2024年12月14日(土)

 もし弾劾された場合の尹大統領に「形勢逆転」の可能性は?

弾劾された朴槿恵元大統領と尹錫悦大統領(青瓦台と大統領室から筆者キャプチャー)

 戒厳令を発令したことで内乱容疑を掛けられている韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の2度目の弾劾訴追案が今日、国会本会議で表決される。

 尹大統領は12日の国民向け会見で「私は法的、政治的責任問題を回避しない。弾劾されようが、捜査されようが、堂々と受けて立つ」と、仮に国会で弾劾されても、出るところに出て最後まで戦う姿勢を示した。与党議員の造反で弾劾されても最後の砦である憲法裁判所に持ち込んで「法廷闘争」を続ける構えだ。

 韓国史上弾劾で訴追された大統領は盧武鉉(ノ・ムヒョン)、朴槿恵(パク・クネ)元大統領に続き3人目である。

 盧武鉉大統領の時は国会議員271人のうち野党第1党の「ハンナラ党」と第2党の「民主党」の一部議員を合わせて192人が賛成に回り、2004年3月12日に弾劾が可決されている。盧大統領は直ちに職務と権限が停止され、当時国務総理(首相)だった高建氏が大統領職務代行を務めた。

 しかし、弾劾に反対していた国民は野党が党利党略で少数与党の大統領を弾劾し、国政を混乱させたとして猛反発し、1か月後の4月15日の総選挙で盧大統領率いる与党「ウリ党」を大勝させ、国会第1党に押し上げた。「ウリ党」の圧勝は盧大統領への事実上の信任とみなされ、憲法裁判所は弾劾から約2か月後の5月14日、弾劾を棄却した。これにより盧大統領は62日で職務に復帰することができた。

 朴大統領も与党議員から大量の造反者が出て、弾劾成立のボーダーラインである3分の2(200人)を大幅に上回る234人の議員が賛成票(反対票は56票、棄権2票は2票、無効7票)で2016年12月9日に弾劾が可決された。

 大統領の権限は停止され、黄教安(ファン・ギョアン)首相が大統領代行として職務を執行することになったが、朴大統領は大統領としての地位は維持され、給与も支給されていた。

 朴大統領は毎週土曜に100万人規模の弾劾デモが起きても、支持率が歴大統領過去最低の4%台に落ち込んでも決して自ら辞任(下野)することはなかった。盧大統領のように憲法裁判所で争えば、ひっくり返せると確信していたからだ。親朴派議員や大統領周辺から罷免という汚名を着せられるよりも、自ら辞任という名誉ある道を選んだほうが良いと進言されても馬耳東風だった。

 憲法裁判所は弾劾から180日以内に可否を決めることになっており、大統領を罷免するには裁判官の3分の2が弾劾に賛成しなければならない。

 当時は、欠員が1人いて裁判所は8人の裁判官で審議していた。そのうち6人は保守派と言われ、また、6人の中には朴大統領自らが任命した裁判長と与党(セヌリ党=「国民の力」の前身)が推薦した裁判官も含まれていた。

 朴元大統領には絶対的な自信があった。少なくとも3人が罷免に反対すれば、棄却されるはずだった。それが事もあろうに8人全員が弾劾に賛成し、朴大統領は哀れにも2017年3月10日に罷免されてしまった。

 憲法裁判所の罷免宣告を受けて失職し、大統領官邸を去った朴元大統領は3週間後には収賄容疑などで検察に身柄を拘束され、3月31日に収監されてしまった。

 現在、憲法裁判所の裁判官は6人である。内訳は尹大統領が任命した裁判長を含め3人が保守派で、2人が進歩派、1人が中道派と言われている。これに国会から3人の裁判官が選出され、新たに加わるが、1人は与党から、2人は野党から推薦されることになっている。いずれにせよ罷免するには9人中6人が賛成しなければならず、ハードルは高い。尹大統領が強気になっているゆえんである

 「盧武鉉の道」を辿るのか、それとも「朴槿恵の道」を辿るのか、仮に弾劾されれば、尹大統領の命運は今後、憲法裁判所に託されることになる。