2024年8月1日(木)
韓国と北朝鮮の7月の「重大予告」は不発に終わった!
尹錫悦大統領(左)と金正恩総書記(大統領室と「労働新聞」から筆者キャプチャー)
南北の当局が公然と予告していたことから7月は起きるかもしれない二つの出来事に備えていたが、いずれも空振りに終わった。
一つは、韓国情報機関・国家情報院(国情院)が予告した北朝鮮の海外でのテロである。
国情院はゴールデンウイークの最中の5月2日、北朝鮮が中国遼寧省・瀋陽やロシアのウラジオストク、ベトナム、カンボジア、ラオスなど東南アジア、さらには中東で韓国大使館職員や貿易マン、留学生ら一般居住者を狙ったテロを計画している兆候が「最近になって多数確認された」として、警報レベルを「関心」から「警戒」に2段階引き上げていた。
「警戒」はテロが実際に起こる可能性が高い状態を意味する。そのため韓国政府は直ちに「テロ対策実務委員会」を開催し、在外公館におけるテロ対策の総点検に入っていた。
北朝鮮によるテロの可能性を理由に在外公館のテロ対策が強化されるのは非常に珍しく、2010年3月の哨戒艦「天安艦」爆沈以来14年ぶりのことであった。
相次ぐ北朝鮮エリートらの脱北の責任から逃れるため金正恩(キム・ジョンウン)総書記に「外部関係者の犯行」と虚偽の報告を行っている海外派遣特殊機関要員らが「韓国への報復手段としてテロを計画している」というのが国情院の説明だった。
確かに7月はキューバ駐在の北朝鮮大使館から「脱北」した李日均(リ・イルギュ)前参事官(政治担当)が韓国のメディアに華々しく登場したのを皮切り、韓国のテレビ、新聞にはほぼ連日、NSPの情報に基づきフランス代表部から外交官の妻子が、中国の大使館から外交官の一家が、そしてアフリカからも外交官の「脱北」が続出しているとのニュースが流れていたが、肝心要の北朝鮮工作員によるテロは皆無だった。
そのことについて韓国の野党政治家も、メディアもどういう訳か国情院に質していない。今後もテロが起きなければ、国情院の情報収集能力、信憑性が問われることになりかねないだけに国情院の情報が正しければ、そろそろテロが起きても不思議ではない。
もう一つは、北朝鮮による超大型弾頭爆発威力を実証するためのミサイル試射である。
北朝鮮のミサイル総局は7月1日に短距離弾道ミサイルを2発発射したが、韓国合同参謀本部の発表では1発目は600km飛行し、もう1発は約120km飛行し、途中で爆発した。
北朝鮮のミサイル総局は「4.5トン級の超大型弾頭を装着する新型戦術弾道ミサイル『火星砲―11タ―4.5』の試射を成功裏に行った。重量模擬弾頭を装着したミサイルで最大射程500kmと最小射程90kmに対して飛行安定性と命中正確性を実証するのに目的を置いて行った」と発表したが、韓国の合同参謀本部は北朝鮮が発射したのは地対地戦術弾道ミサイル(北朝鮮版イスカンデル=「火星11型」)で、2発目については「失敗し、平壌近郊に落ちた可能性が大きい」と推定していた。
北朝鮮のミサイル総局は発射後、7月中に「火星砲―11タ―4.5」の250km中等射程飛行特性と命中正確性、超大型弾頭爆発威力を実証するための試射を行うと予告していた。しかし、北朝鮮はこの日(7月1日)を最後に一度もミサイル発射を行っていない。
発射準備が整っていないからなのか、7月末に北朝鮮を見舞った豪雨被害の影響によるのか、それとも政治的な判断によるものかは不明だ。ミサイルの発射については北朝鮮は予告通り行ってきただけに遅延は異例である。
なお、北朝鮮は今年、軍事偵察衛星を3基打ち上げる計画を発表し、その最初の1基を5月27日に発射してみせたが、失敗に終わっている。
年内に3基打ち上げるには遅くとも今月中に再チャレンジしなければならない。北朝鮮は昨年3度、軍事偵察衛星を発射しているが、1回目は5月31日、2回目は8月24日、3回目は11月1日に発射していた。
今月は19日から夏の米韓合同軍事演習「乙支フリーダムシールド」が始まることから対抗措置としてのミサイル発射や軍事偵察衛星の打ち上げは十分にあり得る。