2025年6月12日(木)
金総書記がトランプ大統領のラブレターを受け取らない理由 米朝首脳会談は来年までお預け!
トランプ大統領と金正恩総書記(左)(労働新聞とホワイトハウスから筆者キャプチャー)
韓国の李在明(イ・ジェミョン)新大統領をはじめ世界各国の首脳がトランプ大統領との首脳会談の順番待ちをしているのに北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記だけはその気がないようだ。
米国の北朝鮮専門サイト「NKニュース」が昨日(11日現地時間)、金総書記に宛てたトランプ大統領の親書を国連駐在の北朝鮮の外交官が受け取りを拒否していると報じたニュースを韓国のメディアは今朝、大々的に伝えていた。中にはトップ記事扱いしたメディアもあった。受け取り拒否はあり得ない、あるいは奇異と受け止めているからだ。
外電によると、ホワイトハウスのレビット報道官は11日の記者会見でこの報道については否定もせず「トランプ大統領は金正恩氏との書簡のやり取りに引き続き前向きだ。2018年の米朝首脳会談で達成された進展を大統領は望んでいる」と答えていた。
今年1月にカムバックしたトランプ大統領が就任早々、米FOXニュースとのインタビュー(1月23日)で、「金正恩氏に再び連絡してみる」と発言していたことからこうしたアプローチは予想されていたことだ。まして、今日(12日)はシンガポールでの米朝首脳会談7周年の日にあたる。誰もが「何か動きあるのでは」と予測するのは当然のことだ。
「NKニュース」によると、米国はトランプ大統領の親書を何度も北朝鮮に伝達しようとしたのに北朝鮮は拒んだとのことだ。
筆者は6月9日付のこの欄で「北朝鮮の対米批判が鳴りやまないことから大きな変化を期待するのは時期尚早のようだ」と記していたが、残念ながら当たってしまった。
(参考資料:謎の「ショイグ訪朝」で6月の「金正恩訪露」は中止へ ウクライナ戦に本格参戦か!?)
バイデン政権下での北朝鮮の対米批判はトランプ政権になっても変わることなく続いている。
例えば、トランプ大統領就任1か月後の2月2日にはルビオ国務長官が北朝鮮を「ならず者国家」と呼んだことについて外務省代弁人が「米国の対外政策を総括する人物の敵対的言行は過去も現在も変わりが全くない米国の対朝鮮敵視政策を今一度確認してくれた契機となった」との非難談話を出していた。
また、米国が3月に韓国軍と合同軍事演習を行ったことや原子力空母「カール・ビンソン」を釜山に入港させたこと、さらには「B1―B」戦略爆撃機を頻繁に飛来させていることなどをその都度取り上げ、批判していた。
先月(5月)も米国が北朝鮮をテロ支援国に再指定したことについて外務省代弁人が「政治的挑発である」と反発した上で「不必要で非効率的な悪意の行為で我々を刺激すればするほど米朝間の敵対感を一層激化するだけだ」と米国に警告を発していた。
極め付きは5月26日の外務省傘下の米国研究所の備忘録による米国のミサイル防衛システム「ゴールデン・ドーム」への批判である。「米国が敵視する核保有国の戦略的安全を脅かし、米軍の攻撃的な軍事力使用をより容易にすることに目的を置いた危険極まりない威嚇の発起」であると断じていた。
北朝鮮の対米批判は今月になっても収まらず、1日には外務省対外政策室長が日米韓を含む11か国が北朝鮮の国連制裁違反行為、特にロシアとの軍事協力を監視するため立ち上げた「多角的制裁監視チーム」について「米国主導の対朝鮮制裁・謀略機構である」と非難する談話を発表していた。
それでもトランプ政権は北朝鮮との対話再開の環境つくりの一環として北朝鮮を米国入国禁止対象指定国(19か国)から外す措置を取ったが、北朝鮮は6月9日に「金明哲」というペンネームの国際問題評論家を通じて「我々は米国の入国問題には全く関心がない。興味もなく、大喜びする理由もない。願ってもいない米国入国を許容するからといって我々がそれをいわゆる『プレゼント』として受け止めるだろうと考えたのならば誤算である」と冷淡な反応を示していた。
どうやらトランプ大統領にとっては2018年のシンガポールの夢をもう一度かもしれないが、金総書記にとって忘れられないのはシンガポールよりも交渉が決裂した2019年のハノイであろう。トランプ大統領が会談を打ち切り、途中で席を立ち、会場に一人残された屈辱を味わったからである。
小国の北朝鮮から面会拒否を突き付けられたことでトランプ大統領のプライドが傷ついているならば、一転対話から対決に方針を急旋回する可能性もゼロではないが、トランプ大統領は2017年の一触即発の再現を望んでないことから金総書記の気が変わるまで待ち続けるのではないだろうか。
北朝鮮は年末終了予定の軍事偵察衛星や原子力潜水艦の保有などの国防発展5か年計画を達成するまでは様々な理由をつけて米国との対話を引き伸ばすのではないだろうか。
従って、金総書記が米朝首脳会談を決断するとすれば、5か年計画を完遂し、来年1月に予定されている第9回党大会の開催後になるものと予測される。