2025年2月12日(水)

 尹錫悦大統領に「隠しカード」 電撃下野の可能性も? 有名韓国保守論客が予測

憲法裁判所第7回弁論に出席した尹錫悦大統領(「JPニュース」から)

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾の可否を決める憲法裁判所が仮に明日13日の第8回弁論を最終弁論と定め、審議を打ち切った場合、早ければ3月上旬には判決が下される。弾劾棄却か、それとも罷免か、尹大統領にとって運命の日は刻々と迫っている。

 韓国最大発効部数を誇る日刊紙「朝鮮日報」は今も昔も「反共」「反北」「保守」を標榜しており、常に保守政権側に立った論陣を張ってきた。

 ところが、尹大統領の非常戒厳令宣布については庇いきれないのか、批判的な記事が目立つ。中でも元「月刊朝鮮」編集長の趙甲済(チョ・ガップチェ)氏は尹大統領に辛辣である。

 保守系政治団体「国民行動本部」の創設者の一人でもある趙氏は現在、自身のユーチューブ「趙甲済TV」を運営しているが、「月刊朝鮮」編集長だった1991年に初來日した際に筆者は趙氏と集英社発行の月刊誌「Bart」で対談したことがある。

 「韓国記者賞」を7回も受賞するなど情報のアンテナ―は広く、分析は深く、彼の発信力は今では保守層に留まらず、進歩層も一目を置くほど絶大なものがある。

 尹大統領批判の先鋒に立っていることから憲法裁判所の弾劾裁判関連で反政府系のメディアに登場する機会が増えているが、昨日の「CBSラジオ」の「パク・ジェフンの一番勝負」(ユーチューブでも放送)に出演した際にはこれまでの批判とは一線を画し「もしかすると、尹大統領には隠しカードがあるのでは」と、実に興味深い分析を行っていた。

 趙氏がラジオ番組で語った趙氏の話をかいつまむと以下の通りである。

 「弾劾裁判はおそらく8人の裁判官全員一致で罷免の判決が出るであろう。大統領側は5対3もしくは4対4で棄却されると期待しているかもしれないが、8対0で罷免との大きな流れは変わらないであろう。保守層は今、陰謀論の保守とそうでない保守と分裂状態にある。このままでは保守は大統領選挙には勝てないであろう。保守を統合させるには尹大統領が憲法裁判所の判決を待たずに自ら進んで下野することだ。『国論の分裂を防ぐため、憲政秩序を守護するため、混乱を収拾するため』と言って、すべての責任を取って引き下がれば『男らしい』と人気が上がるだろう。そうすれば、同情論が高まり、(保釈され)刑事裁判は在宅起訴で臨むこともできるだろう。同時に李在明(イ・ジェミョン)代表に致命傷を与えることもできる。『李在明よ、お前も!』との声が上がるからだ。これが尹大統領にとっての隠されたカードだが、切るならば、憲法裁判所の判決が出る前、少なくとも今後1週間から10日の間に決断しなければならないだろう」

 奇しくも、同じく保守論客と知られている「朝鮮日報」のコラムニスト、金大中(キム・デジュン)氏も昨日、「朝鮮日報」の自身のコラム欄で「司法が国を救わなければならない」との見出しの記事で尹大統領に対して「自らの立場を生かそうとせずに保守を結集させ、政権再創出(延長)のために力を尽くすべきでそれが死んで生きる道である」と提言していた。

 金コラムニストは「尹大統領が罷免されれば、それで政治生命は終わるが、仮に(弾劾が)棄却され、復職したとしても保守層は(尹大統領には)国をリードできないであろうとみており、保守政権の再創出は難しい」として、尹大統領に何かしらの決断を求めていた。

 金コラムニストも趙氏同様に保守層の結集のため、また大統領選挙に保守候補が勝利するためにも尹大統領に決断を求めているが、それ即ち、下野を指しているのではないだろうか。

 保守の元老法曹人として知られている?石淵(イ・ソギョン)元法制処長も「全裁判官が一致して罷免の決定を下すと思う」と断言しているように判決が尹大統領に軍配が上がる可能性は極めて低い。

 保守の趙氏も金氏も罷免される前に先手を打って下野という選択をすれば、活路が見い出せるとのことだが、2017年に弾劾された朴槿恵(パク・クネ)元大統領の時も5対3か、4対4で確実に棄却されると信じ、最後まで下野はしなかった。その結果が、8対0での罷免である。

 当時、朴元大統領には下野の選択肢はなかった。すでに逮捕、拘束され、裁判に掛けられている尹大統領と異なり、朴元大統領の場合は辞めれば逮捕される恐れがあったからだ。大統領は違法行為を働いたとしても在任中は逮捕も刑事訴追もされないが、辞任して、青瓦台(大統領府)を去れば、その瞬間、司直の手に墜ちる。

 罷免宣告を受けて失職し、大統領官邸を去った朴元大統領を熱狂的な支持者ら1千人以上がソウル・三成洞にある私邸前で迎えていたが、朴元大統領は側近を通じて「自分は間違ったことはしていない。時間はかかるだろうが、真実は必ず明らかになると信じている」と述べていた。

 朴元大統領はイングランドとの百年戦争で英雄となったが、後に「不服従と異端」の疑いで審問に掛けられ、最後は処刑されたが、死去して25年後に復権裁判が行われ、無実と殉教が宣言されたジャンヌダルクを夢見たのかもしれないが、未だに「果てしない夢」に終わっている。

 尹大統領も朴元大統領と同じ道を歩むのだろうか?

(参考資料:「尹大統領は憲法裁判官全員一致で罷免される」 元法制処長が断言したその理由は?)