記は 2016年5月の第7回党大会で核保有を宣言しながらも「核を先に使用しない」と約束していた。また、昨年(2021年)の新年辞でも「敵対勢力が我々を狙って核を使用しない限り、核兵器を乱用しないことを再度確認する」と公言していた。しかし、ロシアがウクライナに侵攻し、欧米対ロシアの「新冷戦」が始まると、態度を豹変させた。

 大陸間弾道ミサイル「火星17型」の発射(3月24日)に成功すると「誰であっても我が国家の安定を侵害すれば、必ず徹底した代価を払わすことをはっきりと認識させる」と述べ、そして、4月25日に行われた軍事パレードでの演説では「我々の核武力の基本使命は戦争を抑止することにあるが、我々が望まない状況が造成された場合は戦争防止という一つの使命だけに束縛されるわけにはいかない。いかなる勢力であれ、我が国家の基本利益を侵奪すれば、我が核武力は意に反し、自らの二つ目の使命を断固決行せざるを得ない」と一転、核の先制攻撃を示唆した。

 さらに5日後には党中央員会本部庁舎で軍事パレードに参加した軍指揮官らを前に「敵対勢力による持続的で加重される核脅威を含むすべての危険な試みと危険な行動に対しては先制的に徹底的に制圧粉砕するため我が革命武力の絶対的優勢を確固維持する」と強調していた。

 ロシアの前大統領であるドミトリー・メドベージェフ国家安全保障会議副議長はプーチン政権が核兵器使用を決心する条件の一つとして国家存立が脅かされる在来式兵器攻撃を受けた場合を挙げていたが、それだけでなく、国際社会ではロシアがウクライナ戦争で守勢に追い込まれた時に核兵器使用に踏み切る可能性が取り沙汰されている。国家の存亡を賭けてウクライナに侵攻したロシアが局面転換のため核兵器を使用する可能性があるというのだ。

 北朝鮮もまた、「国家の基本利益を侵奪すれば」との条件を付けているが、カーティス・スカパロッティ元在韓米軍司令官は「金正恩は自身の政権が挑戦を受けると考えれば、大量殺傷兵器を使うだろう」(2016年2月27日)と議会で証言していた。ウィリアム・ペリ―元国防長官も「全面戦争になれば、北は負ける。そうなれば、(金正恩は)核を使用するだろう。我々のミスで核戦争になれば、これは悪夢だ」(2017年7月19日)と語っていた。

 金正日(キム・ジョンイル)前総書記時代の2000年7月、プーチン大統領は旧ソ連時代も含めてロシアのトップとして初めて訪朝し、北朝鮮で大歓迎されたが、当時北朝鮮人民が歓呼していた「金正日―プーチン!」が2019年4月の金総書記の訪露で今では「金正恩―プーチン」に取って代わっているようだ。

(刻々と迫る北朝鮮の7回目の核実験  過去6回(2006年〜2017年)の核実験を検証する!)