2025年4月4日(金)

 大統領を罷免された尹錫悦氏の道は険しい 朴槿恵元大統領と同じ道を辿る!

尹錫悦前大統領(「JPニュース」)

 韓国の憲法裁判所で歴史的な判決が下された。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が哀れにも罷免されたのである。現職大統領が罷免されたのは2017年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領に続き憲政史上2人目である。

 朴元大統領が憲法裁判所で罷免され、失職したのが2017年3月10日である。

 憲法裁判所の罷免宣告を受けて失職し、大統領官邸を去った朴槿恵(パク・クネ)元大統領は側近を通じて「大統領としての使命を最後まで果たせず、申し訳ないと思っている」との遺憾の意を表明したが、同時に「時間はかかるだろうが、真実は必ず明らかになると信じている」とも述べていた。

 大統領私邸で裁判結果をみていた尹前大統領の失望、落胆は半端ではないであろう。それでもおそらく国民、特に大統領や与党「国民の力」の支持者らに向け声明もしくは談話を発表するであろう。

 朴元大統領の場合は、罷免判決を承服しなかった。朴元大統領は職権乱用だけでなく、収賄容疑も弾劾理由にされていたが、朴元大統領は「国のための良かれとやったことだ。私自身は一銭ももらない」と身の潔白を主張していた。支持率が歴代大統領最低の4%台に落ち込んでも、また、罷免されるまで大統領の座に居座り続けたのも「自分は間違ったことはしていない」とのよく言えば、信念、悪く言えば、強情な性格によるものだった。この点は尹前大統領も同じであろう。

 朴元大統領との違いがあるとすれば、尹前大統領は支持者らに共に戦うよう呼び掛けるのではないだろうか。

 尹大統領は今年1月に検察に召喚された際に発表した国民向け談話で「残念ながら、この国の法は完全に崩れた。左派の司法カルテルがどれほど恐ろしくて無道なのかはっきりと見た」と悔しさを滲ませ、国民、特に若者に自由民主主義を守るため立ち上がるよう促していた。

 また、官邸前に集まっていた熱狂的な支持者らに「国内外の主権を奪取しようとする勢力や反国家勢力の蠢きにより、現在、大韓民国は危機に直面している。私は皆さん共にこの国を守るために最後まで戦う」と述べ、共闘を呼び掛けていた。

 しかし、それが果たして可能だろうか?

 朴元大統領は罷免から3週間後の3月31日に収賄容疑であっさり逮捕されてしまった。検察の2度にわたる対面調査にも応じず、家宅捜索も何度も拒み、罷免判決も承服せず、証拠を突き付けられても何一つ認めず、容疑も全面否認したことは悪質極まりないとみられたからだ。罪状が13件と多すぎることや崔順実(チェ・スンシル)被告ら20数人の「共犯者」らが全員逮捕、起訴されていることに加えて証拠隠滅の恐れがあることなども身柄拘束の理由となった。

 尹前大統領は現在、釈放の身にあるが、罷免を宣告された瞬間、大統領職を失職したので「大統領在任中は内乱罪以外は逮捕、起訴できない」との不逮捕権が剥奪されてしまっている。おそらく今後、職権乱用、公務執行妨害、公職選挙法違反などで再逮捕され、収監されることになるであろう。

 罷免を宣告した憲法裁判所が戒厳布告令を発令し、戒厳軍や警官を動員し、国会を封鎖し、国会議員らを逮捕しようとしたことや選挙管理委員会に踏み込み、データーを押収しようとしたことなど非常戒厳令そのものが違憲、違法と認定したことで今月から始まる内乱容疑の刑事裁判は尹錫悦氏にとっては不利に展開することであろう。

 憲法裁判所で「黒」と裁定されたことにより刑事裁判所でも有罪判決となる可能性は極めて高い。

 朴元大統領の場合は罷免から約4年後の2021年1月に懲役20年の刑を宣告され、さらに大統領在任中の2016年総選挙に関する事件で懲役2年の刑も加算され、計22年の懲役となった。尹大統領の場合は内乱罪だけで最高刑は死刑もしくは無期懲役である。

 ちなみに1979年に粛軍クーデターを起こした全斗煥(チョン・ドファン)元大統領も内乱や在職中の収賄(約2200億ウォン)など9件の容疑で逮捕、収監され、裁判では死刑(その後、無期懲役に減刑)が宣告されている。

 尹錫悦氏はまだ検察総長だった頃の2020年3月19日、最高検察庁の部長らの夜会の席で酔った勢いで口を滑らしたのか定かではないが、以下のような発言をしていた。

 「もし私が日帝時代(植民地時代)に生まれていたならば、麻薬密売人になったか、独立運動家になっていただろう。もし陸士(陸軍士学校)に行っていたならば、クーデターをやっただろう。クーデターは金鍾泌(キム・ジョンピル)のように中佐がやるものだ。検察ならば部長に該当する。私は部長の時代に戻りたい。検察の歴史はアカ(共産主義者)を摘発する歴史である」と語っていた。

 金鍾泌中佐は朴正煕(パク・チョンヒ)少将を立てて、1961年5月にクーデターを成功させている。

 尹大統領は夢が叶ってクーデターを起こしたもののまさか、失敗し、収監されるとは想像もしていなかったであろう。