2025年1月21日(火)

 大統領就任演説で読み取れるトランプ大統領の北朝鮮への対応 無策のバイデン政権から180度シフトへ

シンガポールでの米朝首脳会談で握手するトランプ大統領と金正恩総書記(労働新聞から)

 第2次トランプ政権が1月21日、正式に発足した。

 欧州や南米だけでなく、日本や韓国、中国などアジア諸国にとって最も気になるのがトランプ大統領の外交政策である。

 トランプ大統領は就任演説の冒頭から「我々はこれ以上、自分自身(米国)が利用されることを許さないだろう」と述べ、対外政策の基礎として第1次政権と同様に「米国ファースト」を掲げ、米国の利益を中心に据えた外交を展開することを公言した。

 トランプ大統領はまた、「最高司令官として私には我が国を脅威と侵略から守ること以上の責任はない。そして、それがまさに私がやろうとしていることだ。これまで誰も見たことのないレベルでやる」と断言した。

 圧倒的な軍事力を見せつけることで平和を守るというのがトランプ大統領の外交手法だが、米国にとっての脅威の一つである北朝鮮の核・ミサイル脅威はクリントン政権以来の米国の懸案である。

 長年の懸案を解決するためトランプ大統領は第1次政権時の2018年から2019年にかけて、シンガポールとハノイで北朝鮮の独裁者、金正恩(キム・ジョンウン)総書記との会談に臨み、歴史的な和解を目指したが、最終的な合意を見ぬまま、道半ばで志は途絶えた。

 後を受けたバイデン政権下では米朝関係は全く動かなかった。それもこれもバイデン政権の無関心に尽きる。これといった政策を打ち出せず、その結果、この4年間何一つ目立った成果が見られなかった。換言すれば、無策、無能に尽きる。

 バイデン政権以外は破綻はしたものの米国の歴代政権は北朝鮮と交渉し、それなりの合意に達していた。

 クリントン政権下(1993年1月〜2001年1月)では1年4カ月のマラソン交渉の末、1994年6月に「ジュネーブ合意」(米国が軽水炉2基の提供と制裁の解除、連絡事務所の相互設置を提示し、北朝鮮が核施設の凍結と核不拡散条約への復帰を表明)が交わされた。また、2000年10月には北朝鮮から長距離ミサイル発射中止の約束を取り付けた「米朝共同コミュニケ」も出された。この年はオブライト国務長官と北朝鮮軍トップの趙明禄(チョ・ミョンノク)軍総政治総局長の平壌、ワシントン相互訪問もあった。

 ブッシュ政権下(2001年1月〜2009年1月)でも日本と中国、ロシア、そして韓国も交えた6者協議を実現させ、2005年9月に北朝鮮がすべての核兵器及び既存の核計画を放棄することと核不拡散条約(NPT)及び国際原子力機関(IAEA)に早期に復帰することを約束した「共同声明」を出していた。ブッシュ政権は2007年3月にも北朝鮮と交渉し、5千kw級原子炉1基、放射化学実験室、核燃料棒製造施設、5万kw原子炉1基(建設中断中)そして泰川にある20万kw(建設中断中)の5か所を凍結(封印)させる「6者合意」をまとめた。

 「6者協議」はブッシュ政権の任期最後まで稼働し、当時米国の首席代表だったヒル国務次官補は2008年10月の3度目の訪朝で米国のテロ支援国解除を条件に北朝鮮に核施設の無能力化作業を再開させ、再処理施設への封印と監視カメラの再設置を実現させた。その4か月前の6月27日には冷却塔を爆破させていた。

 オバマ政権(2009年1月〜2017年1月)も2012年2月に北朝鮮と米朝合意を交わしていた。

 合意で北朝鮮は米朝会談が行われる期間の核実験と長距離ミサイルの発射中止、寧辺のウラン濃縮活動の臨時停止し、IAEAの監視の受け入れを表明し、これに対して米国も北朝鮮を敵対視せず、両国の関係改善を目指し、6者会談再開時に制裁の解除と軽水炉提供の論議を進めることを約束した。

 オバマ政権は米朝合意が進まなかったことに苛立ち、任期後半は「戦略的忍耐政策」に舵を切ってしまい、その結果、北朝鮮に3度の核実験(2013年2月、2016年1月と9月)を許してしまった。ブッシュ政権下では長崎に投下された型のプルトニウム核爆弾止まりだったのが、オバマ政権下では広島に投下されたのと同種のウラン型、さらには「水爆」と称する実験まで放置してしまった。

 そして第2次トランプ政権である。

 トランプ第1次政権(2017年1月〜2021年1月)は前述したようにシンガポールでの初の米朝首脳会談で▲新たな米朝関係の構築▲平和体制の構築▲完全なる非核化を骨子とした共同声明を出している。

 この共同声明は米国内では不評を買ったが、トランプ大統領は23年7月23日 フォックスニュースとのインタビューで「私は金正恩と良い関係を築き、そして我が祖国を安全に守った」と述べ、また、同年9月1日の民事訴訟の場では「私が大統領に当選していなかったら、核戦争になったかもしれない。数百万人の命を救うのが(大統領の)最も重要な仕事だ」と発言し、1週間後の9月8日にサウスダコタ州の共和党募金行事で行った演説では「バイデンが不正選挙せず、私が再選していたならば米朝合意はとっくに成立していたであろう」とまで言い切っていた。

 今回の大統領就任式での「最高司令官として私には我が国を脅威と侵略から守ること以上の責任はない」の発言から今後、北朝鮮を「核保有国」として認めたうえでこれ以上、核爆弾の数を増やさない、米国に向けICBM発射を発射しないことなどを条件に北朝鮮との関係を仕切り直しするものとみられる。

 問題は北朝鮮の対応だ。明日(22日)最高人民会議が開催されるが、国務委員長の金総書記が米国に対してメッセージを発信するのか、政変中の韓国について触れるのか、俄然注目が集まる。