2025年1月29日(水)
クルスク戦線の北朝鮮兵は特攻隊 依然として投降者はゼロ
ウクライナ空挺部隊に捕獲された北朝鮮兵士(ゼレンスキー大統領のテレグラムから)
北朝鮮が昨年10月からロシアに派兵した兵士の数は約1万2千人前後。死傷者はゼレンスキー大統領の発表によると3分の1にあたる約4千人に上るが、捕虜は2人である。
特殊作戦軍が1月9日にクルスク州での戦闘で負傷し、防空壕に潜んでいた20歳の兵士とパラシュート部隊が捕獲した26歳の狙撃偵察将校の2人だけである。
北朝鮮兵がロシアに派遣され、前線のクルスク州に投入された際には「実践経験のない北朝鮮兵士は恐怖に怯え逃走する」とか「誰も祖国に命を捧げる者はいない」とか「上官の命令に服従せず、我先に脱走する」とか様々なことが言われていたが、現実は違っていた。「脱走兵は射殺する」とか、「投降するならば、自決せよ」との命令が下され、徹底した監視、統制下にいるにせよ、それでも一人ぐらいは脱走兵や投降者が出ても不思議ではない。
昨年11月1日付の「北朝鮮の対露派兵部隊が『暴風軍団』ならば投降せず、自害する!」との見出しの記事で、「派遣された兵士が強制的に送り込まれた一兵卒や新兵ならばいざしらず、思想的にも精神的に鍛練、武装され、人一倍忠誠心の強い兵士ならば、銃を突きつけられない限り、自発的に白旗を掲げ、投降する可能性は低いのでは」と分析していたが、どうやら的外れではなかったようだ。
ウクライナ当局は当時、栄養失調状態にあると伝えられていた北朝鮮兵士にビラや拡声器などを使って武器を捨てるよう呼び掛ければ、多くの兵士が戦線を離れ、ウクライナに投降するか、又は韓国に亡命するだろうとの期待を寄せ、北朝鮮軍に対して巧みな心理戦を行っていた。
実際に北朝鮮兵が激戦地クルスクに投入された昨年12月にはウクライナ軍は降伏を促すビラや動画を制作し、また、朝鮮語で降伏方法を説明したリーフレットを北朝鮮軍が配備されていた最前線に向けばら撒いていた。
「どうやれば命を救うことができるのか?地面に伏せて横たわる」と書かれてあったビラは北朝鮮の兵士たちに武器を捨てて白い布やビラを手にウクライナ軍に接近するよう指示してあった。内容が理解されやすいよう写真もプリントされていた。
また、ウクライナ軍はテレグラムチャンネルに「生きたい」と題する韓国語の1分14秒のプロモーションビデオも投稿していた。そこには北朝鮮の捕虜が収容する刑務所や寝室の様子、食事の準備の様子が映し出されていた。ビデオではウクライナ軍が「避難所、食料、暖かさを提供する」と呼び掛けるシーンもあった。
今年もウクライナ軍は北朝鮮兵に降伏を促すチラシを空から撒き続けている。そのことは英国紙「デイリー・メール」が1月12日付けで報じていた。
同紙によると、北朝鮮の軍事拠点に配布されたビラには「無意味に死ぬな!明け渡すのが生きる道だ」書かれてある。このビラは北朝鮮軍のドローンに対する恐怖心を利用して、作成されたものである。
こうした投降を呼びかける心理戦はロシアの侵攻が2022年に本格的に始まってからウクライナ諜報機関が担っているが、この作戦でこれまでに多くのロシア軍人がウクライナに降伏したと言われている。
心理戦に担当している諜報機関のヴィタリー・マトビエンコ氏は北朝鮮兵士についても「誰もが戦争を望んでいるわけではない。これをチャンスと捉えて北朝鮮を離れて他国へ向かう兵士も多いかもしれない」とみて、北朝鮮兵士に対しても同様の心理戦を展開してきたが、今のところ実質成果はゼロである。
ウクライナ紙「キエフ・インディペンデント」(1月15日付)のインタビューに応じた北朝鮮軍攻略作戦に関与していた特殊部隊員の話では、北朝鮮の兵士は捕まる直前に「党に栄光あれ」と「金正恩に栄光あれ」と書かれてある手榴弾で自殺するとのことである。
「ニューヨーク・タイムズ」(7月22日付)もまた、北朝鮮軍と交戦したウクライナの軍司令官や国防総省関係者らの話を引用し、「北朝鮮の兵士らはその日、攻撃する場所を割り当てられると、戦闘車両の援護なしに、事実上裸で攻撃を開始する」と報じている。
また、「CNN」(1月28日)もウクライナ特殊作戦部隊から入手したビデオ映像を引用して、「北朝鮮軍が自爆特殊部隊を彷彿とさせる無謀な戦術を使用している」と報じていた。一部の兵士は動きやすくするため重い防弾チョッキやヘルメットも脱ぎ捨てウクライナ軍の陣地に突入するとのことである。
ウクライナ特殊作戦部隊の司令官は「北朝鮮人は手榴弾を携帯している。つまり、彼らは自爆できる。彼らは降伏の要求にもかかわらず戦い続けている。兵士の最後の叫び声は『金正恩将軍』への忠誠心を表している」と,「CNN」に語っていた。
ロシアのクルスクに配備された北朝鮮軍の一部が「一時的に前線から撤退している」との情報が流れている。
北朝鮮軍の撤退についてウクライナのメディア「Evocation
Info」は北朝鮮軍が駐屯地を回復し、3月中旬に予想される増援を待っているように見える」と分析しているが、現地の北朝鮮の兵力はまだ3分の2(8千人)も温存されている。
多大な犠牲を払ってクルスクの約65%まで奪還した北朝鮮とロシア兵に撤収する理由は見当たらない。増援はあっても、撤収はあり得ないのではないだろうか。