2025年4月21日(月)

 保守の最後の「切り札」韓首相の大統領選出馬と当選の可能性

韓悳洙首相(国務総理室配信)

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の失職に伴い、6月に実施される韓国大統領選挙は世論調査の支持率では野党第1党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前代表がトップを独走する状態が続いている。

 政権与党「国民の力」は対抗馬を選出する党予備選を実施し、5月3日には公認候補を選出する運びとなっている。

 現在8人の候補が名乗り上げているが、尹大統領弾劾を巡っては反対派と賛成派に分かれ、候補間で激しいバトルが演じられている。

 有力候補の金文洙(キム・ムンス)前雇用労働部長官と洪準杓(ホン・ジュンピョ)前大邱市長、元院内総務の羅卿?(ナ・ギョンウォン)議員は反対派で、韓東勲(ハン・ドンフン)党前代表と安哲秀(アン・チョルス)議員の2人は賛成派である。

 しかし、反対派であれ、賛成派であれ、どの候補も世論調査の支持率では李在明候補に大差を付けられているのが現状である。

 今朝、エネルギー経済新聞の委託を受け大手世論調査会社「リアルメーター」が16日〜18日にかけて行った世論調査の結果が発表されたが、李在寅候補の50.2%に対して金文洙候補は12.2%、韓東勲候補は8.5%、洪準杓は7.5%、羅卿?候補は4.0%、安哲秀候補は3.7%と全員が低支持率で、これでは全く勝負にならない。

 また、政党支持率でも「共に民主党」の48.7%に対して「国民の力」は32.9%と、その差は約16ポイントもあった。この1年では過去最大の開きである。さらに、大統領選で「政権交代を望む人」は59.9%と、「政権の継続を望む人」の34.3%を大きく上回っていた。

 現状では李在明政権誕生の可能性が極めて高いが、与党にとって残された唯一のカードは大統領代行の韓悳洙(ハン・ドクス)首相を無所属から出馬させ、保守統一候補として擁立するほかない。

 肝心の韓悳洙首相は出馬の意向を明らかにしていないが、どうやら色気がありそうだ。

 英紙「フィナンシャル・タイムズ」とのインタビューで記者から出馬について聞かれた際に「まだ決めていない」と答えていたからだ。沈黙を貫いていた韓首相が大統領選出馬について直接言及したのは後にも先にもこれた初めてだった。

 その気がなければ、あっさりと「出ない」と答えれば良いものの「ノーコメント」で通したのは、与党の大統領予備選の結果や世論調査の推移を見て態度を決めるのであろう。立候補登録日の5月4日まで首相を辞任すれば無所属での大統領選出馬は可能である。

 官僚出身の韓首相は温和な性格で、安定感もあり、経済から外交分野まで行政手腕は証明済みだ。何よりも革新の牙城である全羅道出身で、金大中(キム・デジュン)政権、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権と2代続いた進歩政権下で大統領秘書室経済首席補佐官や首相を担った経歴が他の与党候補にはない大きな武器となっている。

 仮に出馬すれば、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の罷免で実施された2017年の大統領選挙で本命視されていた野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)候補の対抗馬として担ぎ出された潘基文(パン・ギムン)前国連事務総長のように俄然注目され、旋風を巻き起こすであろう。

 外交官僚出身の潘基文氏もまた、金大中政権下で外交安保首席秘書官を、盧武鉉政権下では外交部長官を歴任するなど進歩層の受けが良かった。忠清道出身で中道層の票も期待できた。

 出馬表明前の大手紙「中央日報」の世論調査では22.7%の支持を得て、25.8%前後の文在寅候補に3ポイント差まで詰めていた。世論調査の中には21.7%対18.5%(「ソウル新聞」の調査)と、潘氏が上回っていた調査結果もあった。

 保守の待望論に押され、潘氏は出馬表明したものの最終的には出馬を取り止めてしまった。理由は3つある。

 一つは、「潘基文タスクフォース」を設置し、韓国政界を震撼させた「パク・ヨンジャゲート」と呼ばれていた大型金融詐欺事件と子息の関連を野党が徹底的に追及したこと、それとその後、支持率が伸び悩んだこと、最後に高齢がネックだったことだ。

 歴代大統領候補の最高齢は72歳の金大中氏だったが、潘氏は当時73歳だった。ライバルの文候補よりも10歳も年上だった。現在、75歳の韓首相もまた、62歳の李在明候補よりも一回り以上も年上だ。

 仮に大統領選に出馬すれば、李在明陣営は韓首相に「内乱共謀」の容疑を掛けるだけでなく、夫人を含む家族の不正疑惑を炙り出すなど総力を挙げて潰しにかかるであろう。この野党の猛攻撃にあの風貌の韓首相が果たして耐えられるのだろうか?

 歴史は繰り返されるかもしれない。