2023年4月30日(日)

 尹大統領の訪米の評価は? 注目される世論調査!

共同記者会見を終え握手するバイデン大統領と尹錫悦大統領(韓国大統領室のHPから)


 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が5泊7日の訪米を終え、今日(30日)帰国する。

 バイデン大統領との首脳会談、韓国大統領としては10年ぶりの米議会での演説、そして最終日のハーバード大学での講演など、どれをとっても「大成功だった」と、大統領府は自画自賛している。

 政府及び与党「国民の力」も尹大統領がワシントン滞在中にバイデン大統領と5度も対面するなど親交を深め、また米国から確固たる安全保障上のコミットメントを取り付けるなど「文在寅(ムン・ジェイン)前政権下でギクシャクしていた米韓関係を強固にした」と、賞賛している。

 一方、最大野党「共に民主党」は一昨年訪米(5月19−23日)した文在寅前大統領が「期待以上の成果を上げた」と我田引水した時に当時野党だった「国民の力」が「中身のない訪米だった」と酷評したことへの仕返しなのか「手ぶらで帰ってきた」とか「貢外交で、国益に反した」と扱き下ろしている。政権交代が頻繁に起きる韓国の外交は立場が変わり、攻守所を変えれば、真逆のスタンスを取り、常に「オールオアナッシング」の評価だ。

 客観的にみると、文前大統領以上に厚遇されたこと、米議会で上下院議員らを前に行ったアドリブを随所に盛り込んだ英語によるスピーチも拍手喝采を受け、好評を博したこと、米企業から59億ドルの投資を誘致したことなど総合的に判断すれば、それなりの評価を与えることができる。あえて皮肉を込めて言うならば、何よりも失言がなかったことも一つの成果である。

 昨年9月に国連総会に出席するためニューヨークを訪れた時は国際会議所でバイデン大統領と立ち話をした後、立ち去る際に「議会でこの野郎どもが承認しないと、バイデンにとって非常に恥ずかしいことになる」と、朴振(パク・チン)外相ら随行者に漏らしていたとして米主要メディアが「韓国大統領が米国を侮辱した」と報じたことで波紋を呼んだことがあった。

 また、今年1月も訪問先のUAE(アラブ首長国連邦)で「「UAEの敵、(UAEにとって)最も脅威な国はイランである。韓国の敵は北朝鮮で、(韓国とUAEは)非常に類似した立場にある」と言い放ち、イランから抗議を受け、外交問題に発展したこともあった。

 大統領選挙期間中には「(金のない)人は不良食品でも食べなくてはならない」とか「手足で労働するのはアフリカでやることだ」とか「極貧生活して学べなかった人は自由が何か分からないだけでなく、その必要性すら感じることができない」とか「若者はしっかりしているのに既存世代は頭があまり良くない」等々何度も失言を重ねたことで「失言王」の異名を持つ尹大統領が今回の訪米で物議を招くような問題発言をしなかったのは成果として加点されてもおかしくない。

 尹大統領は今回の訪米で@米国が強力な「拡大抑止」を約束したことA米国の核運用に対する情報の共有など核協議グループ(NCG)が設置されたことBバイデン大統領が共同会見で「米国や同盟に対する北朝鮮の核攻撃は受け入れられない。北朝鮮がそのような行動をすればいかなる政権であっても終末を迎えるだろう」と発言したことC核弾頭を搭載している米戦略原子力潜水艦を定期的に韓国に寄港させる約束をしたことをもって「訪米の目的を果たした」と安堵しているようだ。

 大統領室は共同声明で韓国に対する米国の拡大抑止が「恒久的で鉄壁であり、北朝鮮の韓国に対する核攻撃は即時、圧倒的、決定的な対応に直面する」ことが再確認され、また米国の拡大抑止が「核を含む米国の力量を総動員し、支援される」点が強調されたことなど、さらにバイデン大統領が共同記者会見で「米国や同盟に対する北朝鮮の核攻撃は受け入れられない。北朝鮮がそのような行動をすればいかなる政権であっても終末を迎えるだろう」と約束してくれたことなどから「北朝鮮の核脅威への韓国民の不安は解消された」(尹大統領)と国民に説明している。

 米国の核運用に対する情報を共有する核協議グループ(NCG)の設置や朝鮮半島での核抑止適用に関する教育と訓練の強化、核有事時に企画に対する共同の接近を強化するための政府レベルの図上シミュレーションの導入さらには核ミサイルを搭載した原子力潜水艦の常時寄港などがその担保となっているようだ。

 しかし、それでも韓国民の不安は完全には解消されていないようだ。「米国の核を共有することになった」と説明されても核兵器の使用については最終的な権限は韓国の大統領にはなく、米大統領だけが持っているからだ。米国は韓国とは協議はするが、北朝鮮によるワシントンやニューヨークなどへの核報復を覚悟してまでも北朝鮮に核を使用するのだろうかとの疑念が渦巻いている。

 共同声明では「米国の拡大抑止は核を含む米国の力量を総動員し、支援される」ことが謳われていたが、トランプ政権時代もトランプ前大統領は文在寅前大統領と交わした共同声明で「北朝鮮の攻撃から米国及び同盟国を保護することを最優先順位に据え、高まる北朝鮮の脅威から防衛するため核及び在来式戦力など米国のすべての範疇の軍事力を使用する準備ができている」と約束していた。

 米韓には日米安保条約よりもより強固な「米韓相互防衛条約」がある。韓国には米軍基地もあり、在韓米軍2万8500人が駐屯しており、居留米人も15万人にもいる。米国は韓国を守る義務があり、実際に韓国はこの条約によって70年間、北朝鮮の脅威から守られてきた。

 しかし、70年前と大きく異なるのは北朝鮮が核兵器を保有したことだ。従って、70年後の今、韓国が求めているのは「韓国に対する核攻撃は米国に対する核攻撃とみなし、北朝鮮が核を使用した場合、米国は即時圧倒的な核戦力で報復する」との明白な確約なのかもしれない。その点が曖昧だったことが「ワシントン宣言」と称される米韓共同声明の評価が分かれる所以であろう。

 問題は韓国民が今回の尹大統領の訪米をどう採点しているかだが、世論調査がすべてだ。

 文前大統領の場合、世論調査会社「リアルメータ」が発表した調査では訪米前の5月20〜21日には2日連続で上昇していたが、帰国後の翌日(24日)に発表された調査では1.1ポイント下落し、34.9%、不支持率は0.5ポイント上昇の61.0%だった。

 尹大統領の現在の支持率はもう一つの大手世論調査会社「韓国ギャラップ」が訪米中の28日に発表した調査では支持率は30%、不支持率は63%だった。

 筆者の予想では上がることはあっても下がることはないとみているが、どこまで上がるか、それが問題だ。