2025年1月22日(水)

 ロシアの同盟国であるベラルーシと北朝鮮の「異変」

訪朝したベラルーシのルイジェンコフ外相を歓迎する崔善姫外相(朝鮮中央通信から)

 ベラルーシと北朝鮮の関係が少し変だ。両国ともロシアとの同盟国である。いがみ合う理由はないはずだ。

 ところが、金正恩(キム・ジョンウン)総書記のメッセンジャーである妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長が1月20日、唐突に噂されている両国の首脳会談に関連して立場を表明したのである。

 金副部長は「ベラルーシ大統領が『朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)をはじめとするアジア諸国がミンスクに協力問題討議のための最高位級対面を行うことを提案した』と言及した」とするベラルーシの国営通信の報道を引用した17日の「タス通信」について論評し、「最小限、私が知っているところではそのようなことはない」と全面否定していた。

 ベラルーシ国営通信の報道によると、ルカシェンコ大統領は2025年の対外貿易問題と関連する自国内での会議でパキスタン、インドネシア、北朝鮮など5カ国が協力問題を話し合うための首脳会議を組織しようとの提案を送ってきたと言及していたそうだ。金与正氏の談話はこの件に関する北朝鮮の立場表明である。

 なんのことかさっぱりわからないが、金副部長が「我々との協力的な関係発展を希望するならば自分の意思を正確に明らかにするのが重要である。このような事実いかんと率直さは二国間関係からの出発点でなくてはならないと思う」と語っているところをみると、北朝鮮からミンスクでのアジア諸国の首脳会議だけでなく、ベラルーシとの首脳会談も呼び掛けたこともない」と言いたかったようだ。

 金副部長はそのうえで「我々はベラルーシ側がこのような立場から発して我々との友好的かつ協力的な関係発展を志向するならば、拒む理由がなく、喜んで歓迎するであろう」と、談話を結んでいたが、要は、5か国よりもなによりも2国間が先でベラルーシが北朝鮮との首脳会談を望むならば、まずはルカシェンコ大統領が訪朝し、金総書記に挨拶するのが先ではないかと、遠回しに言っているように聞こえてならない。

 ベラルーシと北朝鮮との関係はベラルーシが2014年11月の国連総会本会議での北朝鮮人権決議案の採決時に中国、ロシアなどとともに反対票を投じたことはあったが、それほど緊密な関係ではなかった。実際に2016年までベラルーシは国連安保理の制裁決議を遵守していたこともあって北朝鮮の大使館設置を認めていなかった。北朝鮮の大使館がミンスクに開設されたのは2016年9月になってからで、ベラルーシは国際社会を意識し、北朝鮮との間に距離を置こうとしていた。

 両国の関係が急速に発展したのはロシアのウクライナ侵攻以降で、特に昨年からハイレベル交流が活発になり、1月にはウガンダで開催された非同盟首脳会議ではベラルーシのセルゲイ・アレイニク外相(当時)が北朝鮮の金誠景(キム・ソンギョン)外務次官と会談し、4月にはベラルーシのルイバコフ外務次官が訪朝し、さらに3か月後の7月にはルイジェンコフ外相(6月に就任)が平壌を訪問し、カウンターパートナーの崔善姫(チェ・ソンヒ)外相や尹正浩(ユン・ジョンホ)対外経済相らと会談していた。

 両国の会談では2国間の問題を中心に話し合われ、ベラルーシの報道によると、ルイジェンコフ外相と尹対外経済相との会談では食料安全保障、教育、保健など国連安保理決議の制限を受けない分野での2国間経済協力問題が話し合われ、ベラルーシが北朝鮮に食料品を供給し、北朝鮮が化粧品をベラルーシに輸出することで一致をみていた。

 ルカシェンコ大統領は一昨年もロシアと北朝鮮による「3カ国協力」を提案していたが、北朝鮮は全く反応を示さなかった。

 そもそもスタンドプレーというか、1対1の首脳外交が伝統の北朝鮮は元来、多国間首脳会議には関心を払わない。多国間首脳会議に北朝鮮のトップが出席したのは1965年にインドネシアで開かれたアジア・アフリカの非同盟首脳会議(バンドン会議)だけだ。これまでもロシアで開催される東方経済フォーラムにも対独戦勝記念式典にも、あるいは中国の抗日戦勝式典にも北朝鮮の最高指導者が出席することは1度もなかった。

 北朝鮮はロシアとは「包括的戦略パートナーシップ条約」を結び、ウクライナ侵攻にしているロシアに武器と兵力を送っている。国連総会でロシアのウクライナ侵攻を非難する声明に反対し、ロシアを支持したのはベラルーシ、シリア、エリトリアの4か国だけだが、その中でロシアへの軍事支援に踏み切ったのは北朝鮮だけである。ロシアにとって北朝鮮は軍事力に限ってはベラルーシよりもはるかに頼もしい存在である。ベラルーシの兵力は4万5千人と、北朝鮮の110万人に遥かに及ばないからだ。

 ベラルーシは安全保障分野でも北朝鮮との関係強化を望んでいるようだが、北朝鮮はルカシェンコ大統領が平壌詣でするまではベラルーシの誘いに乗る気はなさそうだ。