2022年9月15日(木)

 中韓が「歴史問題」でまた衝突! 国交正常化30周年で高まる一方の韓国の「嫌中」感情

カンボジアのASEAN会議での朴振外相(左)と王毅外相(韓国外交部提供)


 中韓両国は先月(8月)24日に国交正常化30周年を迎えた。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は30周年の日に習近平主席に「今後の30年の新たな協力方向を模索することを希望する」とのメッセージを送っていたが、韓国としては当然のことであろう。

 中国は隣国であるし、最大の貿易パートナーである。経済のことを考えるならば、中国とは良好な関係を維持する必要がある。しかし、政府の願望とは裏腹に世論の対中感情は悪化する一方だ。

 昨日も、中国国家博物館での展示で韓国古代史の年表から高句麗と渤海の建国年が削除されていたことがわかり、韓国人は憤りの声を上げていた。それもこれも、国民の多くは中国の東北工程(中国が推進している東北側の辺境地域の歴史と減少に関する研究プロジェクト)により自国の文化が失われると危惧していることにある。

 中国国家博物館では日中国交正常化50周年と中韓国交正常化30周年を同時に記念し、3か国の国立博物館が共催して、古代の青銅器に関する特別展が開催されているが、中国は韓国の鉄器時代の年表から高句麗だけでなく、統一新羅とあるべき渤海まで故意に除外し、新羅、百済、伽?のみ表記していた。それも巧妙にも資料出所を「韓国国立中央博物館」と表示していたことから韓国側の怒りを増幅させている。韓国中央博物館は中国博物館に事前に高句麗と渤海も含めた年表を提示していた。

 騒ぎが大きくなったことで中国駐在の韓国大使館員が中国国家博物館を訪れ、直接抗議する一方、韓国外交部は「歴史問題は我が民族のアイデンティティーと関連した事案であるだけに歴史歪曲には断固たる対応を取る」として中国側に是正を求めているが、中国は高句麗と渤海については中国の地方政権とみなしていることから応じる気配はなさそうだ。

 中韓の歴史、領土、文化を巡る確執、紛争は後を絶たない。

 歴史問題では高句麗の帰属問題がある。かつて朝鮮半島北部から満州南部を支配した高句麗が朝鮮半島に属するのか、それとも中国に属するかの論争である。

 領土問題は東シナ海の中韓の中間線に位置している島、離於島(イオド)を巡る対立である。韓国は2001年に島の名称を波浪島(パランド)から離於島に変更しているが、中国はこの島を蘇岩礁と呼び、韓国の島であることを認めていない。

 この他にも両国は様々な問題でぶつかっている。例えば、一昨年は朝鮮戦争(1950〜53年)を巡る論争が起きた。

 習主席が朝鮮戦争を「帝国主義侵略に対抗した正義の戦争」と規定したことに韓国外交部が抗議したのを皮切りに韓国アイドルグループEXOのメンバー(レイ)やガールズグループf(x)のメンバー(ビクトリア)ら韓国で活動している中国人芸能人らが「抗米援朝」を讃えたため韓国内で歴史歪曲論議が起きた。

 続けて、韓国の人気グループ「BTS(防弾少年団)」が朝鮮戦争に触れ、韓国と韓国を支援したアメリカを念頭に「両国がともに経験した苦難の歴史と数多くの犠牲者は永遠に記憶されるだろう」と述べたことから今度は中国から批判を浴びることになった。

 「朝鮮戦争論争」はお尾を引き、8月に訪中した「共に民主党」の金炳周(キム・ビョンジュ)議員が駐韓中国大使館のパーティでの乾杯音頭で米韓同盟を象徴する「共に行きましょう」を発声したことが明るみに出て、物議を呼んだ。

 加えてこの年は、中国メディアが韓国女性の民族衣装「チマチョゴリ」を「中国の衣装」と報じたことから「韓服論争」まで起きた。

 昨年も中国の人気ユーチューバーが白菜でキムチを漬ける動画を公開した際、「中国料理」というハッシュタグを付けたことが食文化を巡る「キムチ論争」が起き、また、中国の劇場で6年ぶりに上映された韓国映画に囲碁や将棋のシーンが登場すると、中国のネットで大騒ぎとなった。

 今年6月に韓国紙「国民日報」が世論調査会社「グローバルリサーチ」に委託して行った世論調査によると、韓国人が一番嫌いな国が中国だった。その2か月後に「東亜日報」が国交正常化30周年に際して世論調査会社「リサーチ&リサーチ」に委託して行った世論調査(8月11〜14日)では現在の中韓関係について「良好である」との韓国人の回答は5.3%しかなかった。

 韓国政府は中国が1週間以内に年表の表示を修正しなければ、展示場から出品物をすべて撤去することを検討していると伝えられているが、折しも中国共産党序列3位の栗戦書・全国人民代表大会(全人代)常務委員長(国会議長)が今日(15日)訪韓する。

 韓国はこれまで国益優先の立場から中国とは事を荒立てないようにしてきたが、外交摩擦にまで発展した今回の問題を中国の来賓に提起するのだろうか、見ものだ。