2022年11月14日(月)

 中国が反対してもそれでも北朝鮮は核実験を断行する!?

習近平主席(右)と金正恩総書記(労働新聞から)


 今日午後にインドネシアでバイデン大統領と習近平主席の初の対面による米中首脳会談が予定されている。バイデン大統領はこの席で習主席に北朝鮮が7度目の核実験を実施しないよう働き掛けると伝えられている。

 中国の李克強首相はプノンペンで12日に行われた尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領との会談で中国が朝鮮半島の非核化に向け建設的な役割を担うことを約束していたが、問題は習主席がバイデン大統領との首脳会談で北朝鮮の核実験についてどのようなメッセージを発信するかにある。

 日米韓3か国は翌日、プノンペンで開かれた首脳会談で北朝鮮が7度目の核実験に踏み切った場合抑止力を強化する内容の共同声明を発表した。抑止力にはさらなる経済制裁や駐韓米軍の戦力増強、日米韓の軍事提携などが含まれているが、経済制裁で欠かせないのが北朝鮮の「生命線」を握っている中国の協力である。

 中国はこれまで北朝鮮の核実験では米国や国際社会と足並みを揃え、対北制裁決議に加わってきた。「人工衛星」と主張するロケットの発射もその都度、反対し、制裁に同調してきた。

 北朝鮮の7度目の核実験が噂された6月9日、中国の張軍国連大使は「ロイター通信」とのインタビューで「非核化は中国の主要目標の一つである。我々はこれ以上、核実験を見たくはない」と、北朝鮮の核実験に反対する考えを明らかにしていた。

 中国が北朝鮮の核実験に反対する理由は以下4点挙げられる。

 @国連常任安保理事国としての責務があるA北の核実験を理由にアジアにおける米国の軍事力が増強するB日本、台湾、韓国で核武装論の台頭し、軍拡を引き起こす恐れがあるC朝鮮半島の緊張が高まれば朝鮮半島の安定と平和、引いては中国の安定と繁栄が損なわれる。どれもこれも中国なりの国益に基づいている。過去6回実施された北朝鮮の核実験だけに限定してみると、中国は以下のような対応を取ってきた。

 ▲1回目の核実験(2006年10月9日)

 核実験の数十分前に北朝鮮から事前通知を受けていた中国は「国際社会の普遍的な反対を無視し、勝手に核実験を実施した」と強く批判した。王光亜国連大使(当時)は米国主導の対北朝鮮制裁決議「1718」(10月14日採択)に「(北朝鮮には)懲罰的措置は必要である」と述べ、「一定の制裁措置はやむを得ない」との認識を示した。

 ▲2回目の核実験(2009年5月25日)

 北朝鮮が核実験を行ったその日、中国は「国際社会の普遍的な反対を無視し、再び核実験を行ったことに対して中国政府は断固として反対する」との外交部声明を発表した。翌26日には梁光烈国防相(当時)が訪中した韓国の李相憙(イ・サンヒ)国防長官(当時)との会談で「北朝鮮は誤った判断をしている。こうした行為は彼らを国際的にさらに孤立させ、決して役に立たない」と北朝鮮を非難した。

 ▲3回目の核実験(2013年2月12日)

 中国の華春瑩外務省副報道局長(当時)は国連安保理で制裁決議「2094」(3月7日)が採択されたことを受け、「中国は常任理事国として安保理決議を真剣に履行し、国際義務を果たす」との中国の立場を公にした。人民解放軍の房峰輝総参謀長は4月22日に訪中したデンプシー米統合参謀本部議長との会談後の記者会見で「我々は北朝鮮の核実験に断固反対する」と述べ、中国全国人民協商会議の賈慶國常務委員にいたっては「北朝鮮が挑発した場合、韓国は報復措置を取ることを北朝鮮に明白に伝え、衝突が起きた場合は米国や中国など関連国から国際的支援を確保すべき」と韓国に連帯を表明していた。この年、中国当局は北朝鮮に対して税関手続きの厳格化や北朝鮮が関係する銀行資産凍結などの措置に出た。また、大連港では北朝鮮に向かう貨物が差し止められた。

