2025年7月4日(金)
道に迷ったのか、亡命か、軍事境界線を越えた北朝鮮男性の処遇が李在明政権の対北アプローチの試金石となる
南北軍事境界線(韓国国防部)
韓国軍合同参謀本部は今朝、3日夜に「中西部戦線の南北軍事境界線(MDL)を越えてきた北朝鮮の市民1人の身柄を確保した」と発表した。どうやら軍人ではなく、民間人らしい。
一般的に民間人の場合は北方限界線(海上の海の境界線)から泳いで韓国側に入るか、あるいは木造船で韓国に渡るケースは多いが、陸、即ち、軍事境界線からの韓国への移動は極めて珍しい。
韓国軍当局の発表によると、この男性は午前3〜4時頃に中西部戦線の水深1メートルほどの浅い河川にいたところを韓国軍の監視設備に発見さ救助されたようだ。亡命の意思があるのか確認中とのことだが、民間人が軍事境界線に近づくことは禁じられているので知らずに越境したとは考えにくく、おそらく、脱北したのであろう。
北朝鮮からの越境は北朝鮮兵1人が江原道・高城地域のMDLを越えて韓国側に渡った昨年8月20日以来で、李在寅(イ・ジェミョン)政権になって初めてである。
今なお南北合わせて100万以上の軍人がソウルから約60km、平壌から約180kmに位置する軍事境界線を挟んで対峙し、銃を向け合っているMDLでは何人も当局の許可なく接近することはできない。
1953年7月27日に交わされた休戦協定の第1条7項には「軍事境界線をいかなる軍人も文民も許可なく越えることはできない」と書かれてある。
東西約237kmに及ぶ軍事境界線には兵士や戦車や装甲車の侵攻を防ぐため200万個以上の地雷が埋められており、越境は容易ではない。よほどの決死の覚悟がなければできない。境界線から南北合わせて4km離れた非武装地帯(DMZ)への立ち入りも当然厳禁である。
北朝鮮の兵士が小型四輪駆動車で板門店の南北境界線を突破しようとしたところ、境界線の約10m手前でタイヤが側溝にはまってしまい、止む無く車から飛び出し、走って韓国側に滑り込んだ、あの衝撃的な事件が起きたのは初の米朝首脳会談が行われた年の2018年11月のことである。
兵士は追走してきた北朝鮮警護兵らから数十発の銃弾を浴び、半死状態ながらも韓国亡命を果たしたが、多くの韓国人の記憶に鮮明に残っている。
「敵前逃亡」は本来ならば、南北問わず誰であっても射殺の対象となる。
韓国からも先月(6月)11日に軍事境界線に近い京畿道の波州市で20代の韓国人男性が夜11時頃に鉄条網を越え、立ち入り禁止の軍事区域に無断侵入する事件が起きたが、幸い身柄を拘束されただけだった。韓国軍はまだ寛大である。
南北関係の修復を図りたい李在明政権は3月に黄海(西海)の海上で船が故障し、漂流していたところを韓国軍に救助された木造船乗組員2人と5月に日本海で漂流していた木造船の乗組員4人を全員が帰国を望んでいることから速やかな北朝鮮送還を打診しているが、肝心の北朝鮮が韓国の呼びかけに応じず、引き取ろうとしないため宙ぶらりんの状態になっている。
仮に北朝鮮が引き渡しに応じれば、関係改善の一歩を踏み出すことができると密かに期待しているが、昨夜身柄を確保した男性が亡命を希望しているならばこの6人の返還交渉の障害となるかもしれない。