2025年6月18日(水)
「トランプ親書」は拒否 「プーチン親書」は受理 北朝鮮の状況は7年前とは逆転
トランプ大統領と金正恩総書記(朝鮮中央通信とホワイトハウスからキャプチャー)
保守から政権を奪還した進歩派の李在明(イ・ジェミョン)大統領は尹錫悦(ユン・ソクヨル)前政権下で悪化した北朝鮮との関係改善のための布石として米朝首脳会談の復活を願っているが、北朝鮮が思うように反応せず、腐心しているようだ。
大統領就任(6月4日)から約1週間後の6月12日が7年前にトランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)総書記との間で史上初の米朝首脳会談が行われた記念日であることから米朝間で何か前向きな動きがあるのではと期待を寄せていたが、ワシントンから李大統領の手元に届いたのは落胆の知らせだった。
米国の北朝鮮専門サイトで知られる「NKニュース」が前日(6月11日)に金正恩総書記がトランプ大統領の親書の受け取りを拒否していると報じたのだ。「NKニュース」によると、米国はトランプ大統領の親書を国連駐在の北朝鮮の外交官に何度か伝達しようと試みたが、北朝鮮は全く反応しなかったようだ。
その一方で、金総書記は昨日(17日)訪朝したロシアのセルゲイ・ショイグ安全保障会議書記から口頭ではあるが、伝達されたプーチン大統領の「親書」には深い謝意を表していた。ショイグ書記は約2週間前(6月4日)にも訪朝し、金総書記と面談していたが、この時もプーチン大統領のメッセージを伝え、金総書記もまた、ショイグ書記にプーチン大統領宛てのメッセージを託していた。
敵性国家の米国の大統領と「兄弟国」のロシアの大統領への対応が180度異なるのは至極当然のことだが、第1次トランプ政権の時には米朝の間で2018年6月15日から2019年8月25日まで延べ27通の親書の交換があったことを勘案すると、北朝鮮のトランプ大統領への対応は冷淡で、明らかに7年前とは異なる。
逆に、当時は北朝鮮とロシアとの関係は良くはなかった。ロシアは2017年12月までの国連安保理の10回に及ぶ対北制裁に一度も拒否権を発動することもなく米国に同調していた。ラブロフ外相は2017年秋の国連総会での演説で「我々は北朝鮮の核とミサイル冒険を断固糾弾する」と北朝鮮を批判し、またプーチン大統領も5度目の核実験に抗議し、国連安保理決議「2321号」を履行する大統領令に署名していた。それが今では蜜月どころから、両国は「運命共同体」の関係にある。米露の立場が入れ替わたのである。
金総書記がトランプ大統領とラブレターを交換したのは核交渉を条件に偏に制裁解除を望んだからである。そのことはハノイで行われた2度目の首脳会談後の李容浩(リ・ヨンホ)外相の記者会見での以下のような発言からも明らかだ。
「我々が要求したのは全面的な制裁の解除ではなく、国連制裁決議の計11件のうち2016年から17年までに採択された5件で、民間経済と人民の生活に支障を与える項目だった」
ハノイ会談の決裂で望みが叶えられなかった金総書記は「もう制裁解除には執着しない。平和を対話のテーブルで哀願するようなことはしない」と嘆いていたが、金総書記の落胆を傍で見ていた崔善姫外相(当時外務第1次官)は「歴史的に提案したことのない提案を今回、我々は行ったが、米国は受け入れなかった。米国は千載一遇のチャンスを逃した。今後、こうした機会が再び米国に与えられるかわからない」との声明文を読み上げていた。まさにその後の歩みは崔外相の予言通りでバイデン民主党政権下でも北朝鮮は米国の呼びかけに応じることはなかった。
米国や国連が経済制裁を解除しなくても、今ではロシアが経済的スポンサーとなっていることで北朝鮮の台所事情は当時とは比較ならないほど改善されているようだ。
韓国防衛研究所の最近の報告書によると、ロシアへの武器の提供と1万人以上の派兵で北朝鮮は約28兆7000億ウォン(約2兆8650億円)の経済効果を生み出したと推定されている。北朝鮮の2023年の対外貿易規模は約4353億円であることから対露軍事協力がとてつもなく「特需」となっていることが一目でわかる。
平壌訪問を終え、帰国したショイグ書記は金総書記がロシア西部クルスクに工兵や作業員6000人を派遣することを約束したことを明らかにしていた。もちろん無償ではないはずだ。
明らかにロシアは北朝鮮にとっては「金のなる木」である。と同時に、ロシアとの間で有事の際の軍事介入を盛り込んだ「包括的戦略的パートナーシップ」を昨年6月に交わしたことによりロシアは北朝鮮にとって強力な後ろ盾、用心棒となった。
対イランのように米国も簡単には手を出せない。加えて韓国の政権もイスラエルのネタニヤフ政権のような強硬な尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権から平和の提唱者でもあり、北朝鮮に融和的な李在明政権に変わったことで韓国から武力攻撃される心配もない。
ロシアとの関係が円満の間は金総書記はトランプ大統領からの親書を受け取る気はなさそうだ。二股掛けるわけにはいかないからだ。