2025年12月1日(月)

 韓国最大野党「国民の力」が解散の危機

「国民の力」の秋慶鎬議員(秋議員のHPから)

 韓国最大野党「国民の力」は存続の危機に立たされている。党No.2の院内総務だった権成東(クォン・ソンドン)議員に続いて前任者の秋慶鎬(チュ・ギョンホ)議員も逮捕されるかもしれないからだ。院内総務は日本の政党に例えると幹事長にあたる職だ。

 秋議員は尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領とは同年輩で、尹政権発足直後の2022年5月から2023年12月まで副総理兼企画財政部長官に任命され、2024年5月から戒厳令混乱最中の同年12月9日まで院内総務のポストにあった。

 秋議員は非常戒厳令が発令された当時、国会の戒厳令解除要求案の採決を妨害した容疑で特別検察チーム(特検)から逮捕状が請求されている。「不逮捕特権」を有する国会議員は国会の同意なくして逮捕されないが、与党「共に民主党」が多数を占める国会は11月27日、賛成多数で逮捕同意案を可決している。

 憲法第77条には「国会が在籍議員過半数の賛成で戒厳の解除を要求した際、大統領はこれを解除しなければならない」と定めていることもあって国会の解除の動きを阻止するため戒厳司令部は12月3日午後11時25分に政党の集会、デモなど政治活動を禁じ、違反者に対しては戒厳法第9条(戒厳司令官特別措置権)により令状なしで逮捕、拘禁、処断する布告令第1号を発令した。

 「国民の力」が党議拘束をし、所属議員108人が本会議を全員欠席となれば、採決を防ぐことができる。しかし、本会議に出席し、賛否の意思表示をすれば、無記名投票だから賛成者が出る恐れがあった。

 結局、戒厳令発令(12月3日午後10時半)から2時間17分後の12月4日午前0時47分に国会が開かれ、午前1時1分に戒厳令解除は可決された。「国民の力」から表決に参加したのは18人のみだった。その多くは党本部に留まり、採決には加わらなかった。

 「特検」は当時、秋院内総務が所属議員に状況を正確に伝えなかったため戒厳令解除要求の投票に出席できなかったとの証言を同党の議員らから得ている。中には秋院内総務が「表決参加を阻止していた」「投票権が侵害された」と主張する議員もいた。同党所属議員のうち10人が「特検」に参考人として呼ばれていた。

 禺元植(ウ・ウォンシク)国会議長の話では、禺議長は12月4日午前0時29分に秋院内総務に「1時間後の午前1時30分頃に本会議を開催する」と通報していた。これに対して秋院内総務は「1時間後は余りにも早すぎる。議員を集める時間が欲しい」と回答したが、愚議長は「急を要するので本会議を1時間早める」と時間の変更を通報した。

 当時、秋院内総務は議員総会の場所を党本部から国会に移したもののまた党本部に戻していた。その間、洪哲鎬(ホン・ジョンチョル)前大統領政務首席秘書官、韓悳洙(ハン・ドクス)総理らと連絡を取った後、尹前大統領とも約2分間、通話していた。

 尹大統領は採決の阻止に動いていた。戒厳司令部布告令1号は集会デモなど一切の政治活動を禁じた布告令1号で非常戒厳令解除要求権を無力化しようとしていた。それに秋院内総務は加担していたとの容疑が掛けられているのだ。

 秋議員は逮捕同意案の採決に先立ち「我が党の国会議員に対し戒厳解除要求案の採決を欠席するよう勧めたり誘導したりしたことはない」とし、党首の張東赫(チャン・ドンヒョク)代表もまた、「逮捕令状は野党を違憲政党に仕立て上げて解散させるための不合理極まりない令状だ」述べ、「裁判所は公正な判断を下し、必ず却下されるだろう」と、秋議員を擁護している。

 一方、与党「共に民主党」の鄭C來(チョン・チョンレ)代表は「秋議員の逮捕状が取り下げられれば、矢ば喜大(チョ・ヒデ)大法院長(最高裁長官)に向けられ、内乱裁判所の設置などの司法改革要求の声が爆発的に高まるだろう」と発言し、続けて「秋議員の逮捕が決定されれば、『国民の力』は内乱の指導者である尹錫悦に続く内乱政党としての汚名を貼られ、国民は『違憲政党は解散せよ』と叫ぶだろう」と、息巻くっている。

 韓国は基本的には在宅起訴が原則である。だが、尹錫悦前大統領、金建希夫人、金龍顯(キム・ヨンヒョン)前国防長官、李相民(イ・サンミン)前行政安全部長官、権性東議員、趙太庸(チョ・テヨン)前「情報院」長官、それに韓鶴子(ハン・ハッジャ)「世界平和統一家庭連合」総裁らが身柄を拘束され、裁判を受けている。一方、韓悳洙前総理、朴性載(パク・ソンジェ)前法務部長官、李鐘燮前国防長官、金建希夫人の兄、金ジヌ氏などは拘束請求が棄却され、在宅起訴されたまま裁判を受けている。

 裁判所の令状審査は明日、12月2日に行われる。深夜か、戒厳令発令1周年の3日夜明け頃に決定される見込みである。

 拘束の有無を審査するのはソウル中央地裁の4人の令状専門判事のうちの一人、イ・ジョンジェ部長判事である。

 イ部長判事は「特検」が請求した尹前大統領の拘束令状を一度棄却したことがある。その一方で海兵隊員殉職事件を巡る外圧疑惑の捜査関連でイム・ソングン海兵隊第1師団長に対する拘束請求を認めたことでも知られている。

 権性東議員に続き、秋議員までもが逮捕され、裁判で有罪となれば「国民の力」は内乱を幇助したとして裁判所から解散命令を出されるかもしれない。

 韓国では朴槿恵(パク・クネ)政権下の2014年12月に全国民主労働組合総連盟を母体として結成され、一時は13議席を獲得し、第3党に躍進したこともある急進左派政党「統合進歩党(進歩党)」が北朝鮮の支持を受けて国家基幹施設破壊などを企てたとして「内乱政党」との烙印を押され、解散させられ、5人の所属議員全員が議員資格を喪失したケースがある。

 なお、翌12月3日には金健希夫人の1審結審公判があり、検察の求刑が注目されている。