2025年1月17日(金)

 「守護神」の夫の逮捕で戸惑う尹大統領夫人 逮捕か、入院か、国外脱出か

尹錫悦大統領夫妻(大統領室から)

 夫、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が逮捕されたことで竜山の大統領公邸にいるのは金建希(キム・ゴンヒ)夫人だけである。大統領の配偶者なので警護はされているものの心を打ち明けることのできる相談相手は身近にはいない。夫婦の間には子供はいないし、母親も同居しておらず、まさに孤独の身である。

 金建希夫人には2021年12月に発足したファンクラブがあった。一時は会員が10万人に達するほど金夫人は人気を博していたが、それも今では消滅してしまっている。

 金夫人には大小、様々な疑惑が付きまとっている。経歴詐称から税の滞納、税関麻薬捜査への圧力、土地の不正購入、クリスチャンディオールバックの授受、職権の乱用、証拠隠滅疑惑等々その数は15件に及ぶ。中でもBMWなど国内販売権を持つドイツモータズの子会社「ドイツファイナンシャル」の転換社債を相場よりも安い価格で購入した株の疑惑と大統領選挙世論操作疑惑及び昨年4月の国会議員選挙公認介入疑惑は重大疑惑である。夫人の疑惑を捜査する「特別検察官」を任命する法案(「金建希特別法」)が国会で採択されれば、どう転んでも有罪は免れないと言われている。

 これまで夫が伝家の宝刀である拒否権を行使したことにより3度にわたってこの法案を葬り去ることができた。しかし、防波堤となっていた夫は弾劾され、職務停止に追い込まれ、挙句の果てに逮捕され、今は、拘置所の中だ。

 尹大統領を追い詰めた最大野党「共に民主党」の重鎮、朴智元(パク・チウォン)議員は昨日、国営の「KBSラジオ」に出演し「次は金建希の番だ。金建希こそが尹錫悦をこのようにさせた張本人だ。当然、逮捕すべきだ」と、「民主党」の次のターゲットが金夫人であることを公然と明かした。すでに民主党は国会に再度、「金建希特別法」を提出する構えでいる。

 大統領代行の崔相穆(チェ・サンモク)副首相が拒否権を行使してくれれば、また国会本会議で与党「国民の力」が全員一致して反対に回ってくれれば、安泰だが、崔代行が見放せば、あるいは与党から8人の造反者が出れば、特別検察官に追及されるのは必至だ。

 仮に今は持ち堪えることができたとしても3月には結審となる憲法裁判所の弾劾可否の裁判で弾劾が確定し、夫が罷免されれば、1週間以内に大統領公邸を出なければならない。

 同じく弾劾され、2017年3月10日に罷免された朴槿恵(パク・クネ)元大統領の場合は12日には大統領官邸を去り、9日後にはソウル地検に呼ばれ、取り調べを受け、3月30日には手錠を掛けられてしまった。

 現状は、夫と同様に本人が一番恐れている刑務所に収監されるという最悪の事態が待ち受けている。

 金夫人は勝ち気で気丈と言われているが、大統領秘書室から漏れ伝わってくる話では「憔悴しきっていて、食事も喉を通らない。今にも倒れそうで、一度病院で診てもらわなければならない」とのことである。

 体調が芳しくなくても大統領官邸には主治医も看護師もいる。また、外部から医者を呼んで診てもらうこともできる。それでも大統領室や金夫人と面会した与党の一部議員の間で「入院説」が飛び交うのは入院を要するほど健康が悪化しているのか、差し迫る司直の手から逃れるためのどちらかだ。後者ならば、金夫人にとって病院は一時的であってもまさに「避難場所」となる。

 その一方で、尹大統領と違って金夫人にはまだ出国禁止措置が取られていないことから国外脱出の噂もまことしやかに流れている。

 金夫人は尹大統領が戒厳令を宣布した12月3日の夜、お忍びで整形外科病院を訪れ、約3時間滞在していたことが確認されているが、訪問が病院で整形の施術を受けるためなのか、それとも何かを相談ごとのためなのか、訪問目的が今もって明らかにされていない。

 この病院の院長は大統領諮問医であることや2022年7月に大統領夫妻が釜山国際博覧会誘致広報のためにフランスのパリを訪問した時にルイ・ヴィトン財団美術館にお供させるほど金夫人が信頼を寄せている人物である。ちなみに、金夫人が病院を訪れてからしばらくして院長は中国を訪れていた。

 いかに犯罪人引き渡し条約がないとはいえ、体制の異なる中国への亡命はあり得ないと思うが、国外脱出を危惧した「民主党」や第2野党の「祖国革新党」は法務部に対して早期に出国禁止措置を取るよう、また検察に対しても1日も早く捜査に入るよう圧力を強めている。