2023年11月22日(水)

 北朝鮮はなぜ、偵察衛星を予告日よりも早く「奇襲発射」したのか!

北朝鮮が「発射に成功した」とする軍事偵察衛星(朝鮮中央通信から)


 北朝鮮は11月21日に海上保安庁に軍事偵察衛星を「11月22日から12月1日の間に発射する」と通告しておきながら、予告日よりも前日の21日夜10時42頃に発射していた。これは明らかに国際ルール違反である。

 北朝鮮が国際海事機構(IMO)や国際民間航空機関(ICAO)さらには近隣の日本に事前通告しなければならない理由は11月22日から12月1日まで北朝鮮が事前に提出した飛行ルート区間を航行する外国船舶や飛行便の安全を担保することにある。ところが、北朝鮮は1時間以上も前倒しし、不意に発射した。単なるフライングで済まされる話ではない。

 前倒し発射について韓国のメディアは「22日の天候が不安だったのでその前に発射したのではないか」と伝えているが、理に合わない。天候などを考慮していたからこそ発射期間を12月1日まで延ばしたわけで、何も慌てて発射しなくても、予告期間内に天気の良い日を選ぶことができたはずだ。

 どうやら北朝鮮は計画的に最初から奇襲を狙っていたものとみられる。第一、夜の発射自体が尋常ではない。チャンバラに例えれば、これは「闇討ち」である。

 「火星17」や「火星18」などミサイルは例外としても、人工衛星はこれまで北朝鮮は明るい内に発射してきた。

 国際社会が事実上の長距離弾道ミサイル「テポドン」と称している通信衛星「光明星」を北朝鮮は何度も発射しているが、1998年8月に初めて発射した時は午後12時7分だった。午後はこの1回のみである。

 そして11年後の2009年4月に発射した時は午前11時20分、失敗した2012年4月の「光明星3号」は午前7時38分、そして再チャレンジした2012年12月の時は午前9時49分に発射していた。さらには2016年2月の「光明星4号」の発射は午前9時だった。

 午前にせよ、午後にせよいずれも日が明るい内に衛星を発射していた。加えて、5月に失敗した軍事偵察衛星も夜が明けた午前6時27分に打ち上げられていた。

 ところが、8月に行った軍事偵察衛星の再発射は深夜午前3時50分だった。人工衛星の午前3時台の発射は極めて異例だった。そして、今回もまた、夜10時を過ぎていた。

 韓国国防部は「22日の未明に発射する可能性が高い」と予測していたが、結果として裏をかかれたというか、意表を突かれたことになる。

 北朝鮮が意表を突いたのは一度や二度ではない。

 例えば、2016年2月の「光明星4号」は2月2日に国際電気通信連合(ITU)に「2月8−25日の間に発射する」との通告しながら6日になって急遽予定期間を「7−14日に発射する」と変更し、翌日の7日に発射していた。

 また、今年5月31日の軍事偵察衛星の発射も国家宇宙開発総局が5月29日に日本の海上保安庁に「5月31日から6月11日の間に打ち上げる」と通告しながら同じ日に李炳哲(り・ビョンチョル)党軍事委員会副委員長がわざわざ談話を発表し、「来る6月にほどなく打ち上げられる我々の軍事偵察衛星1号機」と言及し、混乱させていた。

 夜の発射準備作業は当然、昼間よりも困難を極める。発射を成功させるには夜よりも昼間の方が安全で、確実性がある。それにもかかわらず、夜に、それも意表突き,奇襲発射するのは何よりも米韓による電波妨害や迎撃を極度に警戒しているからではないだろうか?

 そのことは、米インド太平洋司令官が「北朝鮮が太平洋に大陸間弾道ミサイルを発射すれば即刻撃墜する」と発言(2月24日)したことに対して金総書記の代理人である妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長が3月7日に談話を発表し、「我々の戦略兵器実験に迎撃のような軍事的対応が伴う場合、これは言うまでもなく朝鮮民主主義人民共和国に対する明白な宣戦布告と見なす」と警戒感を露わにしていたことからも窺い知ることができる。

 米国は古くはオバマ政権下の2009年の時も当時ゲーツ国防長官か北朝鮮の「光明星2号」の発射予告に「発射すれば迎撃も辞さない」と威嚇したことがあった。この時も人民軍参謀部が「(米国が)人工衛星に迎撃行動をとれば、迎撃手段だけでなく、本拠地にも報復打撃を開始する」との声明を出すなど過敏に反応していた。

 またトランプ政権下の2017年の時もカーター国防長官がNBC放送(1月8日)とのインタビューで「もしそれが我々を脅かすものであれば、また我々の同盟や友人を脅かすならば撃墜する」と北朝鮮に警告したことがあった。

 今回、北朝鮮の軍事偵察衛星発射に備え、米国は空母「カールビンソン」が21朝に釜山に入港し、スタンバイしていた。日本も破壊措置命令を出していた。

 日本による迎撃は切り離されたブースターが誤って日本の領土、領海に落下する場合に備えてのものであるが、北朝鮮が万が一を想定していることは推測がつく。韓国軍もまた、SM−3ブロック2A(射程2000km、最大射高が1000km)を搭載したイージス艦などを配備し、警戒に当たっていた。北朝鮮はこうした日米韓の「迎撃対応」に相当苛立っていた。

 もう一つは米韓によるサイバー攻撃である。

 北朝鮮は2016年から2017年にかけて射程距離3000〜4000kmの中長距離弾道ミサイル「ムスダン」を計8発発射したが、そのうち7発が爆発するなど、失敗に終わった。当時、米国のメディアの中には「レフトオブランチ(left of launch)作戦を極秘裏に行ったからだ」と報じたメディアもあった。

 「レフトオブランチ」作戦は準備段階でサイバー電子線を仕掛け、攻撃システムを狂乱させ、失敗させるのが狙いだ。

 仮に5月と8月の2度の失敗が米国のサイバー攻撃によるものと疑っているならば、今回の予告前の奇襲発射はその「防止策」と言えなくもない。