2025年2月15日(土)

 北朝鮮が米国にICBMを発射すれば、24分で全世界が全滅する 米国の識者の「核戦争のシナリオ」

トランプ大統領と金正恩総書記(ホワイトハウスと朝鮮中央通信から筆者キャプチャー)

 トランプ大統領は第1次政権時に実現した金正恩(キム・ジョンウン)総書記との首脳会談の成果について口癖のように「戦争を止めたことだ」との言葉を繰り返している。

 シンガポールで行われた史上初の米朝会談の直後にトランプ大統領は「北朝鮮とは戦争の可能性が十分にあった。戦争となれば、数百万人が犠牲になる」と、金総書記との会談に応じた理由について語っていた。

 退任後の2023年9月1日にも自身の民事訴訟での証言で「私が北朝鮮を相手にしてなかったら核の大虐殺惨事が起きていたであろう。それが真実だ。私が大統領に当選していなかったら、核戦争になったかもしれない。数百万人の命を救うのが(大統領の)最も重要な仕事だ」と語っていた。

 トランプ大統領は大統領選挙期間中の昨年1月にもアイオア州での党員大会前夜の遊説で「我々は彼ら(北朝鮮)と戦争しようとしたが、北朝鮮はどの国にも劣らないかなりの規模の核を保有していた。我々は(外交を通じて核の安全を確保した)立派な仕事をした」と、自画自賛していた。

 「リトルロケットマン」「老いぼれ狂人」と罵り合っていたトランプ大統領と金総書記は首脳会談直前まで核ボタンの大きさを競っていたのは周知の事実だ。

 金総書記が2018年1月1日の新年辞でトランプ大統領に向かって「核のボタンが私の机にあることを片時もれるな」と威嚇すると、トランプ大統領も即座に「自分の核兵器ボタンの方がはるかに大きく、強力だ」とツイッターで応酬していた。

 当時の米朝のチキンレースについて第1次政権で国土安全保障省長官の顧問を務めたマイルズ・テーラー氏は2023年7月に出版した著書「逆流 トランプ再選から民主主義を救うための警告」の中で「トランプは政権発足当初から北朝鮮との核戦争の可能性を念頭に実質的な準備をしていた」と、当時の状況を回顧していた。

 テーラー氏は著書の中でトランプ大統領が2017年8月に「北朝鮮が米国を脅かすなら今すぐに世界が見たことのない火炎と激しい怒りに直面するだろう」と「炎と怒り」を口にし、ジェームス・マーティス国防長官が「我々は戦争のような状況に備えなくてはならない」と危機感を露わにしたことで「我々国土安全保障省の高官らが全員が集まって、北朝鮮の核危機のシナリオを議論し、また専門家らも米本土に対する核攻撃に関連した多様なシナリオを検討し、計画を点検していた」と、当時の状況を振り返っていた。

 大げさでもなく、当時の状況は一触即発で、いつ戦争が勃発し、それが史上初の核戦争に発展してもおかしくはなかった。トランプ大統領が再び、金総書記との対話に向かう理由もまさにこの1点に尽きる。

 万が一、2018年6月に土壇場で首脳会談が実現していなかったら、どうなっただろうか、また仮に今度再び同じような状況に陥ったらどのような展開になるのか、考えただけでもゾッとする。

 今朝、韓国の日刊紙「韓国日報」の文化蘭(本と世の中)に一冊の書籍が紹介されていた。

 「北朝鮮がアメリカにICBMを発射すれば、24分で全世界が全滅する・・・核戦争のシナリオ」と題し、米国の調査ジャーナリスト、アニー・ジェイコブソンが書いた謂わば「24ミニッツ」ものである。

 著者は70年ぶりに解禁された米国の機密文書と核戦争を計画した中心人物らとのインタビューを基に朝鮮半島での核戦争のシナリオを秒単位で予測していた。24分というのは北朝鮮が核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を米国に向けて発射し、米国が核反撃を開始するまでにかかる時間のことである。その結果は、敗北、共滅である。

 その理由について著者は「米国は超大国だが、迎撃は言うは易く行うは難しい。米本土に44基の迎撃ミサイルからなる防衛システムが構築されているので米国には簡単にICBMを撃ち落とすことができるとの神話があるが、これは単なる嘘だ」と暴露していた。

 著者によると、米国は2010年〜2013年初期の迎撃テストで一度も成功していない。5年後に何十億ドルも費やした後も撃墜の確率は半分(55%)ぐらいでICBMの迎撃は「弾丸を弾丸で打つようなもの」(米ミサイル防衛局スポークスマン)らしい。

 当然、北朝鮮のICBM発射を検知してから24分以内に米国は北朝鮮の標的に核で猛反撃することになるが、仮に自国への攻撃と勘違いしたロシアと中国が加わり、また北大西洋条約機構(NATO)が引きずり込まれれば、第3次世界大戦となり、「米国もロシアもヨーロッパも完全に壊滅し、放射能降灰で北半球全体が住めなくなる」とのことである。また、最初の攻撃だけで、少なくとも5億人の死者が出る、と著者は予測していた。著者によれば、ちなみに米大統領には自分が核攻撃を受けていることを認識し、核反撃の開始を決定するまでに僅か6分しか与えられていない。

 「核兵器を持った狂人が一人でもいたら、勝者のいない核戦争がいつ始まってもおかしくないと」というのが著者の憂慮だが、米大統領は緊急時に核兵器を発射する唯一の権限を持っており、誰の許可も求めない。金総書記の場合も同じだ。

 著者は「私たちは皆、カミソリの刃に座っている。人類は、一つの誤解、一つの誤算で核の絶滅に直面する可能性がある」とのアントニオ・グテーレス国連事務総長の警告を紹介していたが、米朝首脳会談の橋渡しをしたのが2017年12月にトランプ大統領のメッセージを携えて訪朝したジェフリー・フェルトマン国連事務次長(政治担当)だったことを知る人は意外に少ない。

(参考資料:トランプが関心を寄せる北朝鮮の観光リゾート地 日本海に面した元山海岸にコンドミニアムを建設?)