2025年8月4日(月)

 どうなる石破首相の「戦後80周年談話」と李大統領の「光復80周年談話」

石破首相と李在明大統領(出所:大統領室)

 8月15日の終戦記念日が近づいている。今年は戦後80年にあたる

 日本国首相は戦後50周年から10年単位で談話を発表しているが、石破茂首相は80周年談話をどうやら見送る方向のようだ。聞けば、自民党内の反発、抵抗が原因らしい。

 自民党内には「安倍晋三元首相の70周年談話で終わりにすべき」との「戦後談話不要論」(西村康稔元経済産業相)や「談話を出せば無用な混乱を招くだけ」とか「海外に利用されるだけ」との声が根強くある。さりとて、80周年談話を出さなければ出さないで周辺国から「日本は歴史を省みない」とか「日本は過去と向き合わない」との批判を浴びるかもしれない。

 「完結している」(吉村洋文・維新の会代表)と言われている安倍首相の戦後70周年談話は終戦記念日の1日前の8月14日に出されていた。少し長いが、以下のような内容だった

 「戦後70年にあたり国内外に斃れたすべての人々の命の前に深く頭を垂れ、痛惜の念を表すとともに永劫の、哀悼の誠を捧げる」

 「戦火を交えた国々でも将来ある若者たちの命が数知れず失われた。中国、東南アジア、太平洋の島々など戦場となった地域では戦闘のみならず、食糧難などにより多くの無辜の民が苦しみ、犠牲となった。戦場の陰には深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも忘れてはならない」

 「何の罪もない人々に計り知れない損害と苦痛を我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない苛烈なものだ。一人ひとりにそれぞれの人生があり、夢があり、愛する家族があった。この当然の事実をかみしめる時、今なお言葉を失い、ただただ断腸の念を禁じ得ない」

 「我が国は先の大戦における行いについて繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきた。その思いを実際の行動で示すためインドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫してその平和と繁栄のために力を尽くしてきた」

 「こうした歴代内閣の立場は今後も揺るぎないものである。 ただ私たちがいかなる努力を尽くそうとも家族を失った方々の悲しみ、戦禍によって塗炭の苦しみを味わった人々の辛い記憶はこれからも決して癒えることはないであろう。 だから私たちは心に留めなければならない」

 また、中国に対しては「戦争の苦痛を嘗め尽くした中国人の皆さんや日本軍によって耐え難い苦痛を受けた元捕虜の皆さんがそれほど寛容であるためにはどれほどの心の葛藤があり、いかほどの努力が必要であったか。そのことに私たちは思いを致さなければならない。寛容の心によって日本は戦後、国際社会に復帰することができた。戦後70年のこの機にあたり、我が国は和解のために力を尽くしてくださったすべての国々、すべての方々に心からの感謝の気持ちを表したいと思う」と語っていた。

 さらに慰安婦を指してのことと思われるが「私たちは20世紀において戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去をこの胸に刻み続ける。だからこそ、我が国はそうした女性たちの心に常に寄り添う国でありたい。21世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため世界をリードしていく」とも述べていた。

 当時、この「安倍談話」を巡っては日本国内では評価が分かれていたと記憶しているが、「談話不要論」を唱える人々からすれば「この安倍談話で十分。一区切りついた」との思いが強いのであろう。

 では、韓国の反応はどうだったと言えば、総じて芳しくなかった。韓国のマスコミはこぞって批判的だった。そのことは以下の記事の見出しを見れば一目瞭然だ。

 「聯合通信」「安倍談話、村山・小泉談話より後退」

 「ソウル新聞」「既存の談話を引用、形式的に言及」

 「韓国日報」「真実味がない」

 「朝鮮日報」「反省、謝罪しない談話」

 「韓国経済新聞」「過去形の談話」

等々いずれも手厳しかった。

 当時野党だった「共に民主党」も「真剣味がなく、残念。巧妙なやり方で責任を回避している」と「安倍談話」に不満を表明していた。また、元慰安婦問題で安倍政権と交渉していた朴槿恵(パク・クネ)政権の与党「セヌリ党」(「国民の力」の前身)は「反省と謝罪に言及したのは意味があった」と一定程度評価したもののそれでも「謝罪が過去形で、慰安婦の間接的な言及は残念」と諸手を挙げての評価ではなかった。

 韓国は当初、談話に「侵略」「殖民地支配」「反省」そして「謝罪」の4つのキーワードが含まれるかに注目していた。何よりも安倍総理が50周年の「村山談話」と60周年の「小泉談話」を「全体として引き継ぐ」と再三言明していたことから「侵略」と「反省」それに「殖民地支配」の言葉は盛り込まれるだろうと楽観視していた。

 村山富市首相の戦後50周年談話では「我が国は遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた。私は疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここに改めて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明する」と4つのキーワードが全て盛り込まれていた。

 また、小泉純一郎首相の戦後60周年談話でも「わが国はかつて植民地支配と侵略によって多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた。歴史の事実を謙虚に受け止め、改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明する」となっていた。

 いずれにせよ談話を出す、出さないは日本政府が判断すべき事柄で外国がとやかく言うべきではないが、周辺諸国が「70周年談話で禊は終わった」と受け止めるかどうかは別問題である。

 仮に石破首相が80周年談話を出さないとなると、逆に注目せざるを得ないのが李在明(イ・ジェミョン)大統領の光復(祖国解放)80周年談話である。

 当時、安倍首相のカウンターパートナーであった保守の朴槿恵(パク・クネ)大統領は8月15日に行った70周年談話で「昨日の安倍総理の戦後70周年の談話は我々としては物足りないと思う部分が少なからずあるのも事実である。歴史は包みかくそうとしても出来るものでもなく、生きている証人たちの証言として生きているのである」と述べ、また「日本が隣国として開かれた心をもって東北アジアの平和を分かち合える列に入ることを心より望んでいる。日本政府は歴代内閣の歴史認識を継承するという公言を一貫し、誠意ある行動をもって支え、隣国と国際社会の信頼を得なければならない」と語っていた。

 懸案の慰安婦問題についても「日本政府には特に日本軍慰安婦被害者問題を早期に真っ当な形で解決することを望む。沢山の困難は残っているが、今や正しい歴史認識を基に新しい未来にともに歩んで行かなければならない時だ」と釘も刺していた。

 では、李大統領はこの70周年談話を踏襲するのか、それともスルーするのか、日本にとっては無関心ではいられない。

 進歩派の李大統領は野党の議員の時は歴史認識問題では誰よりも強硬だった。それだけに歴史問題に言及するものと予想されるが、大統領就任早々の記者会見(6月4日)では長年の懸案だった元徴用工訴訟問題を巡っては「国家間の関係は政策の一貫性が特に重要だ」と言及し、尹錫悦前政権の解決策を引き継ぐ姿勢を明らかにしていた。

 また、6月25日の日韓国交正常化60周年の談話文では外務省が作成した談話文から「過去の問題」を自らの判断で削除していた。日本とは「相互信頼の下、未来志向的な協力を続ける」との立場から日本をいたずらに刺激するのは好ましくないとの大局的な判断に基づいていた。

 従って、仮に李大統領が光復80周年談話で朴元大統領と同様に日本に対して「反省と謝罪の気持ちを行動で示してもらいたい」とのメッセージを発信するようだと、日本国内の反発次第では日韓関係は逆戻りするかもしれない。