2023年12月13日(水)

 文在寅前政権は「従北」で尹錫悦現政権は「親日」 韓国与野党の「レッテル貼り」攻防

文在寅前大統領(左)と尹錫悦大統領(青瓦台と大統領室から)


 「南南葛藤」と呼ばれている韓国の保守と進歩派の争いはまさに「水」と「油」だ。溶け合わないし、全くかみ合わない。それでいながら相手を攻撃する手法は全く同じだ。早い話が、レッテルを貼って叩くのだ。

 保守の与党「国民の力」が最大野党「共に民主党」に「従北」(北朝鮮の言いなりになるという意味)のレッテルを貼れば、「共に民主党」はお返しとばかり「国民の力」に「親日」の烙印を押す。国民の「アカ」や「親日」へのアレルギーは根強いものがあるのでレッテル貼りは効果的な攻撃手段でもある。

 最近も与野党間で激しい応酬があった。

 与党から「北朝鮮に騙され、融和的な政策を取ったことで北朝鮮に核とミサイル開発の時間を与えてしまった」と袋叩きにされている文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が米国の核開発の中核を担うロスアラモス国立研究所の所長を務めたこともある米スタンフォード大のヘッカー名誉教授の著書「核の変曲点」を読んだ感想を自身のフェイスブックで綴ったことが事の発端である。

 文前大統領は「ヘッカー氏の著書は対北対話反対者らの主張とは異なり、外交と対話が北朝鮮に核高度化のための時間を与えたのではなく、合意の破棄と対話の中断が北の核発展を促進させたことを立証している」と書き、在任中の自らの対北政策を正当化していた。

 欧米及び日本や韓国では北朝鮮は非核化の意思がないにもかかわらず、米国を欺き、対話の後ろで密かに核開発を行い、時間稼ぎをしてきたというのが定説になっているが、ヘッカー氏は著書の中でそれに異論を唱えていた。

 この文前大統領の「投稿」に直ちにかみついたのが「国民の力」の前身である「ハンナラ党」時代に国会議員を2期務めた田麗玉(チョン・オク)前議員で、直ぐに「文前大統領は北朝鮮の人民なのか?韓国の国民でないのは明らかだ。そうでなければ北朝鮮が好き勝手に破棄し,約束を守らなかった南北対話の責任を韓国のせいにはできないはず」と痛烈に批判していた。

 「国民の力」も金藝玲(キム・エリョン)スポークスマンが論評を出して「文前大統領は一体、どこの国の大統領だったのか?大韓民国を危機に陥れるリーダーはリーダーではない。間違った対北政策を認めて、謝罪せよ」と迫っていた。

 与党の新旧の二人の女性議員から「北朝鮮の手先」呼ばわりされた文前大統領は反論せず、沈黙しているが、不思議なことに野党議員からの援護は今のところ全くない。

 これとは逆のバターンが慰安婦問題を巡る対応だ。攻守所を変えて、今度は野党が与党を攻撃している。

 ソウル高裁が日本政府に慰安婦被害者らへの損害賠償を命じる判決を下したことに日本政府が尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日韓国大使を呼んで抗議し、上川陽子外相が韓国に対して国際法違反の状態を是正するために適切な措置を講ずることを求めたことに韓国政府が反論しないことに進歩勢力は「尹政府は一体、どこの国の政府なのか?」との論調で尹政権批判を展開していた。

 「共に民主党」の権七勝(クォン・チルスン)スポークスマンは「日本政府が敗訴したにもかかわらず一貫して無対応の原則を貫くのは尹政権の対日屈辱外交に原因がある」と批判し、李在明(イ・ジェミョン)党代表までもが「日本政府が大法院の判決を無視するのは尹政権の対日屈辱外交の結果である」と、尹政権の対日姿勢を痛烈に批判していた。

 文前政権も尹政権も奇妙なことに、やることなすこと実にそっくりだ。

 文前政権は朴槿恵(パク・クネ)元政権下で交わした2015年の日韓慰安婦合意をひっくり返し、GSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)の効力を一方的に停止する措置を取ったが、尹政権もまた文前政権が北朝鮮との間で交わした「板門店宣言」を形骸化させ、南北軍事合意の一部効力を一方的に停止する措置を取った。

 政権交代に伴う韓国の外交方針の180度転換でとばっちりを受けるのは日本と北朝鮮かもしれないが、今は日本にとっては結果オーライである。