2025年1月11日(土)
ロシア領のクルスクの戦闘で北朝鮮兵士を4千人も殺傷したのに「捕虜ゼロ」の摩訶不思議!
昨年12月28日にウクライナが公開した写真(ウクライナのSNSから)
特殊部隊に属する北朝鮮兵士1万1千人がロシアに派遣されてから3か月、クルスク州に配属されてから2か月が経った。
この間、ウクライナは再三にわたってゼレンスキー大統領自らが北朝鮮兵士との交戦結果を明らかにしている。
ゼレンスキー大統領が初めて北朝鮮の死傷者について口にしたのが昨年11月7日で、訪問先のハンガリーの首都ブダペストでの記者会見で「北朝鮮兵がクルスク州でウクライナ軍との戦闘に参加し、死傷者を出した」と発言していた。
続く12月1日にもクルスク州に配置されている北朝鮮兵がウクライナ軍との戦闘で「死亡したり負傷したりしている」と発言を繰り返していた。
この間、ウクライナ軍は11月20日に英国製の巡航ミサイル「ストーム・シャドー」でクルスク州・マリノにあるロシア軍の司令部を、11月23日と25日には米国の弾道ミサイル「ATACMS」を使用してクルスク州への攻撃を行っていたのでおそらくこの3日間で死傷者が発生したのであろう。
3度目が年末の12月23日で、ゼレンスキー大統領は「クルスク州での死傷者が3千人を超えた」と、ウクライナ軍の戦果を誇っていた。
今年も新年早々の1月4日、「クルスク州マフノプカ村近郊での戦闘でロシア落下傘部隊と北朝鮮歩兵から成る1個大隊が壊滅した」と語っていた。1個大隊は600〜800人規模を指す。また、1月5日(現地時間)には米国の「ポッドキャスト」との3時間の長時間インタビューの中で「北朝鮮兵の死傷者は3800人に及んでいる」と述べていた。
そして一昨日(1月9日)はドイツ駐屯の米軍基地で行われたウクライナ防衛連絡グループ(UDCG)会議に出席し、「今日現在、北朝鮮軍の死傷者は4千人に及ぶ」と発言していた。事実ならばロシアに派遣された北朝鮮軍はクルスクに配属されてから僅か2か月で3分の1以上の兵力を失ったことになる。
ウクライナ軍の特殊部隊(SSO)は12月31日に北朝鮮兵が駐屯していたクルスク州の一つの村を奪還したと発表し、また、1月7日にはウクライナの戦争状況を伝える国際オンラインチャネル「InformNaplam」が「SSOが銃撃とドローンで13人の北朝鮮兵士を殺害した」と伝えていた。しかし、依然として北朝鮮兵士を生け捕りできないでいる。
昨年12月26日(現地時間)にウクライナの軍事メディア(「ミリタニー」)が「SSOがクルスクで作戦中に北朝鮮兵士1人を捕らえた」と報じ、負傷した北朝鮮兵士らしき写真をテレグラムで公開したが、翌日には死亡してしまい、本人の肉声を公開することができなかった。
ウクライナ軍は「これまでに負傷者を数人捕獲したが、死んでしまった」とか「北朝鮮の上官やロシア軍が生け捕りを恐れて負傷者を射殺している」とか、「北朝鮮兵士であることを隠すため戦死者の顔を焼いている」とか、生存者を確保できない理由を語っているが、「論より証拠」で「生き証人」を出さない限りは「物証」だけでは物足りなさを感じるし、今一つ説得力に欠ける。
「クルスク州前線で12月29日に北朝鮮兵がロシア兵3人を誤射した」との情報もロシアと北朝鮮を離間するためのつくり話で片付けられたらそれまでだ。それというのも、ウクライナ発の情報にはフェイクものが多々あるからだ。
韓国の「MBN」TVはウクライナが公開した北朝鮮兵士の遺体について「偽情報を利用した心理戦」と報じる(MBNから)
北朝鮮のイロハを知らない欧米諸国は欺くことができるかもしれないが、正直、ウクライナが発信している情報や物証はまゆつばものがかなりある。
例えば、金日成(キム・イルソン)主席と金正恩(キム・ジョンウン)総書記の肖像画を前に防寒着コートを着た兵士が座っている写真があるが、写真の配列が違っている。北朝鮮では左が金主席で、右が金正日氏の肖像画でなければならない。第一、肖像画をテーブルの上に置くことはあり得ず、壁に飾らなければならない。基本的なことである。
直近では韓国の公共放送「KBS」が1月7日にウクライナ軍が12月20日に傍受したとされる北朝鮮兵士の無線の内容を公開していたが、北朝鮮の兵士とされる人物は「我々同志の遺体の収容には時間がさらにかかりそうだ。私は早朝に兵士を集めて遺体を収容しに出かけるつもりだが、どう思うか」と、誰かに語り掛けているが、よくよく聞いてみると、原稿を棒読みしているようで、北朝鮮人特有の訛りもイントネーションも感じられない。そこそこ朝鮮語を知っているウクライナ人か、もしくはウクライナに移住した高麗人が話しているような気がしてならない。
ウクライナからすれば、何が何でも北朝鮮の参戦を国際社会に早期に訴え、各国に派兵を求めたいのであろう。そのことはウクライナのアンドレ―・イェルマーク大統領府長官が昨年12月30日、自身のテレグラムを通じて「今ここでロシアを防がないと、北朝鮮軍はNATOとの国境に現れるかもしれないだろう」とNATO諸国に警鐘を鳴らし、またゼレンスキー大統領も1月9日のUDCG会議で「この戦争で経験を積んだ北朝鮮軍がインドアジア太平洋の安全を脅かすかもしれない」と発言していたことからも明らかだ。
それだけにウクライナは一日も早く「決定的な証人」として北朝鮮兵士を生け捕りにし、自供させるべきだ。
全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領の暗殺を企てた1983年の「ラングーン事件」も1987年の「大韓航空機爆破事件」も、また1996年の「北朝鮮ゲリラ潜水艦事件」も、古くは朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の命を狙った「青瓦台襲撃未遂事件」も実行犯を1人、捕らえたことによって北朝鮮の蛮行が明るみになったことをウクライナ当局は教訓とすべきである。
(参考資料:ウクライナ戦争への北朝鮮派兵の「虚実」 何が本当で何がフェイクか? 10件の情報を検証する!)