2025年7月7日(月)

 不気味なほど静かな米朝 「トランプ対金正恩」のバトルもなし!

板門店で軍事境界線を越え、北側に入るトランプ大統領(青瓦台写真記者団)

 トランプ大統領が1月20日にカムバックしてから半年近くが経過した。

 国内では関税問題や側近だったイーロン・マスク氏との対立に追われ、対外関係ではウクライナ問題やイラン空爆に関わる一方、NATO(北大西洋条約機構)に防衛費増額を迫るなどトランプ大統領は超多忙を極めており、北朝鮮に構っている余裕はないようだ。

 トランプ大統領にとっては本来ならば北朝鮮は中国、ロシアと並び米国及び同盟国の安全を脅かす「3大脅威」の筈だが、北朝鮮は小国であるが故に大国の中露とは同列しておらず、それほど関心を払っていないようだ。

 トランプ大統領はイランとは異なり、北朝鮮と事を構える気はさらさらないようだ。さりとて、今直ぐに北朝鮮と直談判をする気もなさそうだ。朝鮮半島が平穏でいる限り、慌てて北朝鮮問題に取り組む喫緊性も感じていない。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記も同様に現時時点ではトランプ大統領のことは念頭にはないようだ。トランプ大統領からの挨拶代わりの親書を受け取らなかったのはその証だ。

 軍事支援の見返りにロシアから巨額な経済支援を得ている現状下で核と交換に米国から制裁解除を取り付ける必要がないことや国防発展5か年計画の目玉である軍事偵察の衛星や原子力潜水艦の保有を最優先にしている事情もあって対米交渉に意欲を示していない。

 とはいうものの、20日後には朝鮮戦争休戦日(1953年7月27日)が控えている。また、8月に入れば大規模の米韓合同軍事演習「乙支フリーダムシールド(UFS=自由の盾)」が始まる。昨年の場合は、8月19日から29日まで北朝鮮の大量破壊兵器(WMD)対応訓練や誘導弾対空射撃、空中強襲訓練や渡河訓練、さらに多重利用施設対テロ総合訓練など連合野外機動演習が展開された。

 米韓合同軍事演習が始まれば、北朝鮮が対抗手段として短距離ミサイルを発射し、グアムから戦略爆撃機が飛来すればICBMの発射で米韓を牽制するのが恒例となっている。

 結果として朝鮮半島の緊張は否が応でも高まることになる。仮に米朝双方ともそうした展開を望まないならば、どこかの時点で対話を模索しなければならないだろう。韓国の政権が強硬な尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権から米朝対話支持の李在明(イ・ジェミョン)政権に代わったことで対話の障害はなくむしろやり易い環境にある。

 確か、2019年6月に板門店で金総書記に会い、軍事境界線を跨いで北朝鮮側に入ったトランプ大統領は「私は朝鮮戦争を終わらせる大統領になる」とまで言い切っていたが、その思いが今も変わらなければそろそろ何か仕掛けても不思議ではない。

 幸い、米朝共に相互批判はしているもののトップに対する批判は自重している。

 トランプ第1次政権の時も、またバイデン政権の時も就任早々から首脳同士による激しいバトルが演じられたが、トランプ第2次政権下では政権発足直後にルビオ国務長官が北朝鮮を「ならず者国家」と呼び、これに北朝鮮外務省スポークスマンが「世界で最も不良な国家は他国に言い掛かりをつける資格がない」と反論したぐらいである。

 今月3日も米国が主導したクアッド外相会議について北朝鮮外務省スポークスマンが談話を発表し、「米国の覇権的振る舞いは地域と世界の平和と安全を阻害する主たる危険要素に作用している」と非難したもののこれまでトランプ大統領を名指しで批判したことは一度もない。

 トランプ大統領も金正恩総書記も上意下達のトップダウン方式で政治を行う。部下が作成したマニュアルを無視して即断即決する。気分次第で方向を180度転換させる。

 例えば第1次政権の時にトランプ大統領は側近の反対を押し切って、ホワイトハウスに米国にサイバー攻撃を仕掛けたスパイの元締めであった金英哲(キム・ヨンチョル)統一戦線部長(当時)を招き入れた。金総書記も同様に「斬首作戦」の立案者でもあるポンペオCIA長官(当時)を党の総本部である党3号庁舎に入れて面会している。

 トランプ大統領を指して世界は「予測不能の大統領」と呼んでいる。何をするのか、何を言うのか、全く予測が付かないからだ。常識外、奇想天外の言動が多いためこうしたあだ名が付けられたようだ。

 金総書記も予測不能という点では引けを取らない。グアムに向けてICBM「火星12号」を4発発射すると威嚇し、太平洋上で水爆実験も辞さないと言ったかと思えば、一転してトランプ大統領に首脳会談を申し入れるなどはその典型的パターンである。

 あまりにも静かであるが故に不気味だ。この夏、何か動きがあるかもしれない。