2025年7月6日(日)
訪日が先か、訪中が先か 悩む李在明大統領
「抗日戦勝70周年」に出席した朴槿恵大統領を歓迎する習近平主席(青瓦台提供)
李在明(イ・ジェミョン)大統領(2025年6月4日〜)は大統領就任から2週間後には主要7カ国首脳会議(G7サミット)に出席するため開催地のカナダを訪れているが、米国を含め個別の国への訪問はまだない。
歴代大統領の最初の外国訪問地は朴正煕(パク・チョンヒ)政権以来、決まって同盟国の米国である。
現在、魏聖洛(ウィ・ソンラク)国家安保室長がワシントンを訪れ、トランプ大統領との米韓首脳会談に向け李大統領の訪米を打診しているようだが、関税問題などもあって早期に実現するものとみられる。
問題は米国の次の外遊先である。
李明博(イ・ミョンパク)政権(2008年2月発足)までは日本だった。
保守系の李明博大統領は就任2か月後には早くも日本を訪れていた。前任者の進歩系の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領(2003年2月)も就任から3か月後には日本を訪問していた。また、その前の進歩の象徴とされる金大中(キム・デジュン)大統領(1998年2月)ですら7か月後には初来日していた。
しかし、李明博大統領の後継者である保守の朴槿恵(パク・クネ)大統領(2013年2月)は5月の訪米の後、
次の外遊先として選んだのは日本ではなく、中国であった。また、その次の文在寅(ムン・ジェイン)大統領(2017年5月)も中国を選んでいた。
朴槿恵大統領が日本を選ばなかった理由は大きく分けて2つある。
一つは、経済的な理由である。
当時、中国は韓国にとって輸出入ともに第一位の貿易相手国であった。貿易規模は2150億ドルを突破し、それも、韓国の478億ドルの黒字であった。それに比べて、日韓貿易は中韓の半分にも満たない800億ドル規模で、韓国が中国と国交を結んだ1992年時の310億ドルから約2.5倍しか伸びておらず、加えて対日貿易は慢性的に赤字だった。
二つ目の理由は、日本との間には領土問題や歴史認識問題で外交摩擦が絶えなかったことだ。
「歴史に正しい認識を持てなければ明日はない」と
日本を批判していた朴大統領は「日韓の懸案が処理されない限り、対日関係強化には限界がある」として訪日に積極的ではなかった。結局、朴大統領は2017年3月に大統領を罷免されるまで在任中に日本を一度も訪れることはなかった。歴代大統領の中で唯一訪日歴のない大統領として歴史に名前を刻むことになった。
文在寅大統領の場合は、大統領就任から7か月後の2017年12月に国賓として中国を訪問しているが、日本を訪れたのは就任から2年経ってからである。それも「日韓シャトル外交」の一環ではない。大阪で2019年6月に開幕したG20サミットに出席するためだった。その後、文大統領は2021年7月に開催された東京五輪に合わせた訪日も検討したが、日韓関係の悪化で見送られてしまった。
首脳外交の2番目の訪問先を日本に回帰させたのは他ならぬ「親日」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領(2022年5月)であった。大統領就任から8か月後、岸田文雄政権下の2023年3月に実務訪問賓客として訪日している。尹大統領は「大統領になれば、真っ先に訪米し、次に日本を訪問する」との公約を守ったのである。
そこで注目されているのが李在明大統領の選択である。
李在明大統領もどうやら尹錫悦大統領に倣って訪日を優先視していた。そのことは7月3日の記者会見で「今月訪日を希望していたが、日本は選挙で忙しいようなので」と発言していたことからも明らかだ。李大統領はG7での石破茂首相との会談で「自分のほうからシャトル外交を切りだした」ことを明かしていた。
参議院選挙が終われば、李大統領の訪日も日韓の間で日程に上がるものと予想されるが、仮に選挙結果、自公政権が過半数を割り、政局が揺れるようなことになれば、李大統領の訪日は先送りになることも考えられる。
となると、中国が9月3日に天安門で開かれる「抗日戦争及び世界反ファシスト戦争80周年の式典への李大統領の出席を要望していることもあって訪中が先になる可能性も否定できない。
それというのも李大統領は記者会見で「韓米首脳会談であれ、韓日会談であれ、韓中会談であれ、会って話そうと思う」と柔軟かつ実用主義的な外交を強調していたからである。加えて11月に韓国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)に習近平主席の出席を要請していることもあって無下には断れない事情もある。
オランダで6月下旬に開かれたNATO首脳会議には招待されたのに出席せず、米国と対立している中国を訪れることに野党から批判を声が上がっているが、大統領室及び与党「共に民主党」は10年前の「抗日戦勝70周年」式典に朴槿恵大統領が出席したことを引き合いに出して、反論していることもそうした可能性を浮かび上がらせている。
当時、習近平主席は西側首脳として唯一出席した朴槿恵大統領を熱烈歓迎し、天安門のひな壇での並び位置は習近平主席を真ん中に右隣がプーチン大統領で、左隣が朴大統領だった。
ちなみに金正恩(キム・ジョンウン)総書記は出席せず、側近とはいえ格下の序列No6の崔龍海(チェ・リョンヘ)書記(当時)を派遣していたこともあって中国は崔書記を厚遇しなかった。