2025年4月27日(日)
「コロナ」がなければ、ローマ教皇の訪朝は実現していた!
2018年10月にバチカンを訪問し、ローマ教皇に会見した文在寅前大統領(青瓦台HPから)
バチカンのサンピエトロ広場で4月26日に営まれたフランシスコ・ローマ教皇の葬儀には米国のトランプ大統領ら50数人の国家元首を含め約130か国から代表が出席していた。
韓国からも柳仁村(ユ・インチョン)文化体育観光部長官が出席していた。教皇が4月21日に死去した際には大統領代行の韓悳洙(ハン・ドクス)首相が弔電を送っていた。フランシスコ教皇はこれまでに3度も韓国を訪れているので外交儀礼上、至極当然のことである。
一方、北朝鮮は代表も弔電も送らなかった。それどころか、北朝鮮のメディアは教皇の死去について一言も言及せずに無視を貫いている。
バチカンとは外交関係がないので無関心を装うのは致し方ないとしてもフランシスコ教皇が北朝鮮にそれなりの関心と同情を寄せ、何度か訪朝を試みようとしていたことを北朝鮮が知らない筈はない。それというのも、金正恩(キム・ジョンウン)総書記自身が教皇に訪朝を要請していたからだ。
北朝鮮は宗教には無縁どころか、2014年に訪朝したオーストラリア人宣教師を朝鮮語で書かれた宗教本を所持していた「罪」で身柄を拘束するなど国際社会では「宗教弾圧国」としての烙印が押されている。従って、北朝鮮がローマ教皇を呼ぶことはあり得ないというのが一般常識だった。
しかし、金総書記は南北関係と米朝関係が好転していた2018年10月にバチカンを公式訪問した文在寅(ムン・ジェイン)大統領(当時)を通じて「平壌に招待するので訪朝して頂きたい」と訪朝を懇願していたのである。
その後、南北関係が破綻し、金総書記とのパイプは閉ざされたものの文大統領は3年後の2021年10月にも英国のグラスターで開催される「COP26(国連気候変動枠組み条約第26締約国会議)」首脳会議出席のため訪欧した際、バチカンでフランシスコ教皇と会談し、「教皇が訪朝して下されば朝鮮半島平和のモメンタム(勢い)となる」と述べ、北朝鮮訪問を再度要請していた。この時は、1か月後にベルリンで韓国の関係者を挟み駐独北朝鮮大使館とバチカン(ローマ法王庁)との接触が行われたとの情報が流れたが、実らなかった。
しかし、朝鮮半島の平和と南北統一に寄与したいとするフランシスコ教皇は2022年8月25日にバチカンでの韓国「KBS」のインタビューで朝鮮半島の平和について聞かれた際、
北朝鮮に対して「私を招いて欲しい。そうしたら断らない。招待され次第、北朝鮮に行くつもりだ」と、招待状を送るよう要請していた。
「KBS」は教皇が自ら訪朝の意思を明らかにし、北朝鮮に「私を招いて欲しい」と呼び掛けたのは「異例である」と、伝えていたが、教皇は訪朝目的について「兄弟愛からである。南(韓国)の人々にも北(北朝鮮)の人々にも私の祝福と平和祈願を送りたい」と語っていたが、金総書記からの招待状が届くことはなかった。
文大統領に訪朝斡旋を依頼したものの2019年2月にハノイで行われたトランプ前大統領との首脳会談が決裂し、米朝国交が遠のいたため気が変わってしまったのか、それとも新型コロナウイルスの流行で国境を封鎖したため呼ぶに呼べなかったのか、招待状が届かなかった理由は今持って不明である。
北朝鮮と宗教との関係について言えば、建国の父・金日成(キム・イルソン)主席は母親(康盤石=カン・バンソク)がキリスト教徒で、国家副主席を務めた祖父・康良U(カン・リャンウ)もキリスト教長老会の牧師であった。
康良U氏の息子の康永燮(カン・ヨンソプ)は2012年に亡くなるまで朝鮮キリスト教連盟中央委員会委員長の座にあり、世界教会協議会(WCC)にも出席していた。こうしたことから金日成時代には世界的に知られていた宗教人が招かれていた。
最も著名な米国のキリスト教(南部バプテスト教会)福音伝道師として知られていたビリー・グラハム牧師(2018年2月に100歳で死去)は朝鮮キリスト教連盟の招請で1992年(4月)、94年(1月)と2度訪朝していた。
二代目の金正日(キム・ジョンイル)政権下でもWCCの使節団を1997年と1999年に受け入れていた。2度目の時はコンラード・ライザー総幹事(当時)が訪朝し、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長(当時)と会談し、帰途ソウルに立ち寄り、金大中(キム・デジュン)大統領に訪朝報告を行うなど南北関係改善に助力していた。
北朝鮮でも建前上は「信仰の自由」は認められている。事実、北朝鮮の憲法第68条には「公民は信仰の自由を有する」と定められている。
国内には朝鮮キリスト教連盟や仏教連盟といった宗教団体もある。教会や寺院などの宗教施設もあり、牧師も僧侶も存在する。天道教青友党という名の政党もある。天道教を信じる農民らによって1946年2月に組織された政党で、労働党の「友党」扱いとなっている。
また、平壌にロシア正教会も建てられている。大同江付近に2004年に建てられた300平方メートル規模のロシア正教会は二つのドームを備えたコンクリートの建物で、鐘塔には12個の鐘が設置されている。
ローマ教皇が訪朝すれば、宗教活動の自由を含め北朝鮮の人権問題を提起するのは必至とみられていただけに北朝鮮がそれだけのリスクを覚悟のうえで招請するとは正直なところ、信じ難かった。
しかし、「鬼畜米帝」の頭目とみなし、罵倒していたトランプ前大統領に平壌訪問を要請していた事例からすると全くあり得ない話でもなかった。「コロナ」さえなかったならば、「平和の使者」としてのフランシスコ・ローマ教皇の訪朝はあり得たかもしれない。