 ▲4回目の核実験(2016年1月6日)

 中国外交部は4回目の核実験に対して「北朝鮮は国際社会の不変的な反対を無視し、再び核実験を行った」と北朝鮮を批判する声明を出し、国防部の關友飛外事判公室主任も「中国は北朝鮮の核開発や核実験には断固反対だ」との立場を表明した。「新華社通信」は国連安保理で制裁決議「2270」(3月3日)が採択されたことに「国際社会が核非拡散体制を守護するうえで必要な行動である。これについて一点の疑問の余地もない。北朝鮮は当然、代価を支払うべき」(3月3日)と報道した。

 ▲5回目の核実験(2016年9月9日)

 中国外交部は核実験の当日、非難声明を発表し、翌日(10日)北朝鮮大使を呼び「北が核開発を持続的に行い、核実験をやることは朝鮮半島の平和と安定に寄与しない」と北朝鮮に抗議した。大使への抗議は異例にも外交部のホームページで公開された。王毅外相は13日、韓国外交部長官との電話会談で「新たな制裁決議を採択し、北朝鮮により厳格な措置を講じることで北朝鮮の核、ミサイル開発を阻止することに同意する」との見解を表明した。

 ▲6回目の核実験(2017年9月3日)

 北朝鮮が核実験に踏み切ると、劉結一駐国連大使(当時)は北朝鮮を糾弾する談話を発表した。中国はこれまで「強力に反対する」との表現で一貫していたが,「糾弾」という表現を使ったのは初めてであった。王毅外相も新たな制裁決議「2375」(9月12日採択)を「全面的に完全に履行する」と述べ、国連総会での演説(9月22日)では「中国は朝鮮半島の北であれ、南であれ、東北アジアであれ、世界のいかなる地域での新たな核国家があってはならない」との立場であると表明した。

 しかし、北朝鮮は中国の反対を無視し、核実験を続けてきた。 北朝鮮が中国の説得に耳を貸さない理由は以下の4点に集約される。

 ▲「大国の顔色をうかがい、大国の圧力や干渉を受け入れるのは時代主義の表れである。干渉を受け入れ、他人の指揮棒によって動けば、自主権を持った国とは言えない。真の独立国家とは言えない」(2006年10月24日付「労働新聞」)

 ▲「大国がやっていることを小国はやってはならないとする大国主義的見解、小国は大国に無条件服従すべきとの支配主義的論理を認めないし、受け入れないのが我が人民だ」(2009年6月9日付「労働新聞」)

 ▲「我々は自らの力で暮らしており、誰の目も気にせず、誰にもぺこぺこと頭を下げることなくすべてのことを我々の意図、我々の決心、我々の利益に沿ってやっている。外部の支援はあっても、なくても良いというのが我々の陪審である」(2016年1月22日付「労働新聞」)

 ▲「大国は自らの国益のため同盟国を犠牲にする。永遠の友はいない」との祖父・金日成(キム・イルソン)主席の遺訓と、父の金正日(キム・ジョンイル)総書記の「中国は決定的な段階で我々を裏切る。中国を信用してはならない」との教えがある。

 北朝鮮は中国に「原子爆弾と水素爆弾を保有した核強国となった中国は強固な平和を保障することができ、経済的にも発展できることができた」(2016年12月21日付「労働新聞」)とか、「『ズボンを売ってでも核を持たなくてはならない』と言って制裁と圧力を跳ね除け核保有の夢を実現した国である」と中国が核実験を行った経緯を想起させ、「こうした過去と今日の立場を全く省みず、自尊心もなく、我が共和国の核と大陸間弾道弾ミサイル事件発射にむやみに言いがかりをつけ、米国の制裁騒動に加わっている」と辛辣に批判していた。

 北朝鮮が「朝中親善がいくら大事とはいえ、命である核と変えてまで中国に対し友好関係を維持するよう懇願する我々ではない」(2017年5月3日付「労働新聞」)と今も思っているならば、第8回党大会(2021年1月)で打ち出した「兵器システム開発5か年計画」の目玉である核兵器の小型化と軽量化と中・大型核弾頭の生産のため7度目の核実験を躊躇うことはないであろう。