2025年6月26日(木)
トランプ大統領に翻弄されるイランと北朝鮮
ロウハーニー大統領(当時)と会談した故金永南最高人民会議委員長(労働新聞から)
イランと北朝鮮は1979年のイラン革命によるホメイニー政権発足以後同盟関係にあり、核とミサイル開発でも長年、協力関係にはある。しかし、対米外交(核交渉)では共同歩調を取っていたとは言い難い。
イランはオバマ政権下の2015年7月15日、国連安保理の経済制裁発動から9年目にして米国を相手に制裁解除を条件に核保有、核武装をしないことを高らかに宣言した。
このイランの決定に北朝鮮外務省は一週間後に「イランと我々とは実情が異なる。結び付けること自体が話にならない」との談話を出した。中国やロシアを含め国際社会で「イランの次は北朝鮮」の声が沸き起こったからだ。
まだ核を保有してないイランとの違いを殊更強調した上で「一方的に先に核を凍結したり、放棄したりすることを論じる(米国との)対話には全く関心がない」とイランに倣う気がないことも明かにした。イランを正面から批判しなかったものの「一方的に、先に核を凍結、放棄した」「反米同志国」のイランに明らかに不快感を示していた。
それから3年後の2018年6月12日、今度は北朝鮮がシンガポールでの米朝首脳会談に合意したことについてイランが反発した。
「北朝鮮の指導者はどのような種の人間と交渉しているのか分かっているのか」と金正恩(キム・ジョンウン)総書記がトランプ大統領を相手に会談したことに不満を示し、北朝鮮に対して「米国の本質は楽観できるものではなく、注意深く対応すべきだ」と釘を刺した。
シンガポールで▲朝鮮半島の恒久的平和▲米朝の新たな関係構築▲非核化を骨子とした米朝共同声明が発表されてもイラン政府のノバフト報道官(当時)は「北朝鮮が交渉しているのは知性のない米国の政治家だ。帰国するまでに合意を取り消さないかも不透明だ」と述べ、トランプ大統領を「信用すべきでない」との見方を示していた。
イランは金総書記が決断した米朝首脳会談について「米国の振る舞いや意図については懐疑的であり、極めて悲観的に見ている」と冷淡な反応を示す一方で、トランプ政権の「イランが望めば会う」との対話の呼び掛けに最高指導者ハメネイ師直属の精鋭軍事組織「革命防衛隊」のジャファリ司令官(当時)は「イランは会談を受け入れた北朝鮮とは違う」と、3年前の北朝鮮と同じようなことを言ってのけた。
イランが予測したように案の定、翌年(2019年)2月にハノイで行われた2度目の米朝首脳会談が破綻すると、ザリーフ外相はそれ見たことかと「トランプ大統領の見せかけの政治ショーやシャッターチャンス、いきなりの政策変更が真剣な外交とは全く異なるということに(北朝鮮は)気づくべきだった」とツイートしていた。
立場変れば、言動も異なるものだが、トランプ政権に翻弄されている点においては両国とも共通しているようだ。
イランはトランプ政権がイラン核合意からの一方的な離脱を表明した時「この男(トランプ大統領)は米国民を代表していない」とし「トランプ相手にせず」の立場を貫いてきたが、その結果、米国に核施設を空爆され、事実上、米国の仲介を受け入れ、宿敵イスラエルとの停戦に応じざるを得ない羽目に陥ってしまった。
北朝鮮の外務省代弁人は今回の米国及びイスラエルの空爆を2度にわたって「主権国家の領土保全と安全利益を乱暴に蹂躙した」と糾弾していたが、今回に限っては直接的なイランへの同情も連帯表明もなかった。
米国との核交渉に応じるべきか、それとも初志貫徹で核武装の道を進むべきか、イランも北朝鮮も難しい選択を強いられているが、両国にとっては2003年12月に核計画放棄宣言に続き大量殺傷兵器(WMD)破棄し、その結果2006年5月にテロ支援国リストから外され、米国と国交正常化を果たしたリビアのカダフィー政権が5年後の2011年3月に米軍に軍事攻撃され、5か月後の8月に崩壊したことがどうやらトラウマになっているようだ。
(参考資料
:トランプ政権は北朝鮮の核施設も攻撃できるのか?)