2025年6月21日(土)

 北朝鮮は米国の3度の核施設攻撃威嚇にも白旗を上げなかったが、イランは?

1994年の第1次核危機の時に訪朝したカーター大統領と金日成主席(労働新聞)

 トランプ政権はイランに対して無条件降伏を迫っている。イランが2週間以内に核放棄を決断しなければ、イスラエルに加勢し、イランを攻撃し、バンカーバスタ ー(地中貫通爆弾)で核施設を破壊することが検討されているようだ。

 本気なのか、ハッタリなのか、定かではないが、トランプ大統領の威嚇にイランが屈服するかどうか、どの国よりも注視している国がいる。北朝鮮である。北朝鮮も過去、3度、核関連で米国と遣り合った過去があるからだ。

 1度目はクリントン政権下の1994年である。

 クリントン政権下の1994年6月、核問題で火花を散らしていた米国と北朝鮮は一触即発の状態にあった。

 ペリー米国防長官(当時)は6月16日にホワイトハウスで開かれた安全保障会議でクリントン大統領(当時)に対して「いつかは米国に向け発射されるかもしれない核を北朝鮮が持つことを放置するのか、戦争のリスクを冒してでも北朝鮮の核保有を阻止するのか」どちらか一方を選択するようクリントン大統領に求めた。

 クリントン大統領はすでに5月19日の時点でシュリガシュビリ統合参謀本部議長(当時)とラック駐韓米軍司令官(当時)から戦争シミュレーションのブリーフィングを受けていた。

 「戦争が勃発すれば、開戦90日間で@5万2千人の米軍が被害を受けるA韓国軍は49万人の死者を出すB戦争費用は610億ドルを超える。最終的に戦費は1千億ドルを越す」 

 最後は米軍が勝利するが、その被害状況は想像を絶するものだった。この戦争瀬戸際の状況を回避させたのがカーター元大統領だった。

 カーター元大統領はまさに安全保障会議が行われていたその日(16日)に平壌を電撃訪問し、金日成(キム・イルソン)主席と直談判し、事態を収拾させた。これにより戦争は回避された。この年の10月に米朝はジュネーブで軽水炉及び原油の提供と核施設の解体で合意し、事態を収拾させていた。

 後にペリー国防長は回想録で「僅か1時間で歴史が変わった」と、カーター元大統領からの連絡が1時間遅れていたらクリントン大統領は「戦争を決断していた」と述懐していた。

 2度目はブッシュ政権下の2003年である。

 政権発足(2002年1月)直後から北朝鮮を「悪の枢軸」と非難していたブッシュ大統領(当時)は北朝鮮が2002年12月に核凍結解除を宣言し、核施設の封印と監視カメラの撤去、加えてIAEA(国際原子力機関)査察官の追放という強硬手段に出たばかりか、2003年2月にはついにNPT(核不拡散条約)からの脱退を宣言したことに激怒し、訪米していた中国の江沢民国家主席(当時)に対し「外交的に解決できなければ、北朝鮮への軍事攻撃を検討せざるを得ない」と、警告していた。 

 ところが、江主席を通じてブッシュ大統領の警告を聞かされたのに北朝鮮はひるむどころかより強硬に出て、核燃料棒の再処理を開始したことからブッシュ大統領は「金正日(キム・ジョンイル)のような暴君による暴政を終息させる」と脅し、ライス国務長官(当時)もまた「米国は武力行使を排除しない」と、北朝鮮を威嚇した。

 実際にブッシュ政権は暴政を終息させる手段として兵糧攻めに出て、2005年9月にはマカオのバンコ・デルタ・アジア銀行にある北朝鮮関連口座を差し押さえたが、それでも北朝鮮は逆に2006年7月には人工衛星と称して長距離弾道ミサイルを発射し、そして10月には史上初の核実験で対抗した。

 最終的に2007年6月に金融制裁の解除と冷却塔の爆破の相互措置を取ったことで翌7月には6か国首席代表会議が再開され、10月末までに核施設の不能化とエネルギー支援を完了させることで合意した。ブッシュ政権はこの合意を履行するため2008年に北朝鮮に対するテロ支援国指定を解除した。

 3度目は第1次トランプ政権下の2017年である。

 トランプ第1次政権は北朝鮮の核ミサイル開発を放置してきたオバマ前政権の「戦略的忍耐」の方針を見直し、新たな対北戦略を検討した。その戦略の中には北朝鮮の核脅威を弱体化させるための軍事力の行使や政権交代が含まれていた。

 トランプ政権の目標は核実験を止めない北朝鮮の核武装の解除にあった。それもこれも、金正恩(キム・ジョンウン)総書記が2017年の新年辞で「大陸間弾道ロケット(ICBM)試験発射準備が最終段階に達した」と威嚇したことが引き金となった。従って、軍事作戦上の攻撃目標は米国を脅かす核施設とミサイル格納庫に絞られた。

 軍事オプションにはソウルを重大な脅威に陥れないための先制攻撃が、また政権交代の手段として金正恩(キム・ジョンウン)総書記の斬首作戦が盛り込まれた。

 マティス米国防長官(当時)は2017年10月9日、ワシントン市内で講演後の質疑で「今後どうなるかは分からないが、大統領が必要とした場合に取ることができる軍事的選択肢をしっかり用意しておかねばならない」と述べた。また、トランプ大統領は2日後の11日、FOXとのインタビューで「北朝鮮問題は25年前、20年前、5年前に終わらせるべきだった。周知のように今は(北の核・ミサイルは)進展してしまった。今、何かをしなければならない。我々はこのまま放置するわけにはいかない」と述べ、軍事力の行使を示唆した。

 「予測不能」のトランプ大統領と「統制不能」の金正恩総書記のチキンレースはトランプ大統領の国連総会での「不良国家、犯罪国家の北朝鮮を完全に破壊する」との宣言と、金総書記の「言葉の意味もわからず好き勝手なことを言っている老いぼれには行動で見せるのが最善である。米国の老いぼれた狂人を必ず、火でしずめるだろう」の罵倒でクライマックスを迎えた。

 ところが、国連のジェフリー・フェルトマン事務次長が平壌の招請を受け12月5日から9日まで平壌を訪問し、何と「金正恩との会談を希望している」とのトランプ大統領のメッセージを伝えたことで急転直下、米朝の最悪の事態が回避された。

 その後判明したことだが、事前に事務次長の訪朝を伝えるためホワイトハウスを訪れたアントニオ・グテーレス国連事務総長はトランプ大統領から「フェルトマンは平壌に行って、私が金正恩との会談を希望しているとのメッセージを伝えてもらいたい」と託されていたのである。

 翌2018年6月にシンガポールで史上初の米朝首脳会談が実現したことは周知の事実である。