2025年6月15日(日)
北から南へは「脱北者」だが、南から北へは「脱南者」ではなく「越北者」 その違いは?
南北を隔てている軍事境界線(韓国合同参謀本部)
朝鮮半島は国土が南北に分断され、南半部を占めている大韓民国(韓国)と北半部を支配している朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が対峙しているため相手地域への移動の自由も、「移民」も認められていない。従って、韓国あるいは北朝鮮での移住希望者は生まれ故郷を脱出するしか手立てはない。
北朝鮮から韓国に脱出(亡命)する人を韓国では「脱北者」と呼ばれている。
韓国の統計によると、その数は2024年12月まで累積3万4314人に達している。物凄い数だ。今年もすでに1月から3月にかけて38人が中国など第3国を経て、韓国に逃れている。
脱北をテーマにした映画も数多く公開され、国連人権委員会ではほぼ毎年脱北者が登場し、北朝鮮の劣悪な人権実態を暴露する証言を行っており、国際社会では「脱北者」という言葉がすっかり定着している。
では、北朝鮮よりも人口が倍の韓国(5200万人)から北朝鮮(2600万人)に向かう韓国人はいないのであろうか?いるならば、韓国では「脱南者」と呼ばれているのだろうか?との単純な疑問が浮かんでしかるべきだ。
今月11日、軍事境界線に近い京畿道の波州市で20代の韓国人男性が夜11時頃に鉄条網を超え、立ち入り禁止の軍事区域に無断侵入する事件が起きた。驚いたことにこの男性は約1週間前に京畿道坡州市の北朝鮮に通じている統一大橋の検問所で「板門店に行きたい」と言って、民間人統制区域に無断侵入し、検挙され、現在在宅起訴されていたことがわかった。統一大橋は軍事施設に属し、民間人がここを通過する場合は、軍当局の許可が必要となる。
一度ならず、二度も北朝鮮側に入ろうとした動機については目下調査中だが、韓国当局もメディアも「脱南」とは呼ばず、「越北」という言葉を使っていた。「脱南者」ではなく「越北者」なのである。自由の国、韓国から逃げることはあってはならない,あり得ないとの概念から「脱南者」という表現を用いないのであろう。
思えば、韓国からは昨年10月にも民間人が午後1時頃にバスをジャックし、統一大橋を渡り、北朝鮮に向かおうとして逮捕されるという衝撃的な事件が起きていた。但し、逮捕されたのは韓国生まれの生粋の韓国人ではなく、2011年に脱北し、韓国に定着していた30代の男性だった。
この男性は警察の取り調べに対して韓国からの逃避の動機について▲韓国で生活が苦しかったことと▲北朝鮮にいる家族に会いたかったことを供述していた。
男は国家保安法違反の容疑が逮捕された。政府当局の許可なく北朝鮮に勝手に行くことは許されず、国家保安法(第6条)で禁じられているからだ。
北朝鮮の開城まで約20km、車で約30分のところにあるこの場所では2021年9月にも60代の女性が現金と非常食だけを手にし、歩いて北朝鮮に渡ろうとして逮捕される事件が起きていた。検問所でチェックされ、警察に引き渡されたが、この女性もまた「脱北者」だった。哨兵に「北朝鮮に戻りたかった」と動機を語っていた。
北朝鮮にUターン亡命した脱北者は判明しているだけでも2023年末現在、50人に上る。脱北者が北朝鮮に戻りたい理由は主に▲疎外▲貧困▲望郷の3つである。
変わったところでは、2018年8月30日に車に乗った韓国人男性が検問所の制止を振り切り、さらに共同警備区域(JSA)の歩哨所を通り抜け、非武装地帯(DMZ)の入り口にある第4通門を通過したところで逮捕される事件が起きている。男は過去に中国から北朝鮮に不法入国し、板門店で韓国に送還された経歴の持ち主だったことが後にわかり、世間を唖然とさせた。
この逆のパターンがその3か月後に北朝鮮兵士が小型四輪駆動車で板門店の南北境界線を突破しようとしたところ、境界線の約10m手前でタイヤが側溝にはまってしまい、止む無く車から飛び出し、走って韓国側に滑り込んだ事件だ。兵士は追走してきた北朝鮮警護兵らから数十発の銃弾を浴び、半死状態ながらも韓国亡命を果たすことができた。
南北共に自国民の逃亡は厳重に処罰する。軍事境界線上の逃亡、脱出は事実上「敵前逃亡」とみなされ、射殺の対象ともなる。
北朝鮮の脱走兵を扱った韓国映画「脱走」が今月20日に公開されるが、南北問わず軍事境界線からの逃亡はまさに命がけなのである。
お国事情があるにせよ、韓国も北朝鮮も陸続きなので移民としてを認め、また受け入れたらどうかと思うが、おそらく夢物語だろう。