2022年10月25日(火)

 日本は韓国の「2つの条件」を受け入れる!? 最終局面の日韓「元徴用工協議」

岸田文雄首相と尹錫悦大統領(左)(内閣広報室から)


 韓国外務省の趙賢東(チョ・ヒョンドン)第1次官が来日し、明日(26日)東京で開催される日米韓外務次官協議に出席する。

 今回で11回目となる日米韓外務次官級協議では7度目の核実験が取り沙汰されている北朝鮮、共産党大会を終えた中国への対応が主題となるようだが、これとは別途に日韓の間では外務次官が開かれれる予定である。

 元徴用工問題解決のために設置された韓国官民協議会の責任者でもある趙第1次官は出国を前に金浦空港で「徴用工問題の解決を含め日韓の懸案についても話し合われる」と、そのことを示唆する発言を行っていた。

 昨日、国会外交統一委員会の総合国政監査に出席した上司の朴振(パク・ジン)外相は徴用工問題への日本の対応について最大野党「共に民主党」の李相a(イ・サンミン)議員から「日本の態度に変化があったのか」と問われると「日本は肯定的に変わっている」と発言していた。

 朴外相は日本の何が肯定的になったのかについては具体的な言及は避けていた。従って、日本が前向きになった中身が文在寅(ムン・ジェイン)前政権の時とは異なり、韓国との対話、交渉に積極的に応じていることを表しているのか、それとも「引き続き日本の誠意ある対応を促している」(朴外相)ことに岸田政権が応え、それなりの誠意を示そうとしていることを指しているのかは不明だが、仮に後者ならば、岸田政権は尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が求めている「2つの条件」を受け入れるのかもしれない。

 尹政権はこの問題の解決のために2004年に設置された日帝強制動員被害者支援財団などを活用した代位弁済案こそが現実的解決策として、日本の企業の代わりに日本の戦後賠償金で潤った韓国企業が財団に支出し、財団から元徴用工らに補償金を支払う方向で最終調整している。日本企業の代わりに賠償金を支払うための財源を「韓国企業の寄付金」と明示するようだ。

 要するに、財団を活用した代位弁済案であるが、日本企業に出資を強制した場合、事実上韓国の大法院(最高裁)判決を履行する結果に繋がるとして日本が反対しているための苦肉の策である。どのような方式の代位弁済になるのかは定かではないが、一部では日本企業の債務はそのままにして第三者(韓国企業など)が新たに同一の債務を引き受けるとの方式も検討されている。 

 韓国の財団が代納する案ならば日本にとっては異論のないところだが、この解決案のみでは尹政権は元徴用工のみならず、国民の理解を得るのは容易ではない。

 昨日「韓日徴用解決案『日本企業賠償金を韓国財団が代納』本格協議』のニュースが速報で流れると、ネットには以下のような辛辣な声が殺到していた。

 「何をふざけた話を!強制徴用賠償をなぜ韓国財団が賠償しなければならないのか?日本企業は1社もなく」

 「とんでもない話。これが賠償か?韓国が韓国人に行うのが賠償か?こんな政権どこにある?国民を売り飛ばす政権が!」

 「大法院も戦犯企業が賠償しろと言っているのに現政権と執権与党は国家と国民を最後まで失望させている」

 「このように日本に跪いて得るものは何もないのに。(尹政権は)日本は父親の国だとでも思っているのだろうか」

 「やはり、親日政権だった!朴槿恵もそうだった。何かも間違いだ!」

 「日本になぜここまで卑屈になるのか理解できない」

 「フェイクニュースでは?言葉にならない」等々の批判の声で溢れていた。

 中には「朴正煕独裁時代に日本から貰った賠償金を浦項製鉄所や京釜高速道路に使ったのだから浦項製鉄所と道路公社が出すべきだ」と政府案に賛同する意見や「日本戦犯企業賠償金を韓国財団が代わりに出してあげ、戦犯企業の株を51%以上差し出す条件で合意したのかもしれない」と前向きな声もあったが、総じて批判的であった。

 朴外相は国政監査で「韓国国民が納得でき、被害者も全員同意できるように解決案を用意したい」とも答弁していたが、そのためには日本企業も基金に自発的に出資し、元徴用工に謝罪することが韓国政府にとっては不可欠である。少なくとも国民を説得する最小限の名分として元徴用工への賠償支払いを命じられた日本企業も韓国企業と共に基金出資に参加することが必須条件となっている。

(参考資料:2年9か月ぶりの「日韓首脳会談」を韓国メディアはどのように速報したのか!)

 尹政権はこの2つの条件に加えて国内の反対派を抑えこむため半導体素材輸出厳格化措置の解除も求めているようだが、朴外相が「日本は肯定的に変わっている」と日本の対応を評価しているところをみると、岸田政権は日本企業の自発的な基金出資と日本企業の遺憾表明を受け入れるのかもしれない。

 日本政府はこれまで日本企業に損害賠償の支払いを命じた一連の大法院の判決は日韓請求権協定に明らかに反しているとして韓国政府に対して何よりも国際法違反状態の是正を強く求めてきた。従って、仮に韓国の解決案が大法院の判決を前提としている場合、それを受け入れることは日本自らが国際法に反する行為を行うことになりかねない。

 また、日本企業の財団への「拠出」が大法院の判決に従ったものでなく、何らかの名目による「自発的な寄付」と位置付けたとしても、韓国政府が国民に日本企業の賠償責任に代わるものとして喧伝することは自明である。

 「様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国」(岸田首相)である韓国との関係を一日も早く修復させたい、さりとて下手な妥協はしたくないとの思いの岸田政権もまた、苦渋の選択を強いられそうだ。

(参考資料:またまた食い違った日韓の「北朝鮮ミサイル情報」 高度で「10km」 飛距離で「200km」の違い)