2025年6月28日(土)
「北朝鮮との葛藤を解決する」の「トランプ発言」に北朝鮮は反応するか
軍事境界線を跨ぎ、北朝鮮側に入った第1次政権時のトランプ大統領(韓国大統領室)
トランプ大統領が6月27日(現地時間)に「北朝鮮との間に葛藤があるなら、私は葛藤を解決する」と述べ、「私は金正恩(キム・ジョンウン)と良好な関係を維持してきた」と、いつものように金総書記との個人的な関係を強調していた。
同大統領のこの発言は米国の仲裁によって平和協定を締結したコンゴとルワダの外相をホワイトハウスに招待した席で飛び出した。記者から「金正恩に書簡を送ったのは事実か」と質問され、このように答えていたのだ。しかし、トランプ大統領は手紙を送ったのかどうかについては明言しなかった。
米国の北朝鮮専門ニュースサイト「NKニュース」は今月11日、トランプ大統領が対話の再開を目ざし、金総書記に親書を再三伝達しようとしたが、北朝鮮側が受け取りを拒否していると報じていた。
何よりもトランプ大統領の発言が平和協定に関連する場で出てきたことに関心を払わざるを得ない。北朝鮮が米国に一貫して平和協定の締結を求めていたからだ。
朝鮮半島の非核化と米朝の新たな関係を築くことで合意したシンガポールでの米朝首脳会談は2019年2月のハノイでの2度目の会談で決裂したが、トランプ大統領は4か月後の6月30日に板門店で金総書記と3度目に会い、軍事境界線(DMZ)の仕切りを跨ぎ、北朝鮮側エリアに入った。このことについてトランプ大統領は1か月後、「私は朝鮮戦争を終わらせる大統領になる」と公言していた。
当時、米朝首脳会談を仲介した文在寅(ムン・ジェイン)元大統領は回顧録「辺境から中心へ」によると、ハノイ会談がノーディルに終わったことについてトランプ大統領は文元大統領に「後悔している。申しわけない。私は受け入れるつもりだったが、ボルドン補佐官が猛烈に反対し、ポンペオ国務長官も同調したためどうにもならなかった」と言っていた。
朝鮮戦争終結宣言はある種の「政治宣言」である。完全な戦争終結を意味する平和協定とは厳格に異なる。従って、最高指導者の同意次第で可能である。
第2次トランプ政権は金正恩政権との対話再開の環境つくりの一環として北朝鮮を米国入国禁止対象指定国(19か国)から外す措置を取ったが、北朝鮮からは実に素っ気ない反応が返ってきた。
北朝鮮は6月9日に「金明哲」という名の国際問題評論家を通じて「我々は米国の入国問題には全く関心がない。興味もなく、大喜びする理由もない。願ってもいない。米国入国を許容するからといって我々がそれをいわゆる『プレゼント』として受け止めると考えるならば誤算である」と冷淡な反応を示した。
トランプ大統領の今回の「北朝鮮との葛藤を解決する」の発言には過去の例からしておそらく金与正(キム・ヨジョン)党副部長が対応するかもしれない。
というのも、トランプ第1次政権の時にトランプ大統領の親書受理を公表した2020年3月22日と7月10日と過去2回、金副部長が直接回答しているからである。注目すべきは7月10日の談話である。これが事実上、トランプ大統領への最後通牒となっていた。
「私の個人の考えではあるが、朝米首脳会談のようなことが今年にはあり得ないと思う。しかし、両首脳の判断と決心によってどんなことが突然起こるかは、誰も分からない。明白なのは首脳会談を必要としているのは米国で会って我々ではない。我々にとっては非実利的で無益である。我々は期待していない。また応じる必要もない。時間だけ無駄というものである。(中略)米国は内心ハノイ会談の時の交渉条件に回帰したいようだ。部分的な制裁解除で我々の核中枢が麻痺したかもしれない。取引条件が合わないのに我々が危険を冒したのは人民の生活向上を優先させたからだ。しかし、金正恩委員長は6月30日の板門店会談で華麗な変身と急速な経済繁栄の夢を見て我々の制度と人民の安全と未来の担保なく制裁解除とは決して交換しないことをはっきりと伝えた。また、米国が強要した苦痛が反米憎悪に変わり、米国が主導する執拗な経済封鎖を乗り切り、我々式、我々の力でやっていくことをはっきりと伝えた。我々は経済制裁問題を米国との交渉議題から完全に投げてしまった。今後は『非核化措置対制裁解』ではなく、『敵対視撤回対米朝交渉再開』の枠に変えるべきだ。米国は今になってハノイ会談で議題となった一部制裁解除と我々の核開発の中心である寧辺の核施設の永久的破棄と取引することを夢見てはならない」
今もこの方針に変わりがなければ、北朝鮮の扉をこじ開けるのは容易ではないが、8月に予定されている米韓合同軍事演習を中止するような措置を取れば、北朝鮮を対話の場に引き戻すことは可能である。
トランプ大統領は春の米韓合同軍事演習は中止しなかった。
「動く海軍基地」と称されている米海軍の航空母艦「カール・ヴィンソン」が3月2日に韓国の釜山軍港に入港した際には金副部長が第2次トランプ政権発足後に初めて前面に出てきて「米国は今年、新しい政府が発足するやいなや、前政府の対朝鮮敵視政策を継承し、我々に反対する政治的・軍事的挑発行為をエスカレートさせている」と非難していた。
それでも全般的に抑制的で、何よりもトランプ大統領を名指しで批判しなかった。米国に向けて「我々の意志と能力を試そうとしてはならない」と、警告を発する程度にとどめ、米国との軍事緊張をことさら高める意思がないことを仄めかしていた。
北朝鮮とすれば、軍事偵察の衛星や原子力潜水艦の保有などの国防発展5か年計画が達成されるまでは米国との対話を引き延ばす作戦とみられるが、仮にトランプ政権が李在明(イ・ジェミョン)政権の同意を取り付けて、米韓合同軍事演習の中止のカードを切った時にはおそらく対応に苦慮するであろう。
米国との対話の場に出るべきか、それとも無視し続けるか、おそらくハムレットの心境に陥るのではないだろうか。