2022年10月7日(金)

 「火星12」は日米に対する牽制! 日本の「Jアラート退避」をあざ笑う!

北朝鮮の中距離弾道ミサイル(火星12)(朝鮮中央テレビから)


 北朝鮮は昨日(6日)の外務省の広報文で中距離弾道ミサイル「火星12」の発射が「米韓合同軍事演習への相応する対抗措置であった」ことを明らかにしていた。

 北朝鮮は2016年2月23日の最高司令部の重大声明で「(朝鮮半島有事の際の)第1次攻撃対象は韓国の青瓦台(現大統領室)と韓国内基地及び施設、第2次攻撃対象は太平洋上の米軍基地と米本土である」と公言していた。

 グアムには米軍のアジア・太平洋のハブ基地がある。米軍6千人を含め16万人が駐屯し、朝鮮半島にいつでも出撃できる「B1−B」「B2」「B52」などの戦略爆撃機,原子力潜水艦などの戦略兵器が配備され、太平洋艦隊の母港となっている。

 「火星12」はグアムに標準を定めたミサイルなので米国を牽制するため「火星12」を持ち出したことになるが、北朝鮮は今年1月30日にも「火星12」を発射していた。

 発射地点は同じ慈江道の無坪里だが、ロフテッド(高度2000km)で発射され、飛距離800kmと、日本列島を飛び越えることはなかった。それが今回は約4600キロ飛翔し、3200km先の太平洋上に落下した。日本の上空を飛んだわけだから日本でJアラートが鳴り、大騒ぎとなるのは当然のことだ。

 政府だけでなく、今回は国会も衆参両院が一致して北朝鮮非難決議を採択し、抗議の意思を表した。「火星12」の発射は結果として、米国よりもむしろ日本の怒り、反発を買うことになった。

 問題は北朝鮮がそのことを百も承知でやっている、言わば「確信犯」であることだ。ミサイルの日本列島超えは9月30日に5年ぶりに米韓と合同対潜水艦戦演習を日本海で実施した日本に対する「警告」の意味も込められているようだ。

 北朝鮮は外務省の広報文で「米国と一部の追従国家が朝鮮半島の軍事的な緊張を高める『韓』米連合訓練などへの我々の軍の相応の対応行動措置を国連安全保障理事会へと不当に導いている」と非難していた。米国の「一部追従国家」が韓国と日本を指していることは言うまでもない。

 北朝鮮外務省が4年前に開設したホームページには傘下機関の「日本研究所」の正体不明の研究員らが代わる代わる日本を批判する論評を載せているが、今年は上半期だけで35本(1月5本、2月8本、3月6本、4月4本、5月6本、6月6本)もあった。

 過去の清算問題から靖国参拝、憲法改正、福島原発処理水、竹島問題、拉致問題、さらには北朝鮮と関係のない台湾問題や日露問題まで取り上げ、日本を叩いているが、その多くは日本の防衛論議や軍備増強に向けられていた。

 例えば2月は1月30日の「火星12」の発射を批判した日本の対応を「主権国家の尊厳と自主権に対する許しがたい侵害」と断じた論評(1日)と日本国内の反撃能力保有議論を 「敵基地攻撃能力保有は再侵企図の直接的な発露」と非難した一文(27日)が載っていた。

 5月も自民党の佐藤正久外交部会長が北海道に新型中距離ミサイルの配備の必要性について言及したことを「何を企てての『反撃能力』の保有なのか」(14日)と批判していが、6月は6本のうち4本までが日本の安全保障絡みだった。

 日本が武器や弾薬を海外に輸出できるようにするため防衛装備移転3原則の改称を検討していることを「世界平和と安定の破壊者」(14日)と批判した他、統合司令部新設の動きを「再侵準備のための危険な機構操作策動」(20日)と断じ、アジア安保会議での日米韓国防力強化措置の合意を 「地域の平和と安定を破壊する危険千万な軍事的挑発」と糾弾する論評(22日)を掲載していた。

 下半期をみると、7月は「新たに進水した護衛艦の名前は何を意味するのか」(1日)を含め3本と少ないが、別途に「我々を不当にひっかけるG7首脳会議を糾弾する」との見出しの外務省国際機構局長の談話(2日)と「反共和国敵意を露骨に表した米国と追従勢力」と題した外務省代弁人の談話(3日)が載っていた。

 後者はNATO首脳会議が開かれたスペインでの日米韓首脳会議で3カ国による合同軍事演習が話し合われたことについて「米国とその追従勢力がNATO首脳会議期間、反共和国敵意を露骨に表してた」と批判していた。

 8月は「軍事大国化策動を合理化する試みは通じない」(26日)を含め4本、9月は小泉訪朝20周年関連の「日本政府は朝日平壌宣言を白紙化した責任を負うべき」(15日)と「人民日報」の論評を紹介した「中国言論が地域の平和と安定を脅かす日本の軍事大国化策動を糾弾」(19日)などを含め5本あったが、最も興味深いのは17日の「何を企てた退避騒動」の見出しの論評だ。

 「キム・ソルファ」と名乗る研究員による論評で「日本は9月下旬から全国各地で我々の弾道ミサイルを仮想した退避訓練を再開しようと企ている」と9月22日から富山県魚津市を皮切りに4年3か月ぶりに始まった北朝鮮のミサイル飛来を想定した住民避難訓練を取り上げていた。

 内容は日本の退避措置を酷評するもので「今まで我々の自衛的国防力強化措置が取られる度に日本の東京のど真ん中に核弾頭が落ちたかのごとく病的反応を示してきたのはよく知られている事実である」とか、「我々のミサイル攻撃に備えるとの口実の下、政府機関庁舎内に迎撃ミサイルを常時配置するなどの騒動を繰り広げ、正業に没頭している住民まで動員し、奔走したかと思えば、ミサイル発射誤報を演出するなど我々との対決雰囲気を頻繁に煽ってきた」と非難していた。

 「火星12」が5年ぶりに日本列島を飛び越え、日本全国にJアラートが鳴り響いたのはこの論評から17日後のことだった。

 日本は昨日(6日)も北朝鮮のミサイルの脅威に対応するため米韓と合同で艦船による防衛訓練を行った。2週連続の日米韓の訓練である。

 Uターンした米原子力空母「ロナルド・レーガン」を加えた日米韓の合同軍事演習が今後も予想されることから次は長距離弾道ミサイル「火星14」か「火星15」もしくは開発中の「火星17」が列島越えしてくるかもしれない。

 「朝起きたら北朝鮮からミサイルが発射され、Jアラートが鳴っていた」との5年前の状況が再来するのだろうか。