2025年6月2日(月)

 勝てば「国家元首」 負ければ「囚人」の韓国大統領選挙

与党の金文洙候補(左)と野党の李在明候補(韓国中央選挙管理委員会から)

 「政権維持」か、それとも「政権交代」かの天下分け目の韓国の大統領選挙は明日(6月3日)が投票日である。

 与野両陣営とも必死だ。勝つためならば手段を選ばない。遊説では対立候補にありとあらゆる罵詈雑言を浴びせている。名誉棄損で告発、告訴されようがお構いなしだ。当選さえすれば、すべてはご破算となるからだ。

 韓国はお国柄「政敵」には容赦しない。というのも「勝てば官軍、負ければ賊軍」となるからだ。韓国流に例えるならば「勝てば国家元首、負ければ囚人」となるからだ。

 韓国の政治家は相手の疑惑や不正を追及する際には必ずと言っていいほど「カモゲカンダ(監獄に行く)」の言葉を発する。監獄は刑務所を指すが、今回の大統領選挙でも相手候補を攻撃する際の常套手段として使われている。

 確か、前回の大統領選挙も「犯罪者同士」の大統領選と囁かれ、「敗れた候補は刑務所行き」と揶揄されていた。

 前回の組み合わせは今回とは逆に当時与党だった「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補の対抗馬として野党「国民の力」からは前身の「自由韓国党」の代表だった洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員と文在寅(ムン・ジェイン)政権に反旗を翻した尹錫悦(ユン・ソクヨル)前検察総長が出馬した。

 洪候補は対立候補の李候補とライバルの尹候補を指して「与党の主要候補は『大庄洞土地開発疑惑』(李候補の側近が逮捕された経済疑獄)の主犯としてこれから調査を受けなければならないし、野党の主要候補も義母、妻、そして本人と、調査次第では刑務所に入らなければならない」と前置きし、「これでは犯罪大統領選挙だ。犯罪者同士が戦う大統領選挙が正しい選挙と言えるのか」と痛烈に批判していた。

 遊説期間中も自身のSNSで「26年も政治をやっていて、こんな呆れたことは初めだ。仮に彼らが大統領となったとしたら国民は犯罪大統領に従えるのか?捜査を受けている者が大統領選挙に出て主要候補となっていること自体が馬鹿馬鹿しいことだ。『大庄洞土地開発不正』の主犯として追われているのに大口を叩き、『告発けしかけ事件』(尹候補が検察総長当時、検察に批判的な人物を告発するよう側近の検事を通じて野党に働きかけた疑惑事件)と妻の株価操作事件があるのに候補になろうと立ち回っているとは本当に荒唐な選挙をしている」と嘆いていた。

 結局、人身攻撃をしていた洪候補は野党の予備選の結果、落選し、大統領選挙は李在明候補と尹錫悦候補の一騎打ちとなったが、李陣営も尹陣営も「容疑が明らかになれば、監獄に行かなければならない」と、猛烈に言い合っていた。

 落選した李在明候補は「大統領選で負ければ、無実の罪で監獄に行くことになりそうだ」と覚悟しもののものの実際には収監はされず、捲土重来3年後、再び大統領選挙に挑戦したことから今回の選挙でも再びこの「カモゲカンダ(監獄に行く)」が飛び交い始めている。

 日本では選挙が終われば、恨みっこなしで終わるが、「恨」の国の韓国ではそうはいかない。

 先月世論調査会社「韓国リサーチ」が韓国紙「韓国日報」の依頼で実施した世論調査(5月12−13日)によると、53%が「李在明候補が当選すれば、政治報復をする」と回答していた。

 李在明陣営は与党の金文洙(キム・ムンス)候補を金銭授受や虚偽発言など公職選挙法容疑や内乱同調容疑で告発している。李候補自身も5月30日、「JTBC」TVのユーチューブ番組で「内乱終息のために責任・同調者をすべて捜し出して糾明し、責任を問わなければならない」と、断固対処することを明言している。

 金文洙陣営もまた李候補を名指しで「李在明は前科4犯の多くの罪を犯した人物だ。刑務所行きの人物が大統領になれば、この国は犯罪だらけになるだろう」と、批判のオクターブを上げていた。李候補は現在、4つの裁判を抱えており、「虚偽事実公表容疑」(公職選挙法違反)関連裁判ではすでに有罪判決が下され、議員資格と被選挙権の剥奪に加え、収監の危機に晒されているのは周知の事実である。

 与野党候補の激しいバトルは単なる売り言葉に買い言葉というレベルを通り過ぎ、完全に「やるかやれるか」の、言わば「仁義なき戦い」となっている。

 20世紀ドイツ史研究会の「ヒトラー 悪の言葉101」の中に「マルクス主義が勝利すれば、我々は滅ぼされる。逆に我々が勝利すれば、マルクス主義が根こそぎ滅びる。我々も容赦しない」との言葉があるが、韓国の大統領選挙は今まさに妥協の余地のない権力抗争、イデオロギーの戦いの場に化している。