2025年1月23日(木)
派遣兵の「3分の1を失った」北朝鮮はクルスク奪還の日まで兵を補充する
ウクライナ特殊作戦軍が公開した北朝鮮軍との交戦映像(特殊作戦軍「X」から)
ウクライナのゼレンスキー大統領が1月9日、ドイツ駐屯の米軍基地で行われたウクライナ防衛連絡グループ(UDCG)会議に出席し、「今日現在、北朝鮮軍の死傷者は4千人に及ぶ」と発言していたから2週間が経過した。
英国の「BBC」は7月22日(現地時間)、複数の当局者を引用して、「今月中旬までにロシアのクルスク地域で4000人以上の北朝鮮兵士が死亡、負傷、または行方不明になった」と報道し、ゼレンスキー大統領の発言を補完した。
ウクライナ軍当局も特殊部隊が最近、「ロシアのクルスク州で61人の北朝鮮兵士を殺傷した」として、北朝鮮軍との交戦を撮影したビデオを公開した。約2分18秒の動画には北朝鮮兵士がいるとみられる30カ所に北朝鮮国旗を展示していた。ドローンやボディカメラの映像には顔に重傷を負って死亡したとみられる北朝鮮らしき兵士の姿が映し出されていた。
ビデオの説明では、北朝鮮軍の被害はクルスク州のウクライナ軍陣地を攻撃した際に出たようで、具体的には21人が死亡し、40人が負傷を負った。但し、ウクライナ軍は自軍の死傷者の規模については触れていなかった。
北朝鮮軍の被害は主にクルスク州で発生しているが、これまではそのほとんどがウクライナによるロシア軍基地へのミサイル及びドローン攻撃によるものだが、今回は北朝鮮兵士らがウクライナ軍基地を攻撃した際に発生している。見方を変えれば、ロシア軍と北朝鮮軍が守備から攻撃に移っているためクルスクを死守するウクライナ軍の反撃にあい、被害が増大しているものとみられる。
ウクライナ軍がロシア領に攻め入り、クルスク州を占領したのは昨年8月6日。衝撃を受けたプーチン大統領は昨年9月5日、「クルスク州奪還は神聖な義務である」として反撃方針を打ち出したが、北朝鮮の派兵はそれから1か月後だった。
ロシア国防省は1月17日、ウクライナ軍に一時占領されたクルスク州の領土約1268平方キロメートルのうち63.2%にあたる801平方キロメートルを奪還したと発表したが、約1万2千人の北朝鮮兵の「参戦」なしでは達成できなかったであろう。というのも、ウクライナ軍に捕らえられたロシア人捕虜によれば、クルスク州では北朝鮮軍が攻撃作戦を担当し、ロシア軍は北朝鮮軍の攻撃が成功した後の地域の安全確保を担当しているからだ。
ウクライナ軍高官であるペトロ・ハイダチュク氏が捕虜になったロシア軍から聞いた話では「北朝鮮軍の戦闘即応性はロシア正規軍よりも優れている」とのことである。ウクライナ軍の司令官の中には「北朝鮮兵士らに比べれば、ワグネル(民間軍事会社)の傭兵は子どもに過ぎない」と言っている司令官もいるほどだ。
ウクライナのある特殊部隊隊員はウクライナの日刊紙「キエフ・インディペンデント」(1月15日付)とのインタビューで「ロシア軍は簡単に降伏する傾向があるが、北朝鮮軍はそうではない」とも語っていた。
それでもロシアに派遣した1万2千人の兵士のうち約3分の1にあたる4千人を失うとなると、北朝鮮のダメージも半端でない筈だ。それでも、北朝鮮は兵を撤収することはなさそうだ。むしろ、逆に補強するであろう。
派兵された特殊作戦軍兵士は師団にすれば、1個師団、旅団にすれば、4個旅団にあたる。狙撃旅団と偵察兵旅団、それに軽歩兵旅団、及び自爆特攻部隊から選抜され、編成されているようだ。
「暴風軍団」と称される第11軍団が前身の特殊作戦軍の兵力は6万〜8万人と推定されている。従って、戦局次第では3万人までの派遣は可能だ。
北朝鮮の対露派兵は「露朝包括的戦略パートナーシップ」の「一方が武力侵攻を受けて戦争状態になった場合軍事援助を行う」ことを明記した「第4条」に基づいている。ということは、北朝鮮兵は原則的にロシア領の防御、即ちクルスク防御に限定されている。
金総書記は「平壌はモスクワと共にいる」と、何度もプーチン大統領にエールを送っていたが、北朝鮮にとってロシアの敗北は即ち、北朝鮮が敗北することと捉えている。「世界最強の軍隊」を有していると常日頃、豪語している金総書記が自国の兵士をさらにロシアに派遣することはあっても、予想外の犠牲者が出たからといって引き揚げ、撤退を検討することはあり得ない。
ウクライナが「戦果」として北朝鮮軍の被害状況を伝えれば伝えるほど金総書記はむきになり、北朝鮮兵をロシアに送り続けるであろう。
(参考資料:ロシアに派兵された北朝鮮兵士は4月には全滅する!?)