2025年6月19日(木)

 イラン有事は北朝鮮有事か 外交支持にとどめるのか、それとも軍事支援に踏み切るのか、北朝鮮の選択は!?

訪朝したショイグ元国防相とイラン問題を協議した金正恩総書記(朝鮮中央通信)

 一昨日(17日)、この欄に載せた「プーチン大統領の特使、ショイグ前国防相がまた平壌へ 共同でイランを支援か!」のヘッドラインの記事で「北朝鮮はイスラエルとイランの紛争が勃発して以来、外交部もメディアも不気味なぐらい沈黙を守り続けている」が、「金総書記とショイグ書記との会談結果次第では北朝鮮が公式に反応する日は近い」と予測したが、北朝鮮が今朝、イスラエルを非難する外務省スポークスマン談話を出した。

(参考資料:プーチン大統領の特使、ショイグ前国防相がまた平壌へ 共同でイランを支援か!

 声明ではなく、談話であること、また金正恩(キム・ジョンウン)総書記の代理人である妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長や崔善姫(チェ・ソンヒ)外相の名による談話ではなく、外務省代弁人とランクは低いが、それでも北朝鮮の公式見解であることには変わりはない。

 内容は辛らつだ。「イランが地域の不安定性とテロの根源」と規定し、イスラエルへの支持を表明した主要7カ国首脳会議(「G7」)の共同声明とは真逆である。

 談話の冒頭でイスラエルの空爆を「主権国家の自主権と領土保全を無残に踏みにじる極悪な侵略行為であり、絶対に許すことができない反人倫犯罪である」とみなし、イスラエルこそが「中東和平の癌的存在であり、世界平和と安全破壊の主犯である」と断じている。

 また、イスラエルを擁護した欧米諸国に対しては「国際社会は中東情勢を抜き差しならぬ破局的な局面へ追い込みながら領土膨張の野望に狂奔するイスラエルを糾弾する代わりに、むしろ被害者であるイランの当然な主権的権利と自衛権行使を問題視し、戦争の炎をあおり立てる米国と西側勢力に厳正な視線を回している」と、非難の矛先を向けている。

 談話では「イスラエルの軍事的攻撃に厳重な憂慮を表し、これを断固と糾弾する」とイスラエルを非難したもののイランへの支持や支援については触れていなかった。「イランの正義の闘争を支持する」とか、「祖国を防御する聖なる戦いを支持する」とかのお決まりの文言は一切なかった。

 この談話では韓国で取り沙汰されている軍事支援などを直接的に示唆する文言は見られなかったが、最後に「中東に新たな戦乱をもたらしたシオニストとそれを庇護する背後勢力は国際平和と安全を破壊したことに対する全責任を負うことになるであろう」と締めくくっているのが多少気になる。

 というのも、金総書記とショイグ国家安保会議書記との会談では「複雑な国際および地域情勢をはじめ相互の関心事となる問題に対する両国指導部の見解と意見が幅広く交換され、完全な見解一致を見た」(労働新聞)からである。

 イランは両国にとって同盟国である。

 ロシアにとってはイランはロシアのウクライナ侵攻を支持し、ドローンなど惜しみなく武器を支援してくれた「恩人」である。北朝鮮にとってもイランは伝統的に数少ない反米の「同志国」である。

 両国には連帯の長い歴史があり、1980年9月に勃発した「イラン・イラク戦争」では北朝鮮はイランを支持し、武器を供給した前歴がある。

 イラン最高指導者のハメネイ師は1989年に初めて訪朝し、その5年後の1994年1月には今後は、趙明禄(チョ・ミョンノク)空軍司令官(故人)が率いる軍事代表団(総勢29人)がイランを訪問し。テヘランでイラン革命防衛隊との間で密かに「新軍事・核協力強化協定」を交わしていた。

 イランへのイスラエルの武力攻撃は直接的には北朝鮮に対する重大な危険を引き起こすことにはならないが、イスラエルの武力行使は国際的な反帝・反米戦線に影響を及ぼすとの認識に立てば、外交的な支持にとどまらず、「イランの有事は北朝鮮の有事」とみなし、物理的な支援も視野に入るだろう。

 その場合は、外務省代弁人談話よりも権威のある外相の談話か、金総書記の代理人である金与正(キム・ヨジョン)党副部長名義の談話が事前に出されるだろう。

 現に、金与正副部長はウクライナに侵攻したロシアに対抗するため米国が地上攻撃用戦闘装備の支援を決定した2023年1月には深刻な憂慮を表明し、「我々は国家の尊厳と名誉、国の自主権と安全を守るための戦いに決起したロシア軍隊と人民といつも同じ塹壕に立っているであろう」との談話を発表していた。

 また、崔善姫(チェ・ソンヒ)外相も半年後の7月27日に談話を出し、「米国が追随国家ですら躊躇っている大量殺戮を兵器をウクライナ戦争に投入し、使用するならばとてもつない災難的結果を覚悟すべきである」と警告し、最後にロシアの侵攻を「正義の偉業」として「固い支持と連帯」を表明していた。

 北朝鮮が2023年9月の金総書記の訪露を機にロシアに本格的に武器を提供し、1年後の2024年10月からは軍人まで派遣したのは周知の事実である。