2025年2月18日(火)
韓国 「裁判官はつらいよ」 人身攻撃と脅迫に晒される
憲法裁判官の自宅前で抗議の声を上げている尹大統領支持者ら(韓国「日曜新聞」から)
文明国、近代国家、法治国家ではあってはならないことが今、韓国で起きている。
韓国の憲法第1条第1項には大韓民国は「民主共和国」と明記されている。しかし、「民主国家」にあるまじき青天霹靂の不法行為が白昼堂々と繰り広げられているから驚きだ。司法の最後の砦である裁判官への脅迫、人身攻撃のことである。
先月に内乱容疑を掛けられた尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の逮捕を認めたソウル西部地裁に激高した尹大統領の過激支持者らが乱入し、暴れまくった騒動は記憶に新しいが、乱入を煽った極右ユーチューバーらは口々に逮捕状を発付した女性判事を探し回り「判事、どこにいる!出てこい!」「判事を取っ捕まえろ!」と喚き散らしながら、地裁内を探し回っていた。
幸いにも身の危険を察知したこの判事は暴徒らが裁判所内に入る前に一足先に裁判所を抜け出し、警護員によって保護されたが、規制に当たっていた裁判所の係官や警察官、それに取材中の記者らが暴行を受けていた。暴動を鎮圧するため1400人の警察官が投入され、100人近くが器物損害などで逮捕されるという裁判所史上、まさに前代未聞の事件が起きた。
そして、今度は、尹大統領の弾劾審判を行っている憲法裁判所の裁判官にその矛先が向けられているようだ。
大統領の弾劾の可否を決める憲法裁判官は現在、8人いるが、そのうちの3人が左寄り、左派系ということで批判の対象となっている。中でも所長権限代行の文炯培(ムン・ヒョンベ)裁判官が最大のターゲットにされている
扇動者らは「文炯培が出身高校の同窓生向けのネット掲示板に猥褻な投稿をしていた」とのフェイクニュースを流す一方、車のナンバーから文裁判官の自宅を割り出し、電話番号と共にSNSやユーチューブで流し、ソウルの自宅前に結集して抗議しようと呼び掛けている。
抗議活動は昨日(17日)から始まり、集まった大統領支持者らは「弾劾反対!」「文炯培は辞任せよ」と早朝の7時頃から声を張り上げている。結審が予定されている3月12日まで文裁判官の出退勤に合わせて100人前後が集まり、朝と夜に続けるらしい。
こうした「狂信的活動」は今に始まったことではない。
思えば、2017年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領の弾劾の時も弾劾に追い込んだ朴栄洙(パク・ヨンス)特別検察官が「自由青年連合」を名乗る極右団体から標的にされたことがあった。
当時、「特検チンビラの朴栄洙を拘束せよ」と書かれたピケを手に朴特別検察官糾弾集会が開かれたが、この団体の代表はバットを振り回しながら「朴栄洙よ、よく聞け!お前の首はいつどうなるわからないぞ」と、公然と脅しをかけていた。
そう言えば、尹錫悦大統領も文在寅(ムン・ジェイン)政権下で朴元大統領の収賄容疑と公選挙法違反容疑を捜査していたソウル中央地検長の時代に極右ユーチューバーらの洗礼を受けたことがある。尹氏の自宅前に押しかけた朴大統領支持者らは「尹錫悦、この野郎、辞めろ!」と怒鳴り散らし、中には「車で体当たりするぞ」とか「特攻隊を使ってお前を葬り去る」とか、言いたい放題、尹検事長を攻撃していた。
直近では文在寅前大統領がその餌食になっている。
文夫妻は退任後(2022年5月9日)、韓国南東部、慶尚南道の梁山市の山里で農作物を育てながらひっそり暮らそうとしたが、極右団体が連日、自宅前で集会を繰り広げ、拡声器で「アカ(共産主義)野郎!」「北のスパイ野郎」、「出てきて、土下座しろ」と騒ぎ立てていた。中には「光化門断頭台に置いて斧でぶった斬らないとこの恨みは晴らせない」と、怒鳴り散らすものもいたほどだった。
文大統領が「侮辱および虚偽事実の摘示による名誉毀損」や「殺人脅迫および放火脅迫」でデモ隊を告発したこともあって警察が乗り出し、デモ隊を文氏の自宅前から100メートルまで離したが、今でも抗議集会は散発的に行われている。
弾劾棄却か、罷免かの憲法裁判所の判決は来月中旬までには出るが、どちらに転んでもタダでは済まされそうにない。即ち暴動は避けられそうにない。そうなれば、裁判官も危険に晒されることになるであろう。
(参考資料:逮捕寸前の尹錫悦大統領の支持率急増の異変! 背景に保守ユーチューバーの存在が)