2025年4月11日(金)
外国人観光客が北朝鮮で「タブー」を破る ガイドに「娘が金総書記の後継者か?」と質す
第31回平壌国際マラソン(朝鮮中央通信から)
北朝鮮の首都、平壌で世界陸上競技連盟認定の「第31回平壌国際マラソン」が2019年以来、6年ぶりに開催された。
北朝鮮が外貨獲得のため観光事業に乗り出したと囁かれている最中に国際マラソン大会が開かれたことで外国からどれだけ多くのマラソンランナーや観光客が集るのか注目されていたが、主催者の北朝鮮は「中国、ルーマニア、モロッコ、エチオピアの選手と多くの国・地域から来たマラソン愛好家が参加した」(朝鮮中央通信)と伝えただけで参加国の正確な数も参加者の数も明らかにしなかった。
外国からの参加者を募集した北京にある北朝鮮旅行専門会社「高麗ツアーズ」の総支配人は自身のSNSを通じて「約200人の旅行客が平壌に入った」ことを明らかにしていたが、200人が二手に分かれ、4月3日と5日に北京を出発し、平壌入りしたようだ。
また「参加国は46カ国」とのことで意外にも多かった。北朝鮮が公表した中国、ルーマニア、モロッコ、エチオピア以外に分かっているだけでもエジプト、タイ、イラン、それにオーストラリア、カナダ、ポーランド、オランダ、ノルウェー、デンマーク、イタリア、ドイツ、アイルランド、英国、ポルトガルなど西側の諸国からも選手や観光客が訪れていた。
「高麗ツアーズ」が募集した5泊6日のツアーは平壌市内の観光がメインだが、軍事パレードなどが行われる金日成(キム・イルソン)広場、北朝鮮のイデオロギー「主体(チュチェ)思想」を象徴する「主体思想塔」、平壌冷麺で有名な「玉流館」などお決まりのコースに加えて、新たに高層マンションなど新興住宅が立ち並ぶ和盛(ファソン)通りがリストアップされていた。北朝鮮当局は平壌国際マラソンを機に高層住宅が立ち並ぶ通りを大々的にPRするのでとみていたが、予想通りだった。
しかし、これまでと同じで自由行動、単独行動は禁じられていたようだ。
北朝鮮は外国人観光客に@ガイドから離れないことAガイドの許可なしに勝手に撮影しないことB最高指導者(金正恩=キムジョンウン総書記)について批判的な発言をしないことC宗教活動をしないことなど4つの注意事項を示したようだ。このルールに従わない外国人観光客は過去の事例から処罰の対象になるのは言うまでもない。
北朝鮮を2016年に初めて訪れた米国人大学生、オットー・ワームビア氏はツアー中に北朝鮮のプロパガンダ資料を盗んだとして逮捕され、15年間の重労働の刑を宣告されたのはまだ記憶に新しい。(オットー・ワームビア氏は約17カ月間拘束され、2017年に昏睡状態で米国に送還された数日後に死亡している)
北朝鮮は先月、中露との国境地帯の羅先(ラソン)経済特区に限定し、5年ぶりに観光事業を再開し、欧米人観光客を受け入れたが、直後に再び停止していた。理由は不明だが、現地から欧米人観光客が流したユーチュブが問題となったと言われていた。
しかし、今回、ツアーに応募した参加者の一人、「ハリー・ジャガード」と言う名のチャンネル登録者数約233万人のユーチューバーは昨日(10日)、自身のユーチューブチャンネルで平壌マラソンのレビューを公開していたが、驚いたことにこのユーチューバーは北朝鮮のガイドに「キム・ジュエが次の北朝鮮の指導者になると思うか?」と尋ねていた。
「マラソンの経験はない」と公言しているこのユーチューバは平壌に入るため英国アマチュアマラソン協会のメンバーとしてこの大会に参加していたようだ。
この種の質問は北朝鮮では厳禁で、タブー視されている。金総書記が健在なのに後継問題を議論すること自体が不敬にあたるからだ。
当然、質問されたガイドは怪訝そうな表情で「
よくわかりません」と答えていたが、北朝鮮はこうしたセンシティブな撮影映像やビデオカメラの外部流出には厳しい制限を課しているが、ジャガード氏の映像はそのまま伝送されたようだ。
北朝鮮当局がミスを犯したのか、それともあえて黙認したのか、真相は定かではない。