2025年6月20日(金)

 北朝鮮の対イラン武器支援は現実には不可能!

パナマ運河で臨検された北朝鮮の貨物船「清川江号」(「今日の朝鮮」から)

 イスラエルとイランの報復合戦はエスカレートする一方だ。

 イスラエルは首都テヘランの制空権を握り、イランの主要目標への空爆を続けているが、これに対してイランはミサイルでの反撃を試みているもののミサイルの保有数にも限りがあり、加えてミサイル発射台を破壊されるなど苦戦を強いられているようだ。

 このまま戦闘が続き、仮に米国までイスラエルを後方支援し、イラン攻撃に加わるようだと、イランの敗北は目に見えている。

 イラン最高指導者のハメネイ師は「絶対に降伏はしない」と徹底抗戦の姿勢を崩していないが、持ち堪えるには反撃手段である弾道ミサイルやイスラエルの空からの攻撃を交わす迎撃ミサイルを調達しなければならない。

 イランからイスラエルまでの距離は最短で約1000km。従って、中距離ミサイルでなければ届かない。中距離ミサイルを保有しているイランの友好国はロシア、中国などに限られている。

 中国はイランに石油の利権を有していることもあって心情的には「反米」のイランを支持しているが、イスラエルとも国交を結んでいることから中立的立場を堅持しており、一方、ロシアはプーチン大統領がイランから支援要請がないことや今年1月にイランとの間で交わした「包括的戦略パートナーシップ条約」に防衛に関する相互援助が含まれていないことにより現状では傍観している。

 そうなると、イランが求めている武器の支援をできる国は反米、反イスラエルの「同志国」である北朝鮮しかいない。

 その北朝鮮は昨日、外務省代弁人の談話を発表し、イスラエルの空爆を「主権国家の自主権と領土保全を無残に踏みにじる極悪な侵略行為であり、絶対に許すことができない反人倫犯罪である」と批判し、返す刀でイスラエルを擁護した欧米諸国に対しても「領土膨張の野望に狂奔するイスラエルを糾弾する代わりに、むしろ被害者であるイランの当然な主権的権利と自衛権行使を問題視し、戦争の炎をあおり立てている」との批判を展開していた。

 談話ではイランに対する軍事支援にまでは踏み切っていなかったが、仮にイランが求めているミサイルなどの支援を行う場合、それが現実的に可能なのだろうか。

 北朝鮮はウクライナに侵攻したロシアにはロシア版イスカンデルと称されている「火星―11カ」(KN−23)や米国製ATACMSに近い「火星―11ナ」(KNー24)などの戦術誘導ミサイルを提供したが、いずれも射程450〜500kmの短距離ミサイルである。それも日本海に面した北朝鮮の港でロシア船に積載するか、国境都市の羅先〜ハサン間の鉄道で運搬している。

 仮に北朝鮮がイランに武器を鉄道輸送する場合は、陸続きの中国もしくはロシア経由となるが、両国が中継を承諾しない限り、また両国が承諾したとしてもイランまでの通過地点のパキスタンやアフガニスタン、あるいはウズベキスタンやトルクメニスタンなどが第3国許可しない限り、不可能である。

 空路の場合はどうか?

 仮にイランが空輸機や貨物便で運ぶとしても、イランの空港や空軍基地はほぼ麻痺状態にあるどころか、イスラエルに制空権を握られていることから迎撃される可能性が高く、これまた困難である。

 残りは、海路による輸送、即ち貨物船による運搬しかないが、北朝鮮からの武器の輸出入は国連安保理の制裁対象に指定されており、北朝鮮の貨物船は監視の対象となっていることからこれも容易ではない。実際に、北朝鮮の貨物船は過去に何度か、行く手を阻まれたことがあった。

 例えば、2002年12月にイエメンに武器を運ぼうとした北朝鮮の貨物船が米国からの要請を受けたスペイン海軍によって臨検され、武器を押収されている。

 また、2009年にはシンガポールに向け出港した北朝鮮の貨物船「カンナム号」が米国の偵察機とイージス艦「ジョン・S・マケイン」に追跡、追尾されたことがあった、

 偵察衛星では北朝鮮の港から荷揚げされた荷物の中身まではチェックはできないため海上では臨検はできないが、大量破壊兵器を積んだ疑いがあると信じるに足る理由があれば、最寄りの国に向かうよう指示し、そこでの船舶検査は可能となる。

 結局、「カンナム号」は米海軍の艦船に監視、追尾されたため南浦を6月17日に出港してからどこにも寄港しないまま約20日間、公海を航行し、南浦港にUータウンせざるを得なかった。

 さらに2013年にはキューバから出港した北朝鮮の貨物船「清川江号」がパナマ運河で臨検され、 ミサイルや関連部品、さらにはミグ21戦闘機など兵器が発見される事件も起きている。

 北朝鮮の貨物船の多くは国連安保理の制裁対象に指定されているが、仮にこうした「要注意の船」を使えば、それこそ一巻の終わりである。制裁対象に指定されていない第3国の貨物船、例えばロシアの貨物船などを使う手もあるが、それでも北朝鮮に寄港した貨物船は「要注意」の扱いとなっているのでこれまたリスクが伴う。

 北朝鮮はイランに武器の支援をしたくてもおそらくできないであろう。

(参考資料:イラン有事は北朝鮮有事か 外交支持にとどめるのか、それとも軍事支援に踏み切るのか、北朝鮮の選択は!?)