2025年4月22日(火)

 「李雪主の友人が中国で脱北」はスクープか、フェイクか 韓国で大流行の北朝鮮ユーチューブ情報

失踪した李雪主夫人の友人、朴美香(姜哲煥氏の「北朝鮮事件ファイル365」からキャプチャー)

 韓国はユーチューブの全盛期だ。

 弾劾、罷免され追い詰められた尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が一時的にせよ息を吹き返すことができたのも保守・右翼系のユーチューバーが連日、大統領支持を呼び掛けたお陰だ。

 約100万人の登録者を持つ7〜8人のインフルエンサーがユーチューブチャンネルで配信する情報や解説に感化され、若者を中心に全国で大統領弾劾反対運動が起きたのは周知の事実だ。

 同様に北朝鮮体制を批判するユーチューブも盛んだ。

 北朝鮮に融和的な文在寅(ムン・ジェイン)前政権下では金正恩(キム・ジョンウン)政権への忖度もあって、北朝鮮体制への批判は相当部分規制されていたが、韓国の政権が自由主義の名による統一、即ち北朝鮮の自壊による吸収統一の旗を掲げる尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権になってからは対北ビラ宣布が再開され、また、脱北者の言動も全面解禁となった。

 脱北者の中には「東亜日報」の記者になった周成賀(チュ・ソンハ)氏のように自らユーチューブTVを立ち上げ、北朝鮮情報を発信する者もいれば、テレビ番組に出演して脱北の経緯から北朝鮮の内部情報を赤裸々に語る脱北者もいる。登場する脱北者の中にはサングラスを掛けている脱北者もいるが、以前のようにモザイクを掛けることもなく顔を晒し、また正体も明かしている。軍人から工作員、外交官、貿易マン、公務員などが入れ代わり立ち代わり出演している。

 例えば、直近では「北朝鮮の王妃 李雪主の知られざる半生」(実録朝鮮)、「玄松月が金正恩の子供を産んだ?」(チャネルA)、「金正恩後継超非常 李雪主4人目出産で玄松月の難」(北朝鮮事件ファイル365)のゴシップものから「不満の多い北朝鮮兵士らは暗殺を計画する?」(チャネルA)「間もなく金氏一家に血の風が吹く・・・追い出される寸前の金与正が激怒」(マネーインサイド)、「習近平が結局、金漢卒(金正男の長男)のカードを切った・・間もなく北朝鮮に血の風が吹く」(シンサインダム)「北朝鮮軍部からの初のシグナル…間もなく北朝鮮内部はひっくり返る」(タルラントルジャ)「北朝鮮崩壊の幕が開いた」(平壌24時)など「願望もの」が取り上げられている。

 どれもこれも「スクープ」扱いとなっているが、裏の取りようのないネタばかりだ。従って、よほどの信憑性のある情報でない限り、韓国の大手紙がフォローすることはない。

 韓国を代表する北朝鮮専門家、趙漢凡(チョ・ハンボム)氏のトーク番組もある。李雪主夫人に関する話題を取り上げた「李雪主が消えた衝撃的な理由・・・間もなく北朝鮮が血の海になる」も、当たらなければ恥をかくのではと心配するが、本人はいたって真面目に自信たっぷりに語っているから面白い。

 この他に「脱北科学者が語る実際の南北軍事力」(ケネネスピーチ)や「真実を知りたかった本物の学者、ハッカー教授の脱北記」(チャネルA)「ソウルに核ミサイルが発射されれば24分で朝鮮半島が分解する?」(チャネルA)「東海から来た脱北者が韓国の地下鉄に乗って狂ってしまった」(ユミカのチャネル)などがあるが、これらはいずれも一見の価値がある。

 日々溢れる「北朝鮮ユーチューブ」の中で一番気になったのが政治犯収容所から脱北し、韓国の大手紙「朝鮮日報」の記者になった姜哲煥(カン・チョルファン)氏が自身のユーチューブ番組「北朝鮮事件ファイル365」の中で取り上げた李雪主夫人の親友、朴美香(パク・ミヒャン)の脱北情報である。

 姜哲煥氏は2週間前に「パク・ミヒャンが脱北 金氏一家の秘密暴露を恐れ、保衛省が非常事態」の見出しで一報を伝え、また4日前には「パク・ミヒャンが瀋陽で逮捕 北送を巡って北朝鮮と中国が熾烈な対立」との見出しを掲げ続報を取り上げていた。

 朴美香は李夫人が結婚する前に銀河水楽団で歌手をしていた頃からの友人で、李夫人が最も信頼を寄せている人物のようだ。中国に出稼ぎ労働者として派遣されている女性労働者らを管理する仕事を3年前から任せられていたが、中国出張中の先月、行方をくらましたらしい。失踪の理由については男性問題や金銭トラブルなどが取り沙汰されている。

 北朝鮮は当然のごとく、直ちに保衛要員を中国に派遣し、行方を追う一方、中国公安当局に捜索依頼を行い、その結果、瀋陽で身柄を拘束されたようだ。

 本来ならば、これで一件落着な筈なのだが、問題が発生しているのだ。北朝鮮当局が直ちに送還を要求したところ、中国当局がこれを拒み、中国に留めているからだ。

 姜哲煥氏はこの一件からも「中国と北朝鮮が微妙な関係にあることがわかる」と解説している。

 この話が作り話ではなく、事実ならば、李雪主夫人だけでなく、金総書記や子供らの秘密を知り得る立場にある朴美香を韓国情報機関「国情報院」が傍観している筈もなく、おそらく南北の情報部員による目に見えない争奪戦が中国で繰り広げられているのであろう。

 第3弾が待ち遠しい。