2025年1月31日(金)
韓国の大統領はなぜ、占い、お告げに嵌るのか
占い師・イ・チョンゴン氏(チョン・ゴンユーチューブチャンネルからキャプチャー)
運勢を占う、手相をみてもらう、姓名判断をしてもらう、お寺や神社に参拝し、願掛けするなどは古くからのしきたりである。
韓国の場合も易者や女性のムーダンなど占い師のお告げ(シャーマニズム)に依存する政治家が多い。大統領も例外ではない。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領にも何人かの占い師、易者がいる。
1人は大統領選挙時に選挙対策本部で活動し、もう一人は、金建希(キム・ゴンヒ)夫人が頼りにしている易者で、夫人が経営していたインテリア会社の顧問をしていた。
尹大統領は大統領選テレビ討論会で手の平に「王」の字を書いて出てきたことがあったが、どうやら占い師によるまじないのようだ
他にも尹大統領夫妻の身の上相談役と噂されている占い師もいる。この占い師は今でも弾劾され苦境に陥った尹大統領を「尹大統領は天が授けた大統領なので天の助けで状況を反転できる」と述べ、尹大統領に「気」を送っているようだ。
尹大統領は大統領就任と同時にソウル・鐘路区の北岳山の麓にあった大統領官邸「青瓦台」を閉鎖し、ソウルの竜山に移したが、これもお告げによる。「方角が悪い」との占い師の一言で韓国政府は移転費用だけで500億ウォンから800億ウォンも費やしていた。ちなみに尹大統領の非常戒厳令を金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相と一緒に実行したノ・サンウォン元情報司令官も退役後は占い師に転じていた。
歴代大統領をみると、初代の李承晩(イ・スンマン)大統領は幼年時代の名前は李承龍(イ・スンヨン)だったが、「この子は晩年に王になる」との夢の中のお告げで母親が「龍」から「晩」に変えたようだ。予言どおり、李大統領は1948年に73歳で大統領になっている。しかし、晩年の1960年、学生革命で国外を追放され、米国での亡命生活を余儀なくされている。
次の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領にも占いに関しては様々なエピソードがある。
白雲鶴(ペク・ウンハク)という名の有名な占い師がその人である。白雲鶴が初めて会った朴大統領の顔を見て、「顔に革命をすると書いてある。革命は成功する」と占い、実際に1961年5月にクーデターが成功したことから朴大統領は贔屓にしたようだ。
白雲鶴はクーデター成功から2か月後の7月にも再度呼ばれ、その時も「今後、20年は大丈夫です。大統領、思う存分やってください」と予言したことから朴大統領は上機嫌だったそうだ。但し、同席していた側近の金鍾泌(キム・ジョンピル)氏が「20年後は?」と聞くと、白雲鶴はそれ以上、答えなかったそうだ。
この話にはオチがあって、大統領室から出てきた白雲鶴は金鍾泌に「閣下の面前で言う訳にいかないが、20年後には亡くなっているとの卦(ケ)が出ていた。命運は酷い最後となっていた」と語っていた。朴大統領はそれから18年後の1979年10月に側近の韓国中央情報部(KCIA)部長に暗殺されるなど残酷な最期を遂げている。
娘の朴槿恵(パク・クネ)大統領も友人の崔順実(チェ・スンシル)のせいで弾劾され、収監される運命を辿ったが、崔順実の父・崔太敏(チェ・テミン)は霊媒師だった。崔太敏は1974年に朴大統領がまだ22歳の時に「母親の声を聞きたければ、私を通じればいつでも聞けるから」と手紙を送ったことで身近な関係を築いた。
崔順実も父親の霊的能力を受け継ぎ、予知能力があるとされ、朴大統領はそれにすがっていた。朴大統領が2016年2月に開城工業団地を閉鎖するなど北朝鮮に強硬策を取ったのも「2年以内に北朝鮮は崩壊する」との崔順実のお告げによるものだった。何しろ、朴大統領の演説文には精神とか魂とか、空など宗教的表現が多く登場していた。
この他にも盧泰愚(ノ・テウ)大統領も1987年12月の大統領選挙の日を「12月16日と17日のどちらにすればよいのか」と、占い師に尋ねたことがあった。
占い師が「16日にすれば票は多いが、子は少なくなる。17日だと、票は少ないが、子は多くなる」と答えたので盧大統領は選挙日を16日に定めた。その結果は当選したが、その後に行われた国会議員選挙では政権与党の「民主正義党」は惨敗する羽目となった。「子」は子分、即ち国会議員を指していた。
また、後の金泳三(キム・ヨンサム)大統領も1992年の大統領選挙日を占い師に決めてもらっていた。
金大統領は占い師から「12月18日にしなさい」と言われ、その日にしたところ、当選した。後にわかったことだが、占い師は「12月18日は金曜日で、12と18日を足すと、30になる。30を逆にすると、0(ヨン)3(サム)になり、ヨンサムに金がつく」ということだったらしい。
ちなみに朴正煕大統領も1972年10月17日に大統領の任期を6年に延長するなどの憲法改正を行ったが、占い師の白雲鶴から「10月17日に維新を断行せよ」との「お告げ」をもらい、10月17日夜7時に全国に戒厳令を宣布し、国会を解散し、憲法改正を成功させている。
尹大統領が戒厳令を宣布したのももしかすると、占い師の予言によるものかもしれないが、今のところ、大統領官邸の移転は「凶」と出たようだ。