2025年12月13日(土)

 クルスクの地雷撤去のため派遣された工兵に「何の報酬も代価も払われていない」と金総書記が不満を吐露?

戦死した兵士らの遺影の前で哀悼する遺族(朝鮮中央通信から)

 北朝鮮が昨年10月からロシアに1万以上の特殊部隊を派遣していたことはロシアも北朝鮮も自認しており、今や公然たる事実である。

 特殊部隊の派遣だけでなく、地雷除去などを任務とする工兵の派兵についてもロシアはクルスク州のアレキサンダル・キンシュタイン知事が「北朝鮮が今年9月に地雷を撤去するため工兵部隊が到着していた」と語っており、また、ロシアの国防相も11月に「北朝鮮工兵部隊1千人がロシア軍と共同でクルスクで地雷の除去を行っている」として、ロシアの教官が北朝鮮工兵らに地雷除去方法を訓練している映像や写真を公開していた。

地雷の処理にあたる北朝鮮工兵(出典:露メディア「レッドスター」)

 現地の報道によると、北朝鮮工兵部隊は早朝、トラックに乗って現場に着くと、北朝鮮国旗に敬意を表す儀式を行った後、防護服と防護靴に変え、最新偵察探知装備を手に草むらの中に入って作業を行っていたそうだ。それなのに北朝鮮政府も軍も工兵の派兵については知らぬ存ぜぬで、終始口を噤んでいた。

 ところが、昨日(12日)、唐突に平壌の「4.25文化会館」広場で対露派遣工兵部隊の帰国歓迎式典を開き、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が演説に立ち、ロシア西部のクルスク州に人民軍工兵部隊の指揮官と戦闘員を送っていたことを誇らしげに認め、世間を驚かせていた。派兵期間については「120日」と公言し、戦死者も「9人」と数字まで明かしていた。

 国営放送「朝鮮中央通信」が配信した写真には金総書記が帰国した負傷者を抱き寄せ、話しかけている場面や戦死者の遺影に勲章を飾り付けている場面、さらには遺族を慰めている場面などが映し出されていた。

 金総書記によると、派遣されたのは人民軍第528工兵連隊で、連隊は今年5月28日に編成され、8月初旬にクルスク州に出兵していたそうだ。

 追加派兵はロシア当局の要請が前提となるが、確かロシア安全保障会議のショイグ書記がプーチン大統領の特使として平壌を訪問したのは6月4日で、平壌に到着したショイグ書記は金総書記との会談を終えると、その日の内に帰国していた。北朝鮮のメディアはこの時は「両者はウクライナ情勢やクルスクの再建問題などが話し合わされた」(労働新聞)とだけ伝えていた。

 ショイグ書記は約2週間後の6月17日、再度訪朝し、金総書記との会談に臨んだが、この時初めてショイグ書記はロシアの報道陣に「金総書記がクルスクに工兵や作業員6000人を派遣することを約束した」ことを明かしていた。

 当時、ロシアのメディアはショイグ書記の発言に基づき「ロシア領内に設置された地雷を撤去するための工兵1千人と、ウクライナの攻撃で破壊されたインフラの再建にあたる作業員5千人が北朝鮮から派遣される」と伝えていた。

 どうやら金総書記はショイグ書記と会談する前から追加派兵を決めていたようだ。即ち、5月28日に第528工兵連隊が編成されたならば、この日に開催された労働党中央軍事委員会第8期第8回拡大会議で正式決定したものとみられる。

 ロシア軍とウクライナ軍の「クルスク戦闘」はウクライナ軍2千人が侵攻し、占領した昨年8月6日からロシア軍が北朝鮮の特殊部隊から成る援軍によって奪還した今年3月13日まで続いたが、露朝間ではロシアがクルスクを奪還した時点で地雷撤去のための工兵隊派遣で合意していたのであろう。

 昨年8月12日の時点でクルスクの内陸30kmまで進撃していたウクライナ軍はウクライナとの国境周辺に米国やNATO製の地雷を埋蔵していた。そうでなくても、そもそもクルスク州には第2次世界大戦時にドイツ軍の進軍を防ぐためロシア軍が3千マイルの防御ライン(約4800km)に及ぶ防御ラインを築くため対戦,対人地雷を約40万個も設置していたことで知られている。

 ロシアのマラト・フスヌリン副首相は今年5月に「地雷の撤去には1年以上はかかるだろう」と述べていたが、地雷だけでなく、不発砲弾の処理にもあたらなければならない。北朝鮮の工兵部隊は「僅か3カ月足らずの短期間に安全地帯した」との金総書記の発言どおりならば、特殊部隊同様に工兵もまた多くの犠牲を払ったのであろう。

 金総書記の演説で気になるのは「命がけで命令を遂行した我々の工兵連隊には何の報酬も代価も払われていない」と語っていたことである。

 北朝鮮の一般兵士の一人当たり給料2000ドルと言われていた。また、戦死者には1人当たり約3万ドルの補償金が支払われることになっていた。

 金総書記の発言が事実ならば、追加派兵で北朝鮮はロシアからまだ見返りを手にしていないことになる。