2025年2月2日(日)
「酒席接待行為」が北朝鮮では「特大犯罪事件」の理由 党の腐敗で没落した東欧社会主義政権の二の舞を警戒
労働党書記局拡大会議で演壇に立つ金正恩総書記(朝鮮中央通信から)
北朝鮮が先週(1月25日)、唐突に労働党書記局拡大会議を開催したので米国に向け、あるいは韓国関連で何か重大な発表があるのではと構えたが、肩透かしを食らった。外交とは何の関係もない、国内、それも地方で発生した不祥事に関する会議だった。会議には多忙なはずの金正恩(キム・ジョンウン)総書記も顔を出していた。
金総書記の表情をみると、実に厳しい表情をしていた。最初から最後まで怒っていた。その理由は「南浦市温泉郡と慈江道?時郡の党幹部らが特権・特殊行為を働き、人民の尊厳と権益を甚だしく侵害する特大事件を起こした」(労働新聞)からである。
「特大事件」とは南浦市温泉郡では党及び行政指導の責任幹数十人がサービス機関から酒の接待受けたこと、慈江道?時郡では党の農村建設政策と農業政策を監視、統制すべき郡農業監察機関が法権を悪用して人民の利益と財産を侵害したことを指している。
郡党の責任幹部が直接手配し、郡党の活動家らをはじめとする郡内の数十人に及ぶ党、行政機関の責任幹部らが群れを成して押しかけ、不正行為を強行したことは「労働党の歴史にかつてなかった」ことで、慈江道?時郡での違法行為も「絶対に許しがたい特大型の犯罪事件」ということで南浦市温泉郡党委員会も慈江道?時郡農業監察機関も解散を命じられ、事件の首謀者及び加担者は法的に処罰されることになった。
金総書記が、労働党が大騒ぎするほどの重大な事件が発生していたのに北朝鮮情報筋や消息筋を引用し、常日頃北朝鮮の内部情報を伝えていた「朝鮮日報」など韓国メディアもまた、米CIA系の「自由アジア放送」も、何よりも韓国の情報機関(国家情報院)も全く気がつかなかったとは何とも不思議だ。北朝鮮が明らかにするまでわからなかったならば、これまでの「北朝鮮情報」は何だったのか、信憑性が問われるのではないだろうか。
いずれにせよ、今回北朝鮮で起きた不祥事はどこの国でもみられる現象だが、それでも金総書記は怒り顔で「我が党強化の礎石を切り崩し、国の200分の1を占める一地域を非党化、非政治化、非社会主義化の落とし穴に追い込みかねない重大な事件であるだけでなく、幹部の職級を乱用して人民以上の特典をむさぼろうとする特権階級が形成される恐れのあることを直感させる危険なシグナルにもなる」と、危機感を露わにしていた。無理もない。「労働新聞」(1月31日付)は東欧社会主義政権が没落した原因の一つに「幹部らの道徳的腐敗がある」と指摘していた。
金正恩政権発足(2012年)以来、金総書記が部下らを叱責、懲罰した件数は20数件に及ぶ。その多くは経済建設が捗らないことや災害対応への不満によるものだ。
例えば、経済部門では2018年7月には新義州の化学繊維工場、両江道三池淵郡のジャガイモ粉工場工場、咸鏡北道の塩粉津ホテルとオンポ保養所それに漁郎川発電所を相次いで視察したが、化学繊維工場の視察では「工場を補修もせず、厩舎のような古い建物の中に貴重な設備を入れて、試験生産をやろうとしている」と嘆き、ジャガイモ工場では「技術神秘主義に陥り、経済性のない設備を入れたことで生産に支障を来している」と不満を口にしていた。
また、塩粉津ホテルの視察では「組立工事が終わって6年も経つのに内装が終わってないとはどういうことか」と叱り、保養所の視察では「風呂が非衛生的だ。脱衣場もいい加減で、換気も悪く、不快な匂いがする。これでは景色の良い場所に保養所を建ててくれた首領様や将軍様の業績を台無しにし、罪を犯すことになる」と、現地で出迎えたの崔勝男(チェ・スンナム)咸鏡北道鏡城郡党委員長に作り直すよう命じていた。さらに、漁郎川発電所を視察した際には「ようやく今日ここを訪れたが、言葉が出ない。17年が過ぎたが70%しか完成していない。発電所を建設する気があるのかないのか分からない」と党中央委員会経済部と組織指導部の該当指導課の責任を追及していた。
以後も、不平、不満は収まらず、昨年7月に両江道三池淵市に建てられた観光ホテルを視察した際も「発展する時代の要求に根本的に反して古くて立ち後れた基準でいい加減に施工した」と酷評し、「(建設監督機関は)深刻な欠陥を竣工検査でそのまま通過させて運営単位に引き渡す無責任な行為を働いた。思想的弛緩と職務怠慢がどの程度に至ったのかがよく分かる」として李順哲(リ・スンチョル)国家建設監督相(大臣)と前副相(副大臣)の2人を槍玉に挙げ、「国家公務員としての初歩的な道徳や資格もないけしからぬ連中である」と断じ、「両人の権利を停止させ、直ちに法機関に引き渡して調査せよ」と命じていた。
自然災害での対応では2020年8月の江原道金化郡の暴風雨被害と2023年8月の江原道安辺郡の台風被害、それに昨年8月の平安北道新義州の水害被害の時の叱責が強烈な印象として残っている。
金総書記は金化郡の被災地視察では「事前に住民を危険な建物から避難、疎開させず人命被害をもたらした」として江原道及び元山市幹部らを「党的、行政的、法的に厳罰に処する」と公言し、安辺郡の被災地視察では「200ヘクタールの農地が冠水するなど他の地域に比べて多くの被害を被った。原因はこの地域の農業指導機関と党組織の甚だしく慢性化されて無責任な活動態度にある。鈍感にもいかなる対策も立てなかった」と述べ、地元の党及び行政幹部らを激しく叱責していた。
昨年の新義州の被災地を訪れた際にも「災害防止活動を慢性的かつ観照的に対した結果、無力にも災難に見舞われる結果を招いた」として「党と国家が付与した責任重大な職務の遂行を甚だしく怠って許せない人命被害まで発生させた対象を厳しく処罰する」として、慈江道トップの姜鳳勲(カン・ボンフン)党責任書記と李太燮(リ・テソプ)社会安全相を解任していた。
今回と似たようなケースとして2020年2月29日に開催された党政治局拡大会議が挙げられる。
会議で金総書記は党中央委員会の幹部と党幹部養成機関の活動家の中で発露した非党的行為と権勢、特権、官僚主義、不正腐敗行為を集中的に批判した。不正腐敗行為の詳細は伏せられていたが、党政治局員でもあった当時党序列5位の李万健(イ・マンゴン)党組織指導部部長が解任され、二度と公の場に現れることはなかった。
南浦市党書記は2021年に就任した李在南(リ・ジェナム)で、慈江道の党書記は昨年7月に平安北道党書記から転任したばかりの朴成哲(パク・ソンチョル)である。今後、どう処遇されるのか、興味深い。