2025年1月18日(土)

 ロシアに派兵された北朝鮮兵士は4月には全滅する!?

生け捕りにされた北朝鮮兵士(ゼレンスキー大統領のテレグラムから筆者キャプチャー)

 ウクライナ軍は北朝鮮がロシアに派兵した1万2千人の兵士のうち、約3分の1にあたる4千人を殺傷し、北朝鮮の兵士2人を生け捕りしたことで勢いづいている。

 米戦争研究所(ISW)が1月16日(現地時間)に発表した「ロシアの攻勢評価」報告書によると、ゼレンスキー大統領の発表や韓国国家情報機関「国報院」の報告とおり、派遣された北朝鮮軍から1か月で少なくも3000人以上の死傷者が出れば、北朝鮮派兵力は4月までには全滅する。

 問題は、北朝鮮がさらに兵力を補充するかどうかだが、米ランド研究所のブルース・バネット上級研究員は金正恩(キム・ジョンウン)総書記が派遣されている北朝鮮の兵士が「ロシアの弾丸の餌食として利用されているという事実に裏切られたと感じたならば、追加の兵士を送らないかもしれない」と予測し、米国家情報会議(NIC)の元北朝鮮担当情報官、シドニー・サイラー氏もまた「ロシアとの血縁を示すため12000人の兵士を派遣する目標が達成されたので北朝鮮がより多くの兵士を派兵する理由はなくなった」と述べ、北朝鮮の追加派兵には否定的見方を示している。

 ゼレンスキー大統領が1月11日に自身のテレグラムで「生け捕りした」と発表した20歳と26歳の2人の北朝鮮兵士以外にその後、ウクライナからは新たな捕虜の発表はないが、国際的な人権団体であるヒューマン・ライツ財団の李ソンミン韓国担当局長が1月15日、ウクライナの最前線で死亡したとされる北朝鮮兵士の遺品から家族と撮った2枚の写真や文書などを公開していた。李局長はウクライナ特殊軍のための通訳を引き受けている。

 写真も文書もロシア・クルスク地方での戦闘で死亡した北朝鮮軍将校の遺体から発見されたもので、将校の身分証明書には「サルグラル・ビチョール・マーデログル」という名前が書かれてあった。写真は「なんて美しい思い出でしょう!2024.8.15」と書かれていることからロシアに派遣される前の昨年8月15日に北朝鮮で撮ったものとみられている。

 また、文書は北朝鮮軍の内部文書のようで「第94旅団の戦闘経験と教訓」と題されてあった。この他にも日々の任務遂行順序や遂行手順を記した文書も発見されており、ある文書には戦闘中の負傷者を自分たちで処理し、できるだけ隠さないようにという指示も含まれていた。

 ロシア軍と北朝鮮軍を揺さぶるためウクライナ軍当局は断続的に北朝鮮兵に関する情報を流しているが、意外な情報もある。ウクライナのメディア「UAワイヤー」(1月16日付)にクライナ軍高官であるペトロ・ハイダチュク氏が捕虜になったロシア軍から聞いた話として「北朝鮮軍の戦闘即応性はロシア正規軍よりも優れている」と語っていたことだ。

 「UAワイヤー」によると、ロシア人捕虜は北朝鮮軍と一緒に訓練を受けていたようで「北朝鮮兵士の装備、武器、訓練がロシアの契約兵士(正規兵)よりもはるかに優れている」と明かしていた。このロシア人捕虜によれば、北朝鮮軍が攻撃作戦を担当し、ロシア軍は北朝鮮軍の攻撃が成功した後の地域の安全確保を担当していたとのことである。

 ウクライナ軍第80空輸旅団所属にしていた元ウクライナ軍人のユリー・ボンダール氏もまた、SNSで「北朝鮮兵の小型兵器熟練度が非常に高い。彼らの攻撃や躍動的だ。ある司令官は『北朝鮮兵士らに比べれば、ワグネル(民間軍事会社)の傭兵は子どもに過ぎない』と言っていた」と綴っていた。

 さらに、ウクライナのある特殊部隊隊員はウクライナの日刊紙「キエフ・インディペンデント」(1月15日付)とのインタビューで「ロシア軍は簡単に降伏する傾向があるが、北朝鮮軍はそうではない」と述べていた。この隊員によると、「北朝鮮の兵士たちは自分たちの信念に非常に忠実で、自分たちの規律や言われたこと、任務に忠実であり、ロシア人よりも若く、回復力があり、やる気に満ちている」とのことである。

 北朝鮮軍攻略作戦に関与していたこの特殊部隊員は「北朝鮮の兵士をもう少しで捕まえるところだったが、北朝鮮兵士は『党に栄光あれ』と『金正恩に栄光あれ』と書かれてある手榴弾で自殺した」として、このため「ウクライナ軍が直面した最大の障害の一つは、平壌(北朝鮮)軍に植え付けられた狂信的で自殺的な熱意を克服することにある」と述べている。

 米国防総省のパトリック・ライダー報道官は1月13日(現地時間)のブリーフィングで北朝鮮軍の戦力の評価について尋ねられた際に「彼らは概してよく訓練され、有能だ。あらゆる点で能力があり、ウクライナの戦場で明らかに脅威を与えていることは分かっている」との発言を図らずも裏付けていた。

 北朝鮮兵が全滅すれば、戦力が低下し、クルスクの奪還を目指すロシアにとっては大きな痛手となる。

 なお、韓国軍は北朝鮮兵士2人がウクライナ軍に生け捕りされたことを1月16日に拡声器放送を使って北朝鮮に流した。

(参考資料:クルスク州でウクライナ軍に生け捕りにされた2人の北朝鮮捕虜の詳細)

(参考資料:クルスクで生け捕りされた北朝鮮捕虜の肉声 間違いなく北朝鮮訛りだった!